黄金の龍の嘆き

ラインバルト王国北側にある遺跡。


デモクエ5の少年期の最後に訪れる地だ。

割と印象的なシーンなので覚えている諸兄も多いのではないだろうか?


誘拐された王子を助ける為に、主人公の父親と挑むダンジョン。待ち受ける邪悪。最後は主人公を守る為に殺されてしまう父親。


そして悲壮感をぶち壊す、ぬわーー!と言う父親の特徴的過ぎる断末魔。


10年後にそそんな悲劇?が起こる場所の一角に聖域の入口は存在する。




「……疑う訳じゃねぇけどよ?旦那。本当にここで合ってるんっスか?」


ロンフーが疑わしげな顔で念押しをしてくる。

いや、絶対疑ってんだろ、お前。


「合ってるよ。この壁の向こう側が毒の沼地になっててその下に聖域があるんだ。」


本来のゲームならオープントレイと言うテクニックを使って壁の向こう側にすり抜けるのだが、ここは現実の世界だ。


向こう側に行こうとすると壁を壊すしかない。

が―――。


「うん?どうしんたんだ?皆。」


何故か全員動かない。

まるで金縛りにあったかのように動かなくないっている。



「―――す、すまない。シュウ。か、身体が動かないんだ……。」

「壁を壊そうと思うと身体が強ばって……。」


ど、どういうことだ?

龍神王の罠か?それともまだ何か俺の知らない仕様が―――。



『あまり無茶をさせない事だ。異世界の勇者よ。

非破壊オブジェクトを壊そうとするのは、我等の存在に刻まれた禁則事項。創造主の呪いの一端だ。』


どこからともなく厳かな声が響く。

なるほどね。ダンジョンの壁を壊す事が出来ないのは創造主の呪いゲームの仕様って訳か。



「なるほど。アンタはその呪いを克服した訳だ。

―――龍神王?」


姿こそ見えないが、この状況でこんな話をして来るのは龍神王しかいないだろう。


『ふはははは。我とて汝の仲間と変わらぬよ。聖域に入れたのも偶然の要素が強い。

―――ふむ。良いだろう。こちらから招こうじゃあないか。』



龍神王がそう言うと視界が白に染まる。


そこは床すらない真っ白な空間だった。

周りを見渡すと仲間達がふわふわとなにもない空間に浮いているのが見える。



「ここはこの世界の全ての要素が詰まった空間だ。

それ故に何もない真っ白な空間。」


空間の中央部なのだろう。

ゆったりとした動作で、とぐろを巻いたそいつは顔を動かす。


「ようこそ。創造主の世界より招かれた勇者よ。

私は龍神王。この世界を創造した存在に弓引く反逆者だ。」


そこには黄金に輝く1匹の龍がいた。


うん?反逆者と言う割に戦う気がないのか?

かなりリラックスした体勢だ。


「お招き頂き光栄だ。てっきりもっと手荒い歓迎をされるかと思っていたんだがな。」


「くははは!何ならお茶でも出そうか?

―――白旗を上げたと思ってもらって構わんよ。」



龍神王がそう言うと真っ白な空間が歪み、豪華な王宮の様な空間に切り替わる。


シャンデリアが幾つもぶら下がった高い天井、床には毛足の短い赤い絨毯がひかれている。

ただ、部屋が広すぎて壁は見えない。


もしかしたら壁は創造していないのかもしれない。

現実世界では有り得ない空間だ。


空間の中央部にとぐろを巻く龍神王の前に大きなテーブルが置かれ、綺麗に並べられた人数分のカップに入った紅茶が湯気を立てていた。


流石は何でもありのデバックルーム。

飛んでもないチートだ。


俺も魔鳥の翼バグを使えば似たような事が出来るが、こっちはバグ技だがらな。


下手を打てば世界に変な影響を与えかねない。


「汝がこの聖域と同じ力を持つのならば有象無象の魔物をいくらけしかけても無駄だろう。汝の仲間達も油断ならぬ猛者だ。まともに戦えば我に勝機はない。汝風に言うならば、我はチートしか能のない弱者だ。」



……弱者は言い過ぎな気もするが、実際そこまで龍神王は強くないらしい。デモクエ4でもラスボスに勝てないから主人公に討伐の依頼をして来てたし。


しかし、何だろう。肩透かしを食らったと言うか、何と言うか。


龍神王ってこんな理知的なキャラだっけ?

ぶっちゃけるともっと無能な印象があったんだが……。



「―――そうだろうな。それこそが私が創造主に弓を引いた理由だ。」


しんみりとした声で龍神王が応える。


あ、そうか。龍神王も神様キャラの例に漏れず、こっちの心を読むのか!


下手な事は考えられないな。


「……私はシュウさんの心を読むことには一家言ありますが、常に下手な事を考えてません?」


「シュウはいつも楽しそう。」


うるさいぞ、ちっぱいーず。

こちらの心を読んで突っ込んでくるフィルとシトリーをスルーする。



ともあれ、無能である事が龍神王がこの世界をめちゃくちゃにした理由?


龍神王……、反逆……、無能…………あ!


龍神王の無能ムーブか!



龍神王とはデモクエ4、5、6に出てくるこの世界の管理者の1柱だ。


しかし、ネットで彼の名前を検索すると追加予測に無能の文字が出て来る程無能なのである。


初登場のデモクエ4ではまず主人公の父親を殺し、天空人である母親を連れ去る外道ムーブをかます。


そして、何の謝罪もないまま自分ではどうしようも出来ないからとラスボスの討伐を依頼して来る無能ムーブをかましてくる。

もう完全に蛇畜生である。


デモクエ5ではふと人間になってみるかと思い立って自分の力を封印して天空城を抜け出す。

それが切っ掛けで天空城は墜落。多数の天空人が巻き込まれる大惨事になる。


そこまでして人間になったものの、何故か20年以上トロッコに乗り続けると言う圧倒的な無能ムーブを見せつけて来る。


その後、このままではマズイと主人公達に頼み、何とか龍神王の力を取り戻してもらい天空城を復活させる。お前は人間になって何がしたかったんだ?


ちなみにその報酬は空を飛べるようになるだけ。

せめて何か寄越せよ。主神!


デモクエ6では色々ユーザーからクレームが来たのかは分からんが、完全な空気となっている。


ネット界隈ではチラッと出て来る黄金の龍こそが龍神王だと言われていた。



「分かるか?勇者よ……。何故、我がわざわざ人間になってトロッコで20年もの時を過ごさねばならぬのだ!?天空城を墜してまで人間になる気持ちも分からんし、その結果が飲まず食わずでトロッコで20年だぞ!?どんな刑罰だ!何なら飛び降りれ良いではないか!」


うん。そうだよね。

それは俺もそう思うよ。


1度口を開いた龍神王の嘆きは止まらない。

もしかしたら誰かに聞いて欲しかったのかもしれないな……。



「我は愛し合ってる2人を引き裂くつもりもない。

確かに天空人と地上人は基本的に不可侵だ。

だがそれはあくまでも要らぬ諍いを招かぬ為だ。

わざわざ地上人を殺しては天空人への恨みをつのらせるだけで本末転倒ではないか!」


それにと言いつつ、龍神王はフィルをチラリと見て話を続ける。


「天空人が地上で暮らすのなら、私がした様にドラゴンの杖にその力を封じれば良い。

―――そこの盲た少女の両親のようにな。」



「―――は?私の……両親?」



予想もしていなかったのか、口を開けてポカンとした顔になるフィル。


……やっぱりか。

フィルが天空人の血筋なのは予想していたし、ドラゴンの杖に関しても龍神王を始め、天空人と関係性が高いアイテムだ。


力を封印したフィルの両親がどうなったかを知るよしはないが、もうこの世にはいないんだろう。


呆然とドラゴンの杖を握るフィルの肩を抱き、龍神王に向かう。



「答え合わせはこの辺で良いだろう。

それがお前がこの世界を改変した理由か?龍神王。」


「そうだ。この世界に刻まれた創造主が敷いた運命と言う名の呪い。それを解くためにこの世界から勇者と言う呪いを運ぶ因子を消したのだ。」



勇者、つまりプレイヤーの事だろう。

プレイヤーの為にゲームにはストーリーがある。


逆説的に言うならば、プレイヤーの存在を消してしまえば、ストーリーと言う運命から脱却出来るという訳だ。



「くくっ。後は異世界から召喚された汝を殺せば、呪いを完全に駆逐出来たはずだったんだがな。もう我では汝を殺せぬ……。」


龍神王は自嘲気味に笑い、天を仰ぎ見る。

その姿はまるで哀れにも死を宣告された者の様に見えた。




「全てはお前の目論見通りという訳だ。

そうだろ?ルビシアよ!!」




龍神王が虚空に叫ぶと中空が突如として光り輝き出し、その光はやがて人型となった。


美しいピンクブロンドの髪に、白のトーガ、所々に黄金のアクセサリーを付けた人ならざる美の化身。


創世神ルビシア。



「ええ、そうね。龍神王。その通りだわ。」



鈴の音がなる様な美しい声が響く。

いつもと変わらず美しく微笑むルビシア。


―――しかし、俺にはその瞳が酷く濁っている様に見えた。



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