オッサンは空気を読めない。
デューエルの敗退から再び勢力は拮抗しだした。
守備隊の殆どが休みなく羊を召喚し、魔物の群れを翻弄し続ける。
半魚人の魔王、グラエルが空中から空飛ぶ魔物を率いて牽制するもののリリーとステラ、ロンフーの3人がそれを果敢に防いでいた。
「ちぃっ!すまん!抜かれた!」
「フォローします!『落とし穴』!!」
ステラの一瞬の隙をついてなだれ込んで来た魔物の群れの先頭集団をリリーが落とし穴に落とす。
「姐さん方!ある程度抜かれるのは無視して構わねぇ!10人ばっかりだが、レベル80以上の奴らを神殿の直衛にあてている!」
【ワシを前に話すとは余裕だな!?『
殺到する魔物を構いもせずに魔王グラエルは無数の巨大な氷の塊を降らせる。
「ステラさん!!」
「任せろ!!『戦姫の抱擁』!そして、杖よ!」
ステラがグラエルの魔法を防ぎつつ、かつてシュウから譲り受けた魔王の杖を使い、グラエルの魔法を封じる。
ちなみに魔王等のボスクラスには効かない事が多い魔封じの魔法だが、グラエルには普通に効く。
【こ、こしゃくな!!本当に魔法が効かんのか!?仕方ない、これをくらえ·····ぐわぁあ!?】
魔法を封じられたグラエルが槍を構えて急降下しようとした直後、リリーが大量の聖水を投げつける。
(まただ!またあの金髪の小娘だ!赤髪の小娘や青髪の男より遥かに弱い癖に、常にワシの攻撃のタイミングを読んで邪魔をしてくる!)
シュウと別れて数ヶ月。
現在、リリーのレベルは72。
村人と言う圧倒的に不利なステータスを持つ彼女にとって、シュウの後を追う旅は死闘の連続であった。
ケーニッヒメタルの鎧に身を包んでいても油断すればスライムにすら殺される貧弱なステータス。
常に相手の出鼻をくじき、自分が有利になるように立ち回り続けた。
それは旅の途中でステラと出会ってからも変わらず、むしろそれは加速した。
「大いなる大地の息吹よ!傷ついた戦士に癒しと祝福を!!『 大地の祝福』!!」
何度目かになるリリーの大地の祝福が守備隊全員を包み込む。
「ありがてぇ!」
「力が湧いてきた!」
「おぉ·····!」
「これでまだ戦える!」
常に羊を召喚し続ける守備隊の面々も先程から魔物に攻撃されたり、魔王の攻撃の余波で少しずつだが傷付いていた。
それでなくても常にスキルを使い続ける事で精神的に疲労が溜まっている。
先程からそれをいち早く感じ取ったリリーが常に回復をし、危険な攻撃を時に身を呈して逸らし続けていた。
それは守備隊は元より、ロンフーやステラ、ミレーヌやフィル、シュウにすら出来ない事だった。
彼等は一気にレベルを上げた強者故に、本当の意味で生死の境目をさ迷ったことはない。
多少傷付いても、その高いレベルや高いステータスのせいで戦えてしまう。
それはギリギリの戦いでは油断や慢心となる。
生まれついた弱者たるリリーにはそれがない。
弱者の目を持って、このギリギリの戦場のダメージコントロールをし続けていた。
【貴様だ!貴様さえいなければぁ!!!】
何度目かの攻撃をいなされ、ごうを煮やしたグラエルが氷の息を吹き付ける。
リリーはレベルこそ高いが、そのステータスは通常の半分以下。レベル30半ば程度のステータスしかない。
いかに高価な装備で身を包もうとも、リリーに魔王の攻撃を防ぐ術はない。
「やらせると思うか?その為に私がいる。」
リリーの前に盾を構えたステラがおどり出てグラエルのブレス攻撃からステラを守る。
「ブレス攻撃の弱点は息を吐いている時、動けない事です。」
えいっとリリーが聖水をグラエルに投げ付ける。
【ぐわぁっ!!ま、また!】
熱湯を浴びせかけられた様に空中でもんどり打つグラエル。
「今です!ステラさん!青髪マッチョの人!」
「合わせろ!青髪マッチョ!!『紅剣舞』!」
「ロンフーだっ!!『
2人の最強技がグラエルを襲う。
その時――。
ギィン!
2人の渾身の一撃を、宙に浮く大きな丸い黒水晶が防いだ。
「なっ!防がれた!?」
「何だ!?」
【な、何故この様な所へ·····】
【ふぉっふおっふおっ。デューエルがやられたと聞いてな。此度の勇者達は一筋縄ではいかん。やるならば確実に滅ぼさねばのう。ムードエルも来ておるぞ?】
それは老人の姿をした悪魔だった。
胡座をかいて空中に浮かび、その周りに幾つもの丸い水晶が浮かんでいる。
【む?こやつらやはり危険じゃな。ワシの暗黒の衣をすり抜けよった·····。】
悪魔はステラとロンフーの攻撃を防いだ際に傷付いた水晶を見て3人を睨む。
「ま、まさか·····」
「こ、この老人が·····」
「や、やべぇな·····。ははっ。確かにその辺の魔物や魔王とは格が違う·····。」
老人の悪魔に付き従うカエル顔の魔王、ムードエルが厳かに告げる。
【控えよ。貴様達は大魔王デッドムーア様の御前に――。】
「おぉ!ラッキーだな!魔王と大魔王が揃ってるじゃないか!」
何処までもあっけらかんとした声が響き、緊迫した空気をぶち壊す。
「お、お父さん!あのカエル顔の悪魔が何か話してたよ!?く、空気を読まなきゃ·····。」
その男はこの世界では見慣れない、黒髪黒瞳の背の高い男だった。
「ミレーヌ·····。シュウ様にあまり無理を言っては駄目よ·····?」
がっしりとした体躯を黒金の豪奢な鎧で包み、腰には同じ色の剣を下げていた。
「お、オッサンでも空気くらい読めるさ!あれはどう見ても大魔王と魔王だろ!そう来ればやる事は1つだ。」
何処までも自然にその右手を大魔王デッドムーアに向けて言い放つ。
「『
【·····え?】
どこか間抜けな声と共に、大魔王デッドムーアとその下僕たちは黒金の勇者シュウが放った最強魔法の光に消えた。
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