第3話

「で、そのオッサンは誰なん」

「私の友達の辰巳奏ちゃんのお父さん」

「てことはまたタダ働きってことか、ハァ」

露骨にため息をついたが、まぁ、こんなおじさんを善意で相手にするのだから嘆きたくなる気持ちは痛いほどわかる。私だってお金をもらわなければ彼にこんな話を寄越したりしない。

前払いで辰巳氏からいただいた金はこのようにステーキハウスで高い肉を食べさせてあげることによって、センリにも還元できる。


「猫の尻舐め野郎なんて、僕にどうこうできるわけないっしょ、普通に考えて」

「病院に連れていくのは家柄てきにまずいそうなの」

「僕みたいなやつと関わるのは良いんか……」

私はセンリに辰巳家の事情を説明した。

小規模ながらも会社の社長をしていること、地縁の深いこと。

「つまり、田舎の小金持ちなので見栄があると」

「奥さんからのお願いで、融資を止められたくないとも言ってた」

「金融機関って事業だけしか見ないんじゃないんすか」

「言いたくない繋がりがあるんでしょうよ」

彼は会計前にもう一度厨房に入りタバコに火をつけた。


ELFの運転手があくびをしながら私たちが横断するのを待っているので駆け足になったがセンリはフィルターギリギリまで吸おうとねぶっていた。そんな彼の腕を掴んで無理やり走らせて運転手に頭を下げた。ツナギの若い男は少しはにかんで発車した。


「よそ見して歩かないの」

「いや、あれ見てよ」

センリの指差した方向には鳩の群れが電線にとまっており、その下に人が通るたび激しい威嚇をしている。

センリはそれを眺めてから深く息を吸い、そして喉仏を挟むように筋を立て空中に孔をあけるような絶叫を鳩にぶつけた。

緊急事態にたまらず鳩は飛び去っていったものの、その中心で火花のように鮮血が飛び散った。

一羽、翼をもがれて地面に落ちてきた。

そして落ちてきた鳩を掴みとり、センリは満足げであった。



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