空飛ぶオッサン

【分かりマスか!?!?私達はこの世界の独立の為に立ち上がったのです!!今までのこの世界は常に何かしらの改変を受けておりました!数年おきに書き換えられる生態系。突如として消えては増える大地!街!国!歴史!人!魔物!私達は気付かないうちに常に改変させられておりました!私達は私達でありながらも私達ではなかったのです!!】



エルギオネル・クロウの演説は続く。

その焦点は合わず、ギョロギョロと忙しなく辺りを見渡している。



極大全体回復魔法べホエスト!!」


ミレーヌが隙をついて回復魔法を全員にかける。

その瞬間、ステラとリリー、ロンフーが動いた。



「なるほど!?だが!それと我等を襲うことに何の因果がある!」


声を掛け、エルギオネル・クロウの注意を集めつつ斬り掛かるステラ。



【決まってる決定している分かりきっている!!全ては勇者の、勇者共の存在が原因なのです!!だから竜神王様はこの世界から勇者を消した!あらゆる時代!国!その全てから!!そして私が異世界から召喚されたあの最後の勇者を消す!そうすればこの世界はかの世界との繋がりを断てる根絶独立デス!!】



ステラの剣と魔王の爪が高速でぶつかり合いながら火花を散らす。


力は魔王が上だが、技量はステラが上。

次第に剣戟は膠着し、地面の上で鍔迫り合いを始める。


「そこだ。その1点のみに置いて、私達は貴様達を認めることは出来ん!リリー!!!」



「『落とし穴』!!!」




突如として、地面に深い穴が口を開く。

羽根の生えたエルギオネル・クロウには落とし穴は効かない。

ただ、一瞬その身を強ばらせる。


一瞬。


だが確実に見せた、致命的な隙を誰も逃しはしなかった。再びそれぞれの最強の技がエルギオネル・クロウを襲う。


「気に入らねぇな!何もかもを旦那に押し付けてよォ!!」


「総員!ロンフー隊長に続けぇっ!!」


「あんな理不尽の権化でも!我等が救世主!」


「貴様のような輩に殺させる訳にはいかん!!」


既にダメージ総数は万単位を超えている。


それは魔王はもとより、大魔王ですら倒しうるダメージ総数。



しかし。



「くそ。化け物め。」


吐き捨てるようにステラが呟く。



【無駄無茶無謀death!私にHPと言う概念は既にありま千。deathが、御安心なさい。ワタシの目的は勇者因子ヲ持つ、アノ勇者だけ。貴方たちを殺す事は竜神王サマの御心に反しますゆえ」



「お父さんは負けないもん!!」

涙目になりながらミレーヌが訴える。


「ええ。そうですとも。あの人は。シュウ様は負けません。勇者として常に勝ち続けて来た御方です。」


ミレーヌを守るように前に立ちはだかるフィル。



【えぇえぇ。そうnanoでしょう。貴方たち人間からすればあの者は勇者ナノデショウ。だが。世界全体から見たら、むしろ魔王はあのモノdeath!!あのモノこそが魔王であり破壊神であり大魔王!!

その存在が!この世界の破滅の要因足り得ぅ!!】




無理に力を改変された影響なのか、まるでダメージは受けてはいないが、身体中に無数の黒いひび割れが入り、言葉がどんどんおかしくなっていく魔王。


その手に極大放出魔法テラマダンを超える圧倒的な魔力が集まる。



【さぁ!コレで終わりdeath!!!】


殺さないと言った傍からこの付近一体を吹き飛ばせる魔法を放とうとするエルギオネル・クロウ。


既にまともな意思は彼には残っていなかった。


「あれはヤベェな……。」


「総員!魔法反射―――ぐっ!風が……!」


エルギオネル・クロウの6枚の羽根が羽ばたき、まるでハリケーンの様な風を巻き起こす。


「や、やばい―――!」






「―――ぇ……」



その圧倒的な魔力が放たれる、その刹那。

風に乗り何処からか声が響く。



【―――この声は?】


エルギオネル・クロウの足元。

その声は大地に広がる大穴から聞こえて来る。



「―――けて……!!」



魔王が巻き起こした暴風の中、その声は不思議と

辺りに響いた。


「この声―――!」

「まさか!!」

「シュウ―――」




「た、助けてぇえええええええええ!!!!!」



「「「【―――は?】」」」



黒金の不思議な輝きを放つ黒い剣を構えた、

半泣きオッサンが吹っ飛んで来た。


空気が凍りつき、世界が止まる。


涙や涎を撒き散らしながら飛んでくるオッサンにはそれだけの破壊力があった。



「あぶ、あぶぶぶ危ない!どどどどけ!!」


風圧が凄すぎてろくに声も出せないまま、よく分からない単語を放ちつつ吹っ飛んで来る黒金の勇者。


手に持った剣をブンブン振り回す様は実に滑稽である。


本人としては助かりたい一心で、剣をどこかに突き刺して減速する事しか考えていない。



トス。


あまりにも呆気ない。

軽い音を立てて魔王に突き刺さる漆黒の剣。



【ぐっ……!ぎ、ぎゃあああああああああっ!!】


「う、うわあああああああああああああ!」



【ば、馬鹿na!!?my身体はりゅうジン王様に―――!?】



サンッ!


小気味よい音ともに、破壊神によって創造された真なる魔剣。黒金の勇者の剣は、狂った魔王を袈裟斬りに両断した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る