第7話

センリはタバコを吸っていた。

「どこに火があったの?」

「冷蔵庫のコンセントを切ったら出た火花にカーテンを添えただけ」

センリは一息吸った。

「あの、奥さん、ちょっと聞きたいんですけど」

「はい?」

「あそこの天ぷらって食べていいんですか」

裕子氏は呆気にとられた。



顔の至るところが火傷して真皮が露出し薄いピンク色になった辰巳氏が、煙のなかからあらわれた。どうやら火はいたるところに燃えはじめているらしい。私はスマホを見せびらかした。

「消防車が来るまで、あと数十分です。諦めてください」

「なぁ、どうしてあんたらは家族の、俺の幸せを壊しに来たんだ?」

「奏さんや裕子さんがこんな風になって、どうして幸せだといえるんですか?」

「奏か。奏は元気なのか? 奏はなぁ、喉の弱い子で小さい頃なんか喘息もちで夜中によく起こされたよ。それから、少し男の子のような趣味もあったな。クリスマスプレゼントとかには困らされたよ。女の子の好きそうなものを選んでさ。なのに今でも思い出すよ。あの渋い顔をさ」

炎上する廊下から漂う煙で咳き込みながら辰巳氏は隠し持っていた包丁を取り出して私たちに向かってきた。

そしてその先端はセンリの肩に刺さった。

「なぁ、おっさん。来ると思ったよ」

センリは片手に切れたケーブルを掴んでいた。それは延長コードを切ったものだった。

「ほんとに、この世が夢なら早く覚めてほしいよな」

センリは深く息を吸ってから、通電したままのそれを辰巳氏の眼球におし当てた。



燃える火の勢いは衰えることがなかった。

「ネェさん、天ぷらは諦めてはやく逃げないとまずい感じかな?」

「消防車なんか、あんなすぐに呼べるはずないでしょ」

「じゃあどうするの」

「全力で消火するしかないでしょ」

そこから数十分、私たち姉弟は汗だくになって火を消すことになった。




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