レイとフレデリカ

* * *


 その人が突然倒れたことに、レイは恐慌状態に陥った。

「どど、とうしたの? 何かあったの?」

 その場で横にした後、レイは自分が持つ全ての回復魔法を使って回復を試みた。

 だけどまったく効果がなかった。

 正確には効果があったように見えるけど、その効果は極めて小さかった。

 ――あたしの攻撃が今になって効いてきたんだ!

 レイはそう考えるしかなかった。

 せっかく見つけた大切なパートナー。

 真名をくれた大切な人。

 まだ名前だって聞いていなかった。

 涙を流しながら、その人の胸に自分の頭を押しつけた。

 どくん。どくん。

 心臓の鼓動が聞こえる。呼吸も一定周期でしているようだった。

 大丈夫だ。

 恐らく、エンシェントドラゴン(レイ)と戦った疲労で、倒れただけだ。

 絶対そうだ。

 レイは自分にそう言い聞かせて、その人を背負おうとした。

 だが、その様子を見た騎士達は、声を荒げた。

「まて、そのお方をどこに連れて行くつもりだ!」

「あたしの家に決まってるでしょ。さっきの戦いで全ての力を使い果たしたんだ。もう身動きできないんだよ。だから、あたしの家で介抱してあげるの」

「ふ、ふざけるなっ。貴様が誰かは知らぬが、先ほど、この勇者様がフレデリカ姫に言われた言葉を聞いただろう。介抱するというのであれば、城に運ぶのが当然だ」

「あたしはこの人のパートナーよ。あたしが助けるのが当然に決まってるでしょ。あんた達は、さっきの戦いと同じように、ただ傍観していなさい」

 レイの言葉に騎士達はいきり立った。

「言わせておけば――」

「何よ? あたしと戦うつもりなの? 言っておくけど、あたしは甘くないわよ」

 レイが一瞬で闘気をまとうと、次の瞬間それは世界に響くほどのオーラに変わった。

 それは先ほどの戦いの比ではなかった。

 レイは焦っていた。この人を早く助けたいと願っていたからだ。

 それを止めたのは、フレデリカだった。

「待ちなさい。この人を大切に思うのは私たちも同じこと。ここは、お互い譲歩しましょう。貴方はこの勇者様のパートナーと言われましたね?」

「そうよっ」

「それは本当ですか? 私たちにそれを証明できますか?」

「それは――この人が目を覚ませば――」

「でしたら、私たちは貴方をいったん仮のパートナーと認めますから、我々の城に一緒に来ていただけますか。そこでこの方が目覚めたとき、確認することにしましょう」

「何でそんな確認が必要なのよ? あたしはこの場を力で切り抜けられるのに」

「いいえ。もしそんなことをすれば貴方はこの方のパートナーたり得ないでしょう。この方は、我々の国を守るために一人でエンシェントドラゴンと戦った勇者です。その方が、同じ目的で結集した我々騎士団を殺そうとするなら、貴方がパートナーであるはずがないでしょう。それに、この勇者は私を所有されたのですよ?」

 最後の台詞にフレデリカは頬を染めていた。

 ――むかつく。特に正論なのが許せない。

「分かった。だけど、この人はあたしが背負う。これは譲れないから」

 レイはその人を負ったまま、城に向けて駆けた。

 それは騎乗の騎士を置いていくほどの速度だった。

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