生贄の村とイベント戦闘
さて、この山と海に囲まれ、魔物に支配された地上の牢獄たる吹き溜まりの村なのだが、実は魔物達のもう1つの罠でもある。
一言で言うならば蠱毒なのだ。
力を奪い、一つの村に押し込め、不安や不満を増長させ戦い合わせる。そうして勝ち抜いた戦士を捕えて再度力を抜き取り、殺す。
そうやって人間達から力を集めて、主たる大魔王オルドデミウスに力を送ると言う計画である。
つまり、この村は非常に治安が悪い。
全員が力を奪われ、逃げられない上に魔物達が争いを煽ってくるのだ。そりゃあピリピリする。
一応、狩りや農耕をしており最低限の食料はあるらしいのだが、その食糧を取り合って日夜、弱肉強食の奪い合いが起きている。
こんな僻地じゃあ娯楽も少ないだろうしな。
うーむ。やはりこんな所はさっさとクリアするべきだな。転職もしたいと言うのもあるが、ミレーヌの教育に良くない。
取り敢えず湖から上がって服を乾かし、村の中を見て回ると、そこはまさにスラム街だった。
荒れ果てた荒野にボロボロの建物が寄り添う様にひしめき合い、道行く人々の目は暗く澱んだ目をした奴ばかりだった。
「ふざけんじゃねえ!オレは有り金全部寄越せって言ってんだぞ!」
「かかか、勘弁して下さい·····」
「この村に住む者は決して魂の剣を手にしてはならない。譲りや集りを見逃すこの村を束ねるロンフーが唯一取り決めた掟なんだ。あぁ。後は殺人もだな。」
「逆に言えば、ここではそれ以外は全て許される危険な村じゃよ。お若いの。夜は特に気をつけなされ。」
「この町に なじめぬ者が『魂砕き』に望みを託し、魂の剣を手にするからだ。魔物に支配された この地から逃れる為には『魂砕き』に挑戦する他ないからな。」
――とまぁこんな感じだ。
俺とミレーヌは道行くカツアゲ野郎を倒し、適当に飯屋や道具屋を冷やかし、情報収集を行った。
ちなみにこの村、ステータスアップの種が幾つか落ちているので忘れずにしっかり回収しておく。
うむ。色々種類が溜まって来たな。
うん。この至る所から香る荒んだ世紀末な感じ。
概ねゲームと同じだな。
やっぱりさっさと抜け出そう。
ちなみにゲーム内では言及されていなかったが、スリ何かも多い。あ、また来た。
今の俺は高ステータスの恩恵で化け物クラスの動体視力を持っているので盗られる事はないのだが、煩わしくてしょうがない。
さっきからデコピンで吹っ飛ばしているのだが、それでも当てた所が砕けるのでいちいち薬草で回復させている。薬草は幾らでもバグで増やせるが、面倒臭い。
「ねぇお父さん。さっきの店員さんが言っていた『魂砕き』って何だろう?」
本日8人目のデコピンで吹っ飛ばしたスリを薬草で回復しているとミレーヌが尋ねてきた。
うん。まあ気になるよな。
うーん。何といえば良いかな?ゲームの設定上の罠と言えばそれまでなのだが·····。
【さあ 誰か!名乗りをあげる者はいないか!?
我こそはと思う者はいないか!?魂の剣に己の未来を託す勇者はいないか!?】
何やら村の中心にある広場で声が上がっている。
おぉ!そう言えば『魂砕き』の説明イベントがあったな。丁度良い。あの説明に乗っかろう。
広場に行くとコウモリの翼が生えた魔物がキーキーと耳障りな声で『魂砕き』の参加者を募っていた。
「魂の剣だと?それはいったい何だ。」
都合良く、何故か魂砕きを知らない村人Aが魔物に質問をする。ゲームでも思ってたけど、あれ、仕込みじゃないだろうか?
【我等魔族の魔法による人の魂より造りし魔剣だ。その魂の剣で五つの魂を砕いて見せよ!そうすれば、その者の勇気を称え、奪った力を返し自由を与えてやろう。】
「そ、それは本当か!」
【無論!法の神殿の主であるカーディナルアント様は平等を重んじる御方だ!例え人間であろうとも勇気ある者には賞賛を惜しまない!】
うん。それ嘘。
小説版や漫画版で少々設定が違うのだが、基本的に『魂砕き』は、魂を砕かれた人間から力を吸い取る邪法である。
そうやって出涸らしの力を寄せ集め、最後にその力を奪って殺して捨てるのである。
まぁ確かに?死ねば自由と言う考え方もあるだろうが、俺は御免こうむる。
なんて事をしっかりとミレーヌに耳打ちしていると、また騒がしくなって来た。
「オラ!テメェらさっさとハケやがれッ!魔物の誘いに乗るヤツなんざこの村にはいやしねえぞ!」
まるで鍛え抜かれたボディビルダーの様なガタイをした逆立てた青髪とぼうぼうに生やした髭がトレードマークの上半身裸の変な奴がやって来た。
その後ろに同じ様なガタイのオッサン2人も着いてきているので暑苦しい事この上ない。
おー。やっぱりゲーム通りにやって来たか!
この村を纏めているロンフーとその取り巻き達だ。
【ぬぅ、邪魔が入ったか。だが忘れるな!!
この地上の牢獄から出たければ『魂砕き』に挑む他ないことをな!】
「けっ!しゃらくせぇ!!昼間っから舐めた真似してくれやがって!」
見た目は完全に野盗の親分だが、これでこの男、実は馬鹿ではない。
野生の勘か何かで『魂砕き』のきな臭さを嗅ぎ取り、村の人達には絶対に参加しない様にと言い聞かせている。
それにかなり乱暴だが、一応この荒くれ者の村を纏めていると言う実績があるのだが·····。
そう。問題はその纏め方だ。
「さてと……。お前らか? 新入りってのは。
ようこそ!ならず者の村へ。」
この台詞は聞き覚えがあるな。
イベント戦闘のフラグだ。
「オレはこの村を束ねるロンフーってモンだ。
へへ、すまねえな。あいさつしに来るのがちぃとばかり遅れちまってよ。
さあ 歯ぁくいしばんな。剣と拳がオレのあいさつだ!いくぜ!野郎ども!!」
やっぱり来やがったな!
デモクエだと珍しい、悪名高き勝ち逃げされる負けイベント!
ゲームでの鬱憤、ここで晴らさせて貰う!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます