その頃の嫁達

深い深い地下に広がる広大なダンジョンに何百もの絶叫が木霊する。


それを聞いた哀れな生贄の羊達魔物達は逃げ惑い、ダンジョンの通路の隅で震えていた。


何度も振り下ろされる凶刃。

繰り返し唱えられる殲滅魔法。


その姿はまさに捕食者プレデター

そう。



聖戦士達シュウの嫁達である。





「ね、姐さん方、もう今日はこの辺で·····」


「まだだ!まだ足りん!!お前も見ただろう?ロンフー。あの6枚羽の悪魔は異常だ。あの馬鹿げたシュウの魔法を何発もくらって無傷だったんだぞ。こんな程度での力では援護すらままならん!」


「そ、そりゃあそうですが·····。だからってこんな無茶な経験値稼ぎをしなくても·····。」


困り顔のロンフーがステラを諌める。

さっきから魔物達が可哀想で仕方がない。


確かにロンフーとて、ステラ達の気持ちは分からないでもなかった。


シュウがアルスガルドに飛ばされて、はや1週間。


ルビシアのお告げによりシュウの無事こそ確認出来たが、地下世界で囚われになっている事に変わりはない。


その上、6枚羽の悪魔――エルギオネル・クロウがシュウの無事を察知して再度襲いに来る可能性も非常に高い。


その事実がステラ達4人を無茶なレベル上げを敢行させた。




「付き合わせてごめんなさい。ロンフーさん。でも、少しでも良い。シュウさんのお役に立ちたいんです!」



「あの悪魔の耐久性には何かカラクリがあるはずだってルビシア様も言ってたしね!それさえ何とかすれば私達でもお父さんの役に立てる思うし!」



「ロンフー様、ミレーヌやリリィ様の言う通りです。ご面倒をお掛けしますが、もう少しだけお力添えを頂けませんか?」


リリィとミレーヌ、フィルの3人から真摯に説得されてしょうがないと言った顔で手を振るロンフー。



「·····まぁ旦那には義理も借りもありやすし、法の神殿からの命令でもあります。お嬢達に協力はしますが、それでも今日の所は休んでくだせぇ。どっちにしろ世界中に散った守備隊の奴らがそろそろ戻って来ますからね。確か『聖域』でしたっけ?レベル上げはその集めた情報を聞いてからにしてくだせぇ。」



1週間前。


シュウが地下世界に飛ばされたという話と合わせて、正式にルビシアから法の神殿にいるメンバーはある場所を探して欲しいとお告げを受けた。



曰く、そこは創世神ルビシアすら知ることの出来ない真なる神の座。


シュウを地下世界に飛ばした6枚羽の悪魔とその背後にいる龍神王がその場所を掠め取り、この世界を混乱させているであろう元凶。


この世界の全てがそこにあり、同時に全てを意のままにする事が出来る完全なる神域。


『聖域』――。


そんな雲をつかむようなお告げを受けた今代の大神官の判断は早かった。


『聖域』と地下世界に飛ばされた黒金の勇者を探す為に、法の神殿守護隊100名を世界中に散らせたのだ。


曰く、ルビシア様のお告げは元より、法の神殿を救ってくれた大恩ある勇者を行方意不明には出来ないとの事。


ツンデレ親父改め、デレデレ親父である。



「ああ。もうそんなに日数が経ったのか·····。ここの所ずっとこのダンジョンに籠っていたしな。」



お告げを受けてから約1週間、ステラ達はずっとこの隠しダンジョンで寝食を忘れ、熟練度を上げ続けていた。神殿に戻るのも転職をする為の数分のみと言う徹底ぶりだ。


既に全員がシュウよりも多くの職業をカンストさせている。



「アイツらは並大抵の魔王クラスなら単独で撃破出来る猛者揃い。しかも全員が転移魔法すら使えると来てる。誰か一人でも地下世界の入口に辿り着きさえすれば、転移魔法で旦那を迎えに行けまさぁ。」


任せてくれと胸を張るロンフー。

その姿は粗野な野党崩れの冒険者ではなく、百戦錬磨の武人に見えた。



「·····分かってるよ。今更お前達の実力を疑わんさ。しかし、だ·····。」


降参とばかりに両手を軽く挙げ、ため息をつくステラ。


「·····何か気になる事でもあるんですかい?姐さん」


「いや、あー。気になると言うか、だ。」


シリアスな顔で話を促すロンフーに対し、言い難そうにステラが頬をかく。



「·····分かっております。ステラ様。大丈夫。私達4人の気持ちは1つです。」


「まぁ、シュウさんですし·····ね。」


「ぜーったい1人くらいは増えてるよね!」



4人とも、まだ見ぬ新顔に負けまいと必死であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る