グリフォード騎士団と王女フレデリカ

 念のため、彼らのプロパティを調べてみる。

 タイプは『グリフォード国騎士』と出た。

 沢山居るので、名前を見る気はさらさらない。

 だが一人だけ、タイプが異なるものがいた。

『グリフォード国王女』

 王女?

 そう書かれている女性がいた。いや、正確には甲冑を着ていたから女性かは分からない。

 そして、プロパティの中で赤く表示されている項目があった。

 おれがやばそうな雰囲気を感じ取ったのはその瞬間だった。

 そして、騎士団が馬から下りて、その王女らしき存在の指示で、全員兜を取った。

 グリフォード国王女が兜を取ったとき、俺は息をのんだ。

 金色の長い髪が現れ、美しい顔立ちは、正におとぎ話に出てくる王女様そのものだった。

 ――やばい。戦いになっても、俺この王女と戦えないっ。

 だが、戦いになるどころか、その美しい王女は、俺の前まで進むと、跪いてきた。

 そしてこう言ってくる。

「勇者様。先ほどの戦い見事でございました。本来であれば、我らが先陣を切らねばならないところ、大変感謝しております。是非我らが城にて、感謝の意を込めた祝勝の宴の主賓として参加していただけないでしょうか」

 俺が困惑して、レイの方を見ると、レイは肩を竦めるだけだった。

 返事を躊躇していると、騎士団が全員跪いてきた。

「是非勇者様のご参画をお願い致します」

 まずい。これ、凄い面倒くさいイベントじゃないか。

 絶対後のイベントで何か要求される奴だ。

 そして、王女のプロパティで赤表示されている属性を見て、諦めるしかないことを理解した。

 それは俺に対する好感度だった。

 九九九。

 さすがに符号付き十六ビットの上限じゃないけど、イベントで発生しそうな九並びだった。

 これ、絶対求愛してくる系のイベントだ。

 めんどくさ過ぎるだろ。

 おれは面倒をさけるために、その好感度を下げようとした。

 一〇くらいまで下げてみる。一瞬成功したけど、すぐに元の数字に戻った。

 ――え? 何これ? なんで元に戻るんだ?

 そして、理解した。

 好感度って、設定する属性じゃなくて、色々なパラメータから計算された結果なんだろう。だから変更しても、変更した直後に再設定されるんだ。

 そして、属性変更は一日に一度しか出来ない。

 つまり、この王女様の好感度マックスはもはやどうにも出来ない。

 名前のプロパティに『ルイーゼ』と書いてあるのを知って、呼びかけた。

「分かったよ。ルイーゼさん」

 その言葉に王女はビクッとして、頬を染めた後、小さく言ってきた。

「ゆ、勇者様は、やっぱり私の運命の人でございますね。最初から私には分かっておりました。ですが、こんなところで皆に宣言されるとは――」

 は?

 今何が起きた?

 今、この瞬間、王女のプロパティの数字の赤い部分が変化した。

 属性は好感度。

 さっきまで九九九だったはずだ。

 今そこには三二七六七の数字が赤々と示されている。

 なんでだ? なんで突然、符号付き一六ビットの上限値に変わるんだ?

 俺の困惑をよそに、王女が声を張り上げた。

「今、この勇者様は私の所有を宣言なされた。もちろん私は喜んでそれに応じ、この国と、民全てをこの勇者様に捧げることだろう。誰ぞ、反論のあるものがいるか?」

 王女の言葉に俺は絶句した。そして騎士達は、歓声で王女に応えていた。

「フレデリカ王女様、万歳」

「勇者様、万歳」

 俺がレイに向かって当惑したように見ると、人型ドラゴンのレイは頭を抱えていた。

「あんたって、本当に面倒なことをする人ねぇ」


「あんた、真名のこと本当に分かっていないのね?」

 レイが呆れたように言ってくる。

「最初から分かっていないと言ったはずだろう」

「自分がバカだって、偉そうに言わないでっ!」

 俺の言葉にレイはさらに呆れたようだった。

「いいから、どういうことか説明してくれよ。何が何だかまったく分からない」

 俺たちは、騎士団に待つようお願いして、少しだけ離れたところで、レイと話していた。

 理由は、レイが今の時点で一番俺の存在を理解している存在だからだ。

 俺の問いにレイが簡単に説明してくる。

「あんたがあの時した行動は、特に王族に対して特別な意味を持つのよ」

「特別な意味?」

「あんたが何でフレデリカ姫の真名を知っていたかは知らない。でも、王女の名前でゃなくて真名で呼んだということは、こういう意味よ」

 そう言った後、レイは声を潜めた。

「つまり、『お前の全てを所有している』ってこと」

 俺は仰天するしかない。

「は? なんで?」

「なんでじゃないの! 真名を持っている人にとって、自分の隠している真名を呼ばれる行為は、そういう意味を持つのよ。特に王族に伝えられる真名は国家機密だしね」

「自分の嫌いな奴に言われたらどうするんだよ」

 俺のやけくそ気味の反論に、レイは当然のことのように言ってくる。

「そんなの、激高して決闘になるに決まってるでしょ!」

 俺は仰天の次に茫然とするしかなかった。

 そしてふと気がついた。

「え? じゃあレイって呼ぶのもやばいんじゃないの?」

 レイの名前は、真名そのものだ。

 俺は平気で使っていたけど、もしそんな話なら、真名を呼ぶのはまずい気がする。

「それは大丈夫。エンシェントドラゴンは所有できないし、そもそも、あたしに真名を付けた人がいる以上、真名を使った支配なんて不可能だから」

 その後、レイは小さく呟いた。

「真名を付けたあんた以外はね」

「でも、俺が死んだ後、面倒が起きるだろ?」

「あんたって優しいのね。でも、その心配はいらないよ。あんたが死んだら、あんたが付けた真名も消えてなくなるから」

 レイがその説明をした直後のことだ。

 まるで何かのスイッチが切れたかのように筋肉の緊張がほぐれて、俺の全身を筋肉痛と疲労感が突然覆っていく。

 声を上げる時間もなく、俺は全身を覆う倦怠感と痛みと共に、意識を失っていった。

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