世界の理の外にある存在
さて。困った。
大魔王の話によるとギアスの大穴付近でエルギオネル・クロウがリリー達相手に暴れているらしい。
勿論、助けに行く。
行くのだが……。
行く手段がない!
ギアスの大穴とはこの地下世界と地上を繋ぐ大地に空いた大穴の事だ。
当然、穴なので向こうからこちらにしか行けない。
穴があるのはデモクエ3最大のダンジョンであるネクロマンサの祠の最深部という最悪な立地だ。
転移魔法で行くとすれば、砂漠の国イシスから砂漠を超える必要がある。
どう考えても間に合う訳が無い。
「クソっ!ギアスの大穴だと?ここから何日かかると思っているんだ!?どうすれば……!」
「シュウ。大丈夫。簡単なこと。」
「うむ。困難はあるだろうが、我ら3人なら何とかなるだろう。」
!?
やけに自信満々な顔で脳筋ペアが頷き合っている。
嫌な予感しかしないのだが……?
「まず私がシュウ殿とシトリーを担いでジャンプをして―――」
「脳筋理論!分かってたけども!!ド直球すぎるだろう!!」
「いやいや、安心してくれ。シュウ殿。
ギアスの大穴から落ちるとローレシアンの街に落ちるだろう?この大魔王の城からローレシアンは海を渡った向う側。距離にすれば大したことない。つまり、ここから北側上空に向けて飛べばギアスの大穴に辿り着く。」
「海を走った時と理屈は同じ。粘性力と慣性力は速度や加速に比例する。つまり思いっきり空を蹴る。でも、流石に独力では無理。だから、オルテを土台に私がシュウを抱えて飛べばギアスの大穴まではすぐにつく。」
だから
「やっぱりお前ら親子だな……。頭の構造が同じだ。」
「いやぁ。照れるな」
「うん。照れる。」
褒めてねぇよ。
………………
…………
……おい。
本当に大丈夫なんだろうな?
とりあえず新しいケーニッヒメタルの鎧に着替え、装備を整えてからオルテガス、俺、シトリーの順番でおんぶをして、廃材の山の前にたたずむ。
これから何をするつもりか全く理解が出来ない。
いや、分かってはいるが理解したくない。
「よし、行くぞぉぉぉぉぉ!!!」
雄叫びと共にオルテガスが廃材の山を走り切る。
とてつもないスピードだ。
「ぃよいしょおおおおおおおおっ!!!」
そのスピードのまま変態筋肉が宙を舞う。
嘘だろ?俺達をおぶったまま数百メートルは飛んだぞ!?
そのまま空中で俺の足を手のひらの上に乗せ、砲丸投げの姿勢をとる。
「シトリー!しかとシュウ殿を送り届けよ!
ぬぅん!!!」
とてつもない加速と共に、天高く飛ばされる俺とシトリー。
実際はほんの数分程度なのだろうが、体感時間としてはもっと長く飛んでいるような気がする。
「―――ねぇ、シュウ。」
いつの間にか体の向きを変えたシトリーの顔が目の前にある。
轟々と響く風切り音の中、不思議とシトリーの声はハッキリと聞こえた。
「龍神王はこの世界の理を完全に統べてしまった。エルギオネル・クロウには、どんな力を持ってしても勝つ事は出来ない。」
―――!?
な、何でそれを!?
「でも、私と貴方が作ったその剣でなら別。
その剣はこの世界の理の外にある存在。本来なら決して産まれることのなかった、本当の意味での規格外たる魔剣。」
……何となくシトリーの言いたい事は分かる。
確かに聖域が俺の考えた通りの場所なら、龍神王やその力を与えられたエルギオネル・クロウに勝つ事は不可能だ。
しかし、様々なシリーズの魔王や大魔王の魔石を混ぜ合わせ、強化したこの剣は本来のデモクエの世界にはなかった存在だ。
この剣でなら―――!
「正直、龍神王の言いたい事は分かる。私を破壊神たる存在にした真なる神が生み出した運命。それは今の私にとってとても受け入れ難いもの。」
……!
確かに、今のシトリーを見る限り世界を滅ぼすなんて事を望んでいるようには見えない。
「―――そうだな。俺も、今のシトリーの方が好きだ。」
俺の言葉に小さく頷き、優しく微笑むシトリーの顔が近付いてくる。
微かな、ほんの微かな、でも確かにシトリーの唇が俺の唇と重なり合う。
「―――ずっと待ってる。」
そう言うとシトリーは体を離し、手に持った特大のハンマーを構える。
……え?
何そのハンマー?
「行ってらっしゃい。」
ちょっと待ってぇ――!!!
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