二十一億の対価

 俺が目を覚ましたのは、かなり広い寝室だった。

 俺の横で、レイが椅子に座ってぼんやりと外を見ていた。

 俺が身体を起こそうとすると、レイは気がついて、手助けしてくれた。

「大丈夫?」

「いや、あまり状態は良くないな」

 俺が身体を起こしたときの体調は最悪だった。

 なんと言えばいいのか、全身を覆うけだるさがまったく解消していない。

「回復魔法を試してあげようか?」

「そんなのつかえるのか。頼む。少し楽になるかも」

 レイの掌から薄い緑色の光が放たれ、俺の全身を覆っていった。

 それと共に、俺の疲労感が少しだけ和らいだ気がする。

「ありがとう。少しだけ回復したよ」

 レイは俺の言葉に不満そうに言ってくる。

「少しだけ? 今のって完全回復魔法なんですけど――」

 俺は、自分のステータスを見てみた。

 生命力は六五五三五に回復していた。

 だけど、赤く表示された属性項目が沢山あった。

 それは精神力、魔力、体力、力、など、基礎的な数値に関わるものばかりだった。

 それらが、一から二〇までの範囲でばらけていたけど、その右にマイナスの数値が付いていて、差し引くと〇か一しかない状態だった。

 大失敗だ。

 考えてみればあたりまえのことだ。

 何のリスクもなく、プロパティの設定を変えるだけで、属性が変化するなんてことがあるはずがない。

 実際のステータスは、それぞれが相関して効果を発揮する。

 俺は短時間で力を使いすぎたんだろう。

 レイに聞いたんだけど、俺は城に向かう途中で意識を失い、祝勝の宴に参加することは出来なかったらしい。

 俺のプロパティを見ると、精神や基礎体力に関わる属性が軒並み赤くなっており、現在値が0と1の間を行き来している状態だった。

 要するに、戦闘関係の数字をいじる前に、俺自身の精神力や体力やらを鍛えないと、最後に俺自身の体調に影響すると言うことなんだろう。

 そして、分かってはいたけど、精神力は変更しても、すぐに元の数字に更新された。

 やばい。

 やっぱりこの世界、無理ゲーに近いかも。

 生命力だけは元に戻して、攻撃力やその他の数字は現実的な数字に戻した方がいい。

 戦闘中に意識を失って、その間に殺されるなんてゴメンだ。

「あんたってば、あたしと戦うために、相当無理をしたのね。まあそりゃ無理ないけど、次からは気をつけなさいよね。あたしも助けるからさ」

 レイはこの城まで俺を運んでくれたらしい。

 最初は騎士達ともめたようだけど、レイの迫力に負けて、引き下がったと言うことだった。

「あの騎士達、あたしがあんたのパートナーだって全然認めなくてさぁ、ホントにむかついたよっ」

「は? パートナーって俺も初耳だけど?」

 俺が呆れたように言うと、レイは大慌てで俺の肩を掴んで言った。

「ななな何言ってるの! あたしの真名を付けたあんたが、パートナーに決まってるでしょ! あんた、ちゃんと責任取るって言ったでしょ!」

 言ってない。それはレイが勝手に言っただけだ。

「因みにパートナーって何するの?」

「一緒に冒険して、暮らして、幸せな家庭を作るの。あたし、ずっと一人だったから実は憧れていたんだあ」

「は? 家庭って何だよ? 何を期待してる?」

「大丈夫。あんたの性癖全部満たして満足させてあげるからっ。あたしってば、命令すれば従う相手ばっかりだったから、誰かにご奉仕するのが憧れだったんだ」

 そう言った後、言葉を継いだ。

「もちろん、誰でもいいわけじゃない。あんたみたいに強い奴じゃなきゃダメだよ。あ、そう言えば、あたしってばあんたの名前をまだ聞いてない。教えてよ」

 今更感が半端なかったけど、教えることに抵抗はなかった。

「岡田幸一だよ。コウイチって呼んでくれ」

「あんまり聞かない名前だけど、どこ出身なの?」

「別世界。ここからすれば異世界だよ」

「異世界?」

 レイは俺の言葉に真面目な顔をして言ってきた。

「コーイチ。あんたに一つアドバイスをするけど、異世界出身だって公言しない方がいいよ」

「なんで?」

「異世界は魔王の世界だって言われているから、変な誤解を生みたくないでしょ?」

「分かったよ。だけどエンシェントドラゴンも魔王を恐れているのか?」

「あたしは負けないし、怖くもないわ。あたりまえでしょ? だけど、魔王を殺せるのは勇者だけなの。ドラゴンでは殺せない。だから、魔王の出現は意識するしかないでしょう」

「変な決まりだな」

「ドラゴンには色々な決まりが一杯あるの。本当に面倒なんだ」

 レイはうんざりしたように呟いた。

「だけど、パートナーが出来ると出来る事が一杯増えるの。子供だって作れるんだから。これって凄いことなのよ。あんたには真名を付けてもらったし――」

 レイはその後、雰囲気が滅茶怖くなった。

「――あんただって文句ないよね?」

 脅迫だった。

「それでは脅迫ではありませんか!」

 その言葉は、ドアの方から響いた。

 それは王女のルイーゼだった。

 レイは敵意を隠そうともせずに、嘲りの表情で言う。

「これはこれは、フレデリカ姫ではありませんか。ですが、パートナーとあたしの会話に無関係の王女が口を挟むのはご遠慮下さい」

 フレデリカ姫? ルイーゼじゃないの?

 俺が最初に思った疑問だ。だけどすぐに思い出した。

 あ、そう言えば、真名がルイーゼか。

 だとすれば普通の名前はフレデリカなんだろう。

「いいえ。貴方がこの勇者のパートナーだというのなら、私はこの勇者の一部です。無関係なはずがありません」

 王女が俺の一部?

 どう言う意味でこの王女(フレデリカ)は言っているんだ。

「あの、それってどう言う――」

 俺の言葉を軽く無視して、二人の言い争いが始まった。

 エンシェントドラゴン対王女の異種格闘バトル。

 体調最悪の時に、頭痛の種を持ち込まれて、俺は再びベットに潜り込むことにした。

 俺が横になったときのどさっと言う音に驚いて、二人が声をそろえて言ってきた。

「大丈夫?」

「まだ体調が戻らないから、面倒毎は後にしてくれ」

「はいっ」

 これも二人同時だった。

 絶対この二人は同じタイプだ。

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