嫁達の大冒険

入念に熟練度を上げ、レベルとステータスをカンストさせたリリー達に敵はいなかった。


あらゆる魔物を滅ぼし、数あるダンジョンを踏破した。


世界中に散った法の神殿守備隊からの情報を吸い上げ、あらゆる伝承、伝説を調べ尽くし、シュウが閉じ込められたギアスの大穴の位置を突き止め、大魔王討伐の必須アイテムである『光輝の宝珠』の存在も突き止めた。



そうしてロンフー達守備隊の手引きで、カザブールへ向かい、そのまま竜の女王の城へ向かう。

首尾よく女王から『光輝の宝珠』を手に入れ、そのまま休むことなく、イシース地方へ飛んだ。


そのまま砂漠を超え、南東に進むと顔を出すのが、この大陸に空けられた深い深い大穴。通称、ギアスの大穴である。





「この底にシュウさんがいるんですね……。」


穴の縁に立ち、底を見つめて強ばるリリー。


底は暗く、どこまで続いているのかすらわからない。

流石のリリーと言えど、恐怖を感じていた。



「らしいな。ルビシア様からの情報だとそれは確定と見て良いだろう。現在はこの大穴の向こう側、アスガルドは大魔王ゾオマに占領されているらしく、向こうからこちら側に脱出するには大魔王の討伐が必須らしい。」


引き締まった顔をしたステラが現状の確認をする。

穴の底からは大魔王の濃い魔力の気配が立ち上って来るようであった。


「大魔王の魔力が強いから転移魔法は使い物にならないんだよね……。ここから『光輝の宝珠』を使えばどうかな?そうしたらお父さんならこっち側に転移出来るんじゃない?」


「またミレーヌはシュウ様のような事を言って!

あくまでも根本的な原因は大魔王です。ここからでは、いかな『光輝の宝珠』と言えどその力を大魔王に届かせる事は出来ないでしょう。」


シュウの悪影響か、すぐに根底を覆す様なことをしたがるミレーヌをフィルが窘める。


「くっくっくっ。いやいや、流石旦那の娘だと思いますぜ?俺達にゃあそんな発想は出て来ねぇ。」


然り、とロンフーの発言に頷く法の神殿守備隊の面々。


大恩ある勇者の捜索をかってでた者達だ。

大神官たるツンデレ親父も二つ返事で許可を出した。


流石に全員を向かわせる訳には行かないという事だったが、それでも総勢80名の大パーティーであり、平均レベルは圧巻の99。


あらゆる職業を極め、一人一人が単騎で魔王すら滅ぼせる一騎当千の猛者達だ。



「まぁお嬢!そんな事をしなくても俺らに任せてくだせぇ!この面子なら大魔王すら鼻歌交じりで倒してみせまさぁ。」



口では笑い合う面々。

しかし、その目は決して笑ってはいなかった。


彼等は知っているのだ。

この先にきっとあの6枚羽根の悪魔がやってくると。


この先はいわゆる別の世界。

恐らく襲って来るとすれば、ここしかないだろう。


辺りは大きな山々に囲まれ、その窪地に、街一つ入るくらいの広大な穴が口を開けている。


全員が固唾を飲み覚悟を決める。




その時、バサっと羽根の音が辺りに響いた。



1番最初に気付いたのはミレーヌだった。


「来た!」



まさに悪魔然とした堕天使。

6枚の蝙蝠の様な羽根を羽ばたかせ、悠然とギアスの大穴の上空に佇んでいる。


堕ちた天使。魔王エルギオル・クロウがそこにいた。



【勇者が消えて何をしているかと思えば、こんな所で何をしているんだァあ!?この下にいるんだろう?勇者が!我が敬愛する竜神王様の怨敵が!龍神王様は全知の存在なのだァ!!!逃げる事など出来ぬ!不可!不許可ぁ!】



焦点は合わず、目玉をグリグリと動かし、仰け反りながら激を飛ばす堕天使。


異様な気配を感じ取り、全員が臨戦態勢になり、先制攻撃を仕掛ける。



「敵は上空!距離350!総員!撃てーっ!!」



ロンフーの号令に従いそれぞれが極大魔法や必殺のスキルを繰り出した。総勢80名の勇者が放つ攻撃が空を焦がし、大地を揺るがす。


相手からすると80回の連続攻撃。

総ダメージ数は1万を軽く超える。


途方もない破壊力はその余波だけで大魔王すら倒せる程であった。



「な、何か変じゃなかった?あんな奴だっけ?」


ミレーヌが攻撃を放ちながら、誰ともなく尋ねる。



「……心の中がぐちゃぐちゃですね。恐らく、自分が何をしているのかすら把握をしていないのではないでしょうか。」


「おいおい。フィル。それはつまり、操られているという事か!?」


フィルとステラがそれぞれ休むことなく攻撃を放ちつつ、考察する。



「龍神王……でしたか。そもそもの狙いはなんなんでしょう?ルビシア様によるとこの世界を作り替え、魔王を洗脳しシュウ様を狙う。意味がわかりません。」


各地を巡り色々考察したが、終ぞ答えの出なかった疑念がフィルの口からこぼれ落ちた。




【操られているぅ!?違う!否!不正解!私は私の意思でここにいる!私の魂が世界に使えているのだ!!そしてぇ!龍神王様の目的ぃは決まってるぅう!独りで立ち!独りで歩く為!それこそがあの方の望みなのだぁ!!】



あれほどの攻撃を受けたのにも関わらず、無傷のエルギオネル・クロウが叫びながら爆煙から踊り出す。



【あの男だ!!あの男を殺せれば!あのお方の望みは叶えられる!!!】




「『大地の祝福』!」


リリーの祝福が全員を包み込み、宙に飛ぶエルギオネル・クロウを睨みつける。


「理由など全く興味はありません!貴方はシュウさんを傷付けた!それだけで戦う理由は充分です!」



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