鏖殺の女神
ふわりとルビシアが地面に降りる。
ルビシアの顔には表情はなく、まるで精巧にできた仮面を付けているようだ。
初めてあった時の気だるげな顔、真っ赤に怒った顔、照れた顔、口付けを交わした顔、俺の知るルビシアの顔とは似ても似つかない表情だ。
これがゲームでこの世界の管理者として人よりも世界を優先する発言をする彼女の神としての顔なのかもしれない。
「何だか随分久しぶりに感じるな、ルビシア。
今日はどうした?まるで全ての黒幕がお前だったみたいな登場の仕方じゃないか。」
それは単なる予感だった。
別に確信があった訳じゃあない。
そうでなければ良いと思いながら口にしたそんな言葉だった。
「いいえ。黒金の勇者シュウよ。私の目的は変わらない。この世界を元に戻す為に行動しています。ただ―――。」
にちゃあっとルビシアが笑みを浮かべる。
嫌な笑みだ。
突然現れたルビシアの尋常ではない雰囲気を感じとった仲間達が武器に手を掛け、最大限に警戒する。
「この状況を私が望んでいたと言うならば、その通りです。シュウ……いえ、アードリック!!」
……アードリック?
何で伝説の勇者の名前がここで出てくるんだ?
アードリックはデモクエ三部作に出てくる伝説の勇者の名前で、最近発売されたデモクエ11の主人公こそが初代アードリックその人らしい。
そしてルビシアの彼氏と言うか、婚約者だ。
大昔にこの人間の世界が出来る前に一悶着あり、ルビシアはこの世界の管理者として、アードリックは勇者として人に転生をしてこの世界を襲う全ての悪魔を倒すまでは2人は結ばれないと言う織姫と彦星的な呪いをかけられてしまう。
詳しくは外伝小説の精霊ルビシア伝説を参照だ。
現状、この世界において勇者の因子は全て俺に統合されているらしいので、まぁ確かに俺がアードリックその人と言えない事もないが……。
……ん?待てよ。
アードリック、呪い、勇者、ルビシアの思惑……。
もしかしてそう言う事か!?
「お前の目的は今も昔も変わらない……。全ての悪魔を倒し、アードリックと再び結ばれる事……。」
俺の心を読んだのだろう。
ケタケタと笑うルビシア。
その目は完全に濁りきっていた。
「ええ!ええ!そうよ。その通りよ!
全ての悪魔を倒し、そのあかつきに神と勇者は人として結ばれる。だから全ての悪魔を滅ぼす!全て!全てよ!過去も現在も未来も!」
叫びながらルビシアが龍神王にその手を向ける。
「その為にはこの聖域の力を渡しなさい!龍神王!」
「ぐっ!?こ、これは……!」
パキパキと音を立てて龍神王の身体が金属に変質して行く。
こ、これは『
勇者専用魔法のひとつで、身体を金属に変質させ、あらゆる攻撃や魔法を防ぐ絶対防御魔法!
絶対防御を得る代わりに数ターン行動不能になる使い所の難しい魔法だ。
「クスクス。ダメじゃない?攻撃や魔法に対しては対策をしてても支援魔法は対策してないなんて。やっぱり貴方は無能ね。」
なるほど。『
さすが封印には一家言持ってるだけはあるな。
おおっと、無言で睨まれてしまった。
ふぅとため息をついてから俺達を見渡すルビシア。
「安心なさい。貴方達は封印なんかしないわ。
これからやってもらう事があるんだもの。」
……残念な事に俺の予想は外れていなかった様だ。
ルビシアからすると、過去も現在も未来も全てが統合されたこの世界は非常に都合が良い訳だ。
そして何より、この世界全てを意のままに操れるこの聖域こそがルビシアの目的を加速させる。
つまり―――。
「おいでなさい!全ての悪魔達よ!!!」
龍神王から聖域の支配権を奪ったのだろう。
ルビシアの手からゾワゾワと黒い瘴気が溢れ出す。
「何だあれは……!」
「禍々しい!」
「何故ルビシア様が!?」
仲間達が警戒レベルを最大にし、武器を構える。
黒い瘴気はどんどん広がって行き、瘴気から魔物が現れる。
それに合わせて部屋の内装も変わる。
ただただ荒涼とした大地が広がって行く。
既にルビシアとの距離は数百m以上離れ、その間に
はシリーズ問わず何百何千何万もの魔物達が次々と生み出されていく。
「まさかルビシア様までシュウを亡きものに……!」
「デッドムーアの軍団が可愛くみえますね……。」
「いくらルビシア様でもそんなの認めない!
お父さんは私が守る!」
「いえ、どうも違うようですよ?ミレーヌ。
シュウ様を亡きものにするのではなくむしろ……」
「そう。むしろシュウと共に歩むために必要な事。ルビシアが6人目の嫁……むしろ1人目?」
「結局、旦那が原因かよ!つぅかルビシア様を嫁にするって何考えてんだアンタ!」
いや、待てロンフー。
流石に前世の因縁までは責任が持てん。
しかし実際問題、身に覚えがないとはいえ残念な事に事実だしな……。
前世からの恋人を自称するヤンデレ地雷女とか痛すぎるのだが、世のモテ男達はこういう場合どう対処しているのだろうか?
「だ、誰がヤンデレ地雷女よ!何千年も処女守り通してて悪かったわね!!えーえーそうですよ!どうせ私は何千年たっても恋愛脳の小娘ですよ!」
ルビシアの叫びと共に魔物達が活性化する。
そ、そこまで言ってないぞ!?
反射的に剣を横薙ぎに振るい、殺到して来る魔物の群れを斬り飛ばす。
「分かってんのよ!こんな事ただの迷惑だって!
どうせ私は何千年も一人の男に執着してる気持ち悪い処女拗らせた痛い女よ!」
ルビシアが叫ぶ度に瘴気から魔物が生み出され、こちらに襲いかかって来る。
くそ!数が多い!
「でも、でも、もう私には耐えられないの……。
あの時感じた貴方の温もりが、言葉が、唇の感触が忘れられないの……。もう1人は嫌。ごめん……。ごめんなさい。―――シュウ。」
何度も謝罪しながら泣き崩れるルビシア。
あぁ、そうだった。
ルビシアはたった1人で何千年もこの世界を見守り続けてきたんだ。
いつの日か
「総員!方陣を組め!弾幕を切らすな!飲み込まれたら一瞬で潰されるぞ!」
「またこう言う展開か!全く楽させてくれないな!勇者殿!よく分からんがこの魔物を全部倒せば良いんだな!?」
「法の神殿の時とは違って倒すだけだからある意味楽なもんだ!」
愚痴りながらも殲滅速度がどんどん上がって行く。おいおい、コイツらめちゃくちゃ強くないか?
「勇者殿!全滅させるのは構わんが、纏めて来られるとこちらも分が悪い!ルビシア様の気を引いてくれ!アンタの嫁なんだろ!?」
「ほら!さっさと行けよ旦那。泣いてる嫁さん慰めるのはアンタの役目だろうが!」
ロンフー達が軽口を叩きながら魔物の群れを蹴散らしていく。
俺の目の前には魔物の群れ。
そしてその奥に泣き崩れる
ははっ!まるでレトロゲームみたいな展開だな。
―――なら、やる事はたった一つだ。
この世界に来て初めて魔王と対峙した時のような怯えはもうない。
自然と口の端が持ち上がり、1歩前に出る。
「あまり勇者を舐めるなよ。ルビシア。
誰かの涙を止めるとために命を掛けるなんか日常茶飯事だ!」
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