導くもの達

哀れな蝙蝠

「総員!!撃て撃てぇっ!!!攻撃を切らすな!!守勢に回ったら一気に押し潰されるぞ!!

極大電魔法ギガボルト!!!」


「ちくしょう!またこのパターンかよ!

極大火炎魔法フレアゾーマ』!!」


「しかも、今回は全く攻撃が効いてるように見えねぇ……。くそっ。必至にレベルあげたのによォ!!『極大爆発魔法イオナゴン』!!」


「いいから撃てっ!少しでも攻撃が通るなら当て続ければ勝てるって事だ!!『剣舞踊』!!」


「まだまだ行くぜ!極大放出魔法テラマダン


「速攻でMP使い切ってんじゃねーよ!!

しかもそれは勇者殿がもう試しただろ!もっと他の攻撃も試せ!『怒涛の羊呼び』!!」




リリーの祝福により倍加された総勢80名にも及ぶ極大魔法とスキルが、壊れた魔王を襲う。


黒金の勇者によって鍛えられ、死地に何度も叩き落とされた80人の戦士達は、どこか余裕すら見せながらも、油断せずに様々な攻撃を当てて相手の反応を観察する。


先の戦いで10発以上のシュウの極大放出魔法テラマダンを喰らっても平気な顔をしていた相手だ。


6枚羽根の魔王がまともな防御力はしていないのは、全員の共通認識だった。


極大放出魔法テラマダンは効いている様には見えなかった。しかし、通常攻撃なら?スキルなら?他の属性魔法なら?


その結果採用されたのが、ゲームでは2800程度のHPしかないエルギオネル・クロウに耐えうるはずのない、デモクエ史上類を見ない圧倒的な波状攻撃である。



しかし……。




【ふははははははははっ!!効かぬ!朽ちぬ!滅びぬ!この程度で龍神王様に祝福された我をどうにか出来るものか!】



爆煙が晴れた後から出てきたのは、変わらぬ姿の狂った魔王であった。


「あれだけの攻撃を受けて平然としてますね……。龍神王の祝福?攻撃無効化の補助辺りかしら?

少なくとも暗黒の衣ではなさそうだけど……。」


リリーが愚痴りながらも冷静にエルギオネル・クロウを観察する。



「うん!お父さん言ってたもん。リリーの祝福なら衣を無視出来るって言ってた!それに極大放出魔法テラマダンなら衣自体をはずせる出来るはずだもん!」


「斬った感触自体はあるから、リリーとミレーヌの言う通り、攻撃自体は届いていると見て間違いないな。となると耐久性が異常なのか……?」


「ステラ様の言う通りでしょうね。多少の痛苦は感じている様です。それに加えて一定時間で自動回復している様に思います。」


「ま、待て待て!ステラの姐さんとフィルの姐さんの言う通りなら、何か!?アイツはあれだけ喰らっても平気な防御力と自動回復まで持ってんのか!?」



ステラとフィルの考察を聞いて狼狽えるロンフー。


そしてその通りであった。

異世界のデモクエプレーヤーたるシュウならば一言でこう言うだろう。



負けイベントのボス。



エルギオネル・クロウは龍神王により聖域の力を使って使い改造されていた。


ステータスの中でも耐久性を異様に上げられ、負けイベントのボスと同じく自動回復の補助まで付けられている。


デモクエではステータスの数字の上限は、魔王ですら999である。シュウ達はそれを裏技やバグ技、そして弛まぬ努力でカンストさせていたが、この魔王はそれを超え、桁違いに増えていた。


それは正にチートと言えた。



「これが聖域の力とやらか……。」


忌々しくステラが舌打ちをする。


聖域。


概要は創造神たるルビシアから聞いていた。


曰く、聖域はこの世界の万象を操る神の座。

それを使い龍神王は史上類を見ないほど強化されている、と……。


【せ、せい、生、性、製、聖域ぃい!!!!!そう!そうだ!そうなのだ!そうデスとも!遂に!ついに竜神王様はあの聖域を手中に納められたのだぁ!そして、私に私に祝福をお与え下さったァァァァァァ!!!】



過剰なステータス改造によるバグ。

それが魔王エルギオネル・クロウを狂わせた原因であった。



「だからどうした!敵が強いと言うだけだろ!?『紅剣舞』!」


ステラが吠え、追撃を叩き込む。


「ええ!そうです!敵が自分より強いなんて、私にとってはいつも通りです!聖なる十字ディバインクロス!!」


戦姫ステラの剣舞と、名実共に聖騎士パラディンとなったリリーの熟練度10スキルが狂った魔王を襲う。




【きかぁああああああああぬ!!!】


咆哮と共に放たれた黒炎のブレスが辺りを覆う。


氷炎防御フバーフ!―――きゃあ!」


フィルの防御魔法を超えて全員にダメージが入る。

ステータスの桁が違いすぎるのだ。


一撃で形勢は決した。

全員が倒れ伏す中、ただ1人狂った魔王が祈りを捧げる。



【おぉ!偉大なる竜神王様!貴方の祝福が勇者の仲間共を倒します!感謝を!圧倒的な感謝を!!こんな私に祝福を頂き、感謝感激でございマス!!】



その姿は、何処までも哀れに見えた。

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