おっさんのゲーム世界転移生活日記

現実主義の白百合と夢見がちな星

【新手か！ふははははは！良い！良いぞ！挟撃、伏兵、奇道とは戦の華よ！！】

心底楽しそうに魔王デューエルがステラに向けて魔法を放つ。

【行くぞ！グラエル！合わせろ！】

【おおよ！】

【【合体魔法！極大火炎竜巻魔法（フレアゾロス）！！】】

空を泳ぐ半魚人、魔王グラエルが放った極大真空魔法（エアクロス）とデューエルが放った極大火炎魔法（フレアゾーマ）が合わさり、極大の火炎竜巻となってステラ達を襲う。

「ほぉ？魔法を合体させるとは器用だな。

――だが、無意味だ。『戦姫の抱擁』！」

ステラの固有職業『戦姫』、熟練度8スキルが辺りを覆う。

魔王デューエルとグラエルが放った火炎竜巻がスキルに誘導され、その進行方向をステラに向ける。

「あ、危ない！おい！避けろ！」

咄嗟に叫び、ステラに駆け寄ろうとするロンフー。

誰だか知らないが、傷ついた自分達の前に立ち、身を呈して庇う彼女を捨て置けなかったのだ。

全てを焼き尽くす炎の渦に飲み込まれる時、ステラの付けていた腕輪が薄く紅に光るのをロンフーは見た。

その瞬間。

辺りを燃やし尽くす程の炎が一瞬で消え去った。

流石のデューエルと理解出来ずに狼狽える。

【な、何故だ·····？何故、まだ立っている！！何故私達の魔法が消え去るのだ！？】

ステラが黒金の剣を抜き放ち、不敵に笑う。

「おいおい。魔王よ。お前は私を誰だと思っているんだ？」

その真紅の鎧姿は赤い光に包まれ、その容貌と合わさり、まるで炎の精霊のように見えた。

「いやしくも黒金の勇者シュウの相棒。真紅の戦姫。ステラ・ライボルト・アントヘイルだぞ？」

シュウに貰った愛用のケーニッヒメタルの剣を堂々と地面に突き立て、陣取る。

「私に魔法攻撃全般は効かん！私を恐れぬのならば、堂々とその身で掛かってこい！！」

正に威風堂々とした姫騎士の姿がそこにあった。

【良いだろう！相手にとって不足はない！大魔王デッドムーア様の配下が1柱！魔王デューエル！貴様に勝負を挑もう！！】

ステラの名乗りに呼応し、デューエルが大きく構える。2人はお互いの力量を読み取り、今から始まる強敵との戦いに思いを馳せ、笑みをつくった。

「大地よ！我が意に従え！『落とし穴』！！」

デューエルの足元に突如として巨大な落とし穴が口を開く。

まるで時が止まったかの様に、不敵な笑みで構えたままのデューエルが落とし穴の中に姿を消した。

『村人』の熟練度8スキル、『落とし穴』である。

基本的に攻撃スキルを覚えない村人が唯一覚える攻撃に使えるスキルだ。

ゲームでは飛んでいる敵には使えないし、攻撃が当たるのに1ターン余分にかかり、外れる率も高い産廃スキルとされているが、現実ではその奇襲性能は侮れない力がある。

「···············おい。リリー。空気を読め！空気を！今まさに正々堂々と勝負をだなぁ！」

尋常の勝負をするつもりだったステラが堪らず抗議の声をリリーに上げる。

「ステラさん。悲しいけどこれ戦争なんで。

さぁ早く今のうちに·····あ。これ使わせてもらいますね？」

空気を読んだ上でシレッとデューエルを落とし穴に突き落としたリリー。

孤児院の迷惑になりたくないから餓死を選んだり、危険性を理解した上でシュウの怪しい依頼を即決で快諾するなど、割りと目的の為には手段を選ばない傾向にあった彼女。

シュウに追いつく為に積み上げた戦闘経験が完全に恐ろしい方向で花を開いていた。

【な、何だこの水は！？や、焼ける！ぐぁあああ！】

「こ、これは聖水！？シュウか！これはシュウが用意したんだな！？」

【で、デューエルっ！！！】

「·····あ、あれ？ステラさん、聖水に何かトラウマでもあるんでしたっけ？あ、ほら！半魚人が来てる！早く立ち上がって！！」

リリーは目敏く積み上げられたシュウが用意した聖水の詰まった木箱を発見し、どんどんと落とし穴に聖水を投げ込んで行く。

落とし穴の深さは10ｍ程だが、既に3分の1程が聖水で満たされている。

ゲーム内で言うなれば、デューエルのHPは約3000。

聖水1本で50の固定ダメージである。

つまり。

【ぬわぁあああああぁぁぁあああああ！！】

魔王デューエルは深い穴の底で塵となって消えた。

「リリー。今からでも遅くない。シュウと一緒に騎士道を学ぼう。私も頑張って教えるから。」

「はい！私、学がないので、頑張ります！」

基本的に、面倒見が良いステラと素直で前向きなリリーの2人は非常に相性が良い。

ただし、ロマン主義と現実主義と言う決定的な違いがあった。

「·····まぁいい。さて、シュウが来るまでにあの半魚人も倒すとするか。」

「はい！大魔王まで倒してシュウさんを驚かせましょう！」

お互いの想いを知りつつも、それを認め合い、ここまで来たのだ。

「白銀の聖女と言うのも気になるしなぁ」

「寂滅の大魔道士でしたっけ？お告げによると。

ここまで来るとぜーったい女性ですよね？」

そして何より、神のお告げ（告げ口）により導かれたのだった。