大魔王の最後

世界を覆い尽くさんとする黒い吹雪。

天を焦がす極炎の柱。

地を轟かす聖なる雷。

そして万象を癒す白の極光。


ありとあらゆる極地の技が世界を染める。


極限まで鍛え抜かれた身体は宙を舞い、影すら残さず地を駆け、繰り出される一撃は大地を砕き、海を割り、空を衝く。


それは正に神話の時代の戦いだった。


約束された光と闇の超越者達の死闘。

世界中の吟遊詩人が謳う古より伝わる伝承サーガ


最も新しき勇者と大魔王の伝説が今まさに繰り広げられていた――!




……うん。まぁどれだけそれっぽい事を言っても単にはめ殺ししているだけだ。


やっている事は派手だが、結局画面の端に相手を追い込んで小パンチ連打しているのと変わらない。


なんせこっちは全体回復魔法を唱え続けているだけで相手は削れて行くのだ。


攻撃を当てた相手を行動不能にするぜったいれいどアイス・エイジは確かに強スキルだが、如何せんあれは単体攻撃技だ。


回復魔法を唱えられる俺とシトリーが揃った時点でゾウマは詰みだ。



「これで最後――!」


シトリーの何度目かの癒しの光を受けたゾウマがぐらりと体勢を崩し、片膝をついた。



戦いの余波で大魔王城の残骸は吹き飛び、クレーターだらけとなった荒地に雪が舞う。



【黒金の勇者シュウ、破壊神シトリー、英雄オルテガスよ。よくぞ余を倒した。しかし光ある限り闇もまたある。余には――】


ゾウマから色味が薄れ、パラパラとその身体が次第に崩れて行く。




「――見えるのだ。再び闇から何者かが現れよう。だがその時はお前は年老いて生きてはいまい。

……だったよな?」


何度も何度も聞いた大魔王の今際の際の言葉だ。



【やはり異界から召喚された勇者はこの世界の運命を識るか……。龍神王が危険視する訳だ!くはははははっ!聖域の力を手に入れても余程お主の事が怖いと見える!】


「……龍神王の狙いは何なんだ?」


【言うならば世界への反逆よ。

この世界はその運命が決められている。光と闇の争いしかり、あらゆる国の起こりも衰退も、場合によっては人々の意思すらな。それを良しとしなかった彼奴は聖域の力を手にし、この世界の歴史を塗り替えたのだ。】




……あぁ。そうか。


この世界の運命とはつまり、デモクエのメインストーリーの事か!


高位の存在とはメインストーリーのキーキャラクターとなるNPC。


それは神や大魔王であり、選ばれし聖戦士や伝説の賢者や魔法使い。果てはここは○○の村だと教えてくれる村人だったりするのだろう。


【分かるか?運命とは高位の存在になればなるほど抗えなくなる。龍神王はその運命に立ち向かったのだ。くっくっくっ。こう言うと彼奴こそがこの世界の勇者の様に聞こえるがな。】



高位の存在ね。

まぁ確かに、ルビシアが毎回封印されたり、大魔王が世界を滅ぼそうとしたり、選ばれた聖戦士が紆余曲折を経て戦いに挑んだりするしな。


所謂、話の流れってやつか。


「その聖域ってのはなんだ?」


さっきからちょいちょい名前は出て来るが、そこが何なのかが分からない。


デモクエでも聖域と言われる場所はいくつかあるが、どうもそことは違うような気がする。



【この世全てを意のままにする真なる神の座だ。

ルビシアや龍神王などの創られた神ではなく、真なる神が創った万象を司る御座よ。】



ルビシアや龍神王を作った神……?

この世界を創った真なる神。

……つまり、デモクエを創った者?

全てを意のままに操れる場所――。


待て待て待て!


え、いや、有り得るのか!?


……だが、確かにあそこが存在するのなら、この世界の歴史から勇者と言う因子を消した事も、エルギオネル・クロウのあの無茶な耐久性も説明がつく。



【ほぉ?心当たりがある様だな。さしもの余も聖域の場所までは分からぬ。その様な場所の存在は何となく感じはするがな……。】



そりゃあ、そうだろうさ。

確かにデモクエ3ではあの場所は存在したが、普通の方法では行けなかったしな。


逆に龍神王はデモクエ5のキャラクターだ。

デモクエ5ならあそこまでは地続きで行けたはずだ。



「……お前は龍神王に加担しなかったんだな。」


【当たり前だ。世界を滅ぼすにせよ、運命を切り開くにせよ、全ては我が意志と我が力によるものでなければならぬ。創造主の力を使って創造主が創った運命を切り開くなど、矛盾もいいところだ。】


ゴトリとゾウマの腕が地に落ちる。

もうゾウマの身体は持たないのだろう。


しかし、ゾウマは崩れ落ちる身体を厭わずに立ち上がる。



【積み上げた死体も焼いた国々も全ては我が意思によって成した事!


我は大魔王 創魔!!


我は我がままに!全てを、万象一切を蹂躙したのだ!断じて創造主の意志など、運命などのせいでは はない!】



……そうだな。

お前はそう言う奴だよ。


光に迎合する事はない絶対悪。

消して折れる事の無い大魔王の中の大魔王だ。



【ギアスの大穴で哀れな蝙蝠が飛んでいる。貴様の仲間達もそこにいる。】



!?

リリー達が!?



【我は光がある限り滅びぬ。また合間見えようぞ!ふはははははははははっ!!】



どこまでも雄々しく、どこまでも傲岸不遜に笑いながら、この世全ての魔を創り出した大魔王は風雪と共に消えた。



「シュウ……」


「シュウ殿。今の話は――。」


心配そうな顔をしたシトリーとオルテガスが声を掛けて来た。


「悪いが、今は説明する時間がないらしい。」



ゾウマの話が本当なら、今はギアスの大穴でリリー達とエルギオネル・クロウが戦っている。


連戦はラスボス戦の常識だしな。

さぁ。もうひと狩り行こうか!


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