最強のチート
さて、カッコつけてみたは良いもののどうしよう。
完全にノープランである。
襲って来る魔物の群れをシトリー謹製のチート剣でなます切りにしながら思案する。
殲滅するだけならテラマダン連打でも良い気がするが、それだとルビシアを巻き込んでしまう。
今回の元凶は確かにルビシアだが、流石に魔物諸共倒すと言うのは俺には出来ん。
それに魔法系はカウンターが怖いしな。
となるとスキルの全体攻撃技の連打か?
悪くはないがスライム何かの雑魚だけならまだしもそれだと一撃で倒せない敵も多いだろう。
この無限湧きの状況では、殲滅速度は必須項目だ。
デモクエの魔物の数はおおよそ1600種類以上。
それがほぼ無数にルビシアの出した黒い瘴気から生み出されている。
ちまちま削ってたんじゃ到底間に合わない。
どうせこのまま行くと魔王クラスも出て来るだろうから、その前にある程度削らなければならない。
仕方がない……。
これだけは使いたくなかったが……やるしかない。
「全員聞いてくれ!今から5分程俺は無防備になる。ロンフー!守護隊を率いて防御を頼む!」
「おう!」
魔物の群れに極大の雷を落としながらニヤリと笑うロンフー。
守護隊の面々も無言で短く頷き、魔物の迎撃に向かう。みなまで言わずとも分かっているとその背中が語っていた。
「リリーは補助を中心に動いてくれ!今は通常の魔物だけだが、間違いなく魔王達が出てくる!
大地の祝福を欠かさない様にしてくれ!」
「はい!任せて下さい!」
初めてあった時からリリーは勝負所の勘が良い。
全体を見渡しながらも上手くフォローを入れてくれるだろう。
「ふふっ。実はシュウさんとこうやって方を並べて戦う事が私の目標だったんです。頑張りすね!」
「あぁ!頼りにしてるぞ。リリー!」
はい!と頷き花が開くように笑うリリー。
戦線に赴く背中は初めて会った時のような弱々しい印象はなく、立派な戦士に見えた。
「ステラ!遊撃を頼む!悪いが丸投げだ。他の皆と連携して戦況に合わせて上手く動いてくれ!」
「委細承知!」
ステラは戦場経験豊富だし、攻め所も守り所の判断も任せれるだろう。
「シュウ。思えばお前に頼られるのは初めてだな。
ククッ。惚れた男に頼られるとは女冥利に尽きるというものだ。任せておけ!」
獰猛に、しかし気品を漂わせてステラが笑う。
「頼むぞ。相棒!」
戦場に飛び込むステラの背中に声を掛けると、無言でその手を猛々しく突き上げた。
「ミレーヌ。ステラ達と遊撃を頼む!リリーは本隊に付けるから補助はフィルと連携して切らさないようにな!」
「うん!大丈夫だよ!―――あ、そうだ。」
ミレーヌに手招きされ顔を近づける。
背伸びをしたミレーヌの顔が近づいてきて、そのまま唇が重なり合う。
へっ……?
「私だけお父さんと何にもした事なかったし……。えへへ。ちゃんと私も責任取ってね?」
蠱惑的な瞳でミレーヌが笑う。
そのまま走り去って行くミレーヌの背中を惚けた顔で見ているとフィルに咎められる。
「これだけの魔物に取り囲まれているのに随分と余裕がありますね。それに私だってキスされた事―――んぐ!?」
フィルの薄い唇から口を離す。俺だってやる時はやるのだ。
「フィル。魔法攻撃全般は任せるぞ。なるべく弾幕が途切れないように全体も観ていてくれ。」
「……分かりました。ふふっ。貴方といると退屈しませんね。後、私が天空人の血筋だと知っていましたね?」
頬を膨らませて拗ねた仕草をするフィル。
「あー、予想はしてたが確証はなかった……。」
「全部終わったら教えてください。約束ですよ。
旦那様?」
少し拗ねた様に口を尖らせながら、頬を赤く染めたフィルが戦塵に消える。
ヒュゴッ!ゴン!!
【ぐきゃっ!】
俺の横スレスレをどデカい金属の塊が物凄い速度で通り過ぎ、すぐ側に迫っていた魔物を叩き潰した。
「随分楽しそう。この乱戦中に余裕?」
身の丈を超えるハンマーを担いだシトリーが立っていた。
いつも通りの無表情だが、これは違う。
確実に怒っている。選択肢を間違えるとゲームオーバーになりそうな凄みを感じる。
俺は詳しいんだ。
「余裕、か。そうだな。正直余裕だと思っている。皆がいて、お前がいる。数えきれないくらいの魔王と戦ったが、お前以上に強いやつはいなかった。悪いが頼りにさせてもらうぞ。」
「……頼りにされるのは嬉しい。」
少し照れた様子でシトリーが獲物を振るう。
巨大なハンマーを振るう度に轟音が鳴り響き複数の魔物の肉片が宙に舞う。
「でも私も女の子。もうちょっと愛を囁いて欲しい。」
この状況で!?
いつも通りの無表情ながらも、真剣な光を帯びたシトリーの赤い瞳を見返す。
サラサラと流れる白銀の髪。
激しく動いたからだろう、少し赤くなった頬。
ぷっくりと柔らかそうな唇。
新雪のようなシミひとつない白い肌。
―――くそ。やっぱり可愛いな。
魔王とか人外とか正直どうでも良い。
いや、むしろそれが良い。
俺は人外娘もいける口である。
と言うより、共に命を懸けて戦った人外美少女(魔王)が愛を囁いて欲しいと言っているのだ。
これで好きにならない奴はいるのだろうか?
いや、いない。
世界がこの子を許さないと言うのなら、俺は世界とだって戦おう。
……いや、それはダメだな。
流石に全人類と戦うのはちょっといただけない。
そうだな。シトリーの手を取ってどこかに逃げよう。
皆一緒に来てくれるだろうか。
土下座したらいけるかな?
まぁその時考えるか……。
面倒な事は心の棚に上げてしまえるのが大人の余裕というものである。
「…………もういい。よく分かった。」
ぷいっとシトリーが顔を背ける。
む?どうしたんだ?いきなり……。
あ、心の声か。
魔王たるシトリーもフィルと同じく人の心を読む事が出来る。
耳まで赤くしたシトリーがボソリと呟く。
「大丈夫。少なくとも私は―――ううん。
私達はシュウのそばにいる。例え、貴方がどんな姿になっても。」
そう言い残しシトリーは魔物群れに向かった。
……そうか。
うん。なら問題ないな。
皆がいてくれるなら俺はどうなっても構わない。
ならばお見せしよう。
これが最終最後の隠し玉。秘密にしておきたかった秘密兵器だ!
どこか晴れた気持ちでステータスを呼び出し、剣と鎧を魔法の袋に入れる
ゲームでは装備品を外してもキャラのグラフィックは変わらない。
だが、現実となったこの世界では違う。
E布の服
ケーニッヒメタルの鎧を外しインナーシャツとズボンだけの状態になると、このように装備画面に表示される。
「問題はここからだ……」
インナーシャツを脱ぐ。表示が切り替わる。
E布のズボン
「ちぃっ!これでどうだ!?」
さらにズボンを脱ぐ。更に表示が切り替わる。
Eステテコパンツ
「―――これが世界の選択か……。」
……いいさ、ならば見せてやる!
この俺の生き様を!!
裂帛の気合と共にデモクエでお馴染みの青と白のストライプのトランクスに手を掛け一気に下ろす。
これで装備品全解除だ!
「―――って旦那!?戦闘中に何してんの!?!?」
「勇者殿が混乱してるだと!?厄介な!」
「殴れば治る!誰か勇者殿を力いっぱい殴れ!」
ちなみにデモクエでは混乱は厄介なステータス異常で最近でこそ回復魔法が出来たが、それまでは1度混乱状態になってしまうと殴るか時間経過で治るのを待つのがオーソドックスな対処法だ。
って、誰が混乱中だ。
俺は至って正気だ!
「好きで脱いでるんじゃない!必要な儀式なんだ。俺の事はいいから魔物を―――」
あれ?魔物達の動きが鈍い?
いや、むしろ止まっている様な……。
遠くの方でルビシアがこちらを食い入るように見ている。俺の下腹部を完全にガン見している。
まさかこの魔物達は生み出したルビシアの精神状態とリンクしているのか!?
ちなみに周りを見るとリリー達もチラチラこちらを見ている。
「……旦那。当分そのままでいてくだせぇ。」
「嫌だよ!」
くそっ!早く終わらせないと……!
このチートは魔鳥の翼バグの1つだ。
ステータスを変化させたいキャラの装備品や所持品を全て魔法の袋内に収め、その上で袋の中で魔鳥の翼を使用する。
本来デモクエのステータス値の上限は255ないし999なのだが、このバグを使った場合は違う。
最大値を257倍まで増やす事が出来る。
999の257倍。つまり256,743だ。
ついでに会心率も257倍にする。
つまり全ての攻撃が会心の一撃となる。
これをするとラスボスもケーニッヒメタルも全てを一撃で倒せるようになる。
どんな敵でもAボタン連打で勝てる様になる最強のチートなのだが、その反面すぐにゲーム自体に飽きてしまう諸刃の剣なのだが―――。
よし。出来た!
すぐに装備を元に戻して剣を振るう。
使う技は戦士熟練度レベル8の技『五月雨』だ。
剣を振ると同時に耳をつんざくような雨音が鳴り響く。
轟音が収まった後、数え切れないほどの魔物が塵となって消えて行く。
「文字通りの
巨大な魔物の群れの向こう側に陣取るルビシアを指さし、宣言する。
「何せ今からこの世界の創世神を人に堕天させるんだからな。ルビシア!俺達と共に人として生きて、人として死んでもらう。」
空気を読まずに襲ってくる魔物を切り飛ばし、再度声を上げる。
「ルビシア!俺の妻になれ!!」
顔を真っ赤にして目を見開くルビシア。
その声は不思議と響いた。
「は、はい。」
言質は取ったぞ!
さぁ無双ゲームの始まりだ!
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