ミレーヌの冒険

この町に来て1週間くらい、シュウさんお父さんがおかしい。


日に日に口数が減り、今では虚ろな目をして中空を眺めている。こちらの言うことは分かってくれるので、食事は出してくれる。でも、自分で考えると言う事が出来なくなっている様だ。



街の人達と同じだ。




既に日が落ち、真夜中の宿の部屋。

隣のベットで寝息を立てるお父さんを見る。



でも何で?

お父さんはこの町の事を知っていたし、決して町の物を口にしようとはしなかった。

それに何で私だけ·····。



装備?



そうだ!お父さんが買ってくれたこの髪飾り!

確か『白銀のティアラ 』には毒を防ぐ効果がある!


毒がこの町には溢れてるんだ。

でも、食べ物は食べていないはず·····。



何か甘い匂いがするな。お香か?



お父さんがこの町に着いた時に言っていた!

匂いだ!


真っ暗な部屋を見渡す。

月明かりを頼りに部屋を探すと窓辺に置かれた香箱が目に入る。


窓を開け、それをそのまま外に投げる。

これで多少はマシになるはずだ·····。


その時、ふと違和感に気付いた。



町が騒がしい?



【定期船だー!!定期船が来たぞ!!⠀】


羽の生えた悪魔が、その姿を隠そうともせずに空から耳障りな声で告げる。


【幸福の町への定期船だぁ!!乗り込め!!】



月明かりに照らされた街の至る所に魔物が立ち、夢遊病者の様にフラフラと歩く街の人達を船着き場に誘導して行く。



ど、どうしよう。船が着ちゃった。

それに、魔物があんなにいっぱい·····!


確かお父さんが言っていた。

満月の夜に船がやって来て、ここの町の人達を魔物達が連れ去ってしまうのだ。


満月の夜は今日だったのだ!


1人でグルグルと悩み出す。



バタン。


「お、お父さん!?」


さっきまでベットで寝ていたお父さんがまるで連れて行かれるように外へ出ていってしまった。



ど、どうしよう·····。お、お父さんを止めないと!


直ぐに服を整え、買って貰った防具を付ける。

初めて買って貰った装備品が嬉しくてこの一週間、何度も付けては外すを繰り返している。

もう付け方は完璧だ。


最後に腰の邪魔にならない所にナイフを装備する。


白銀に輝くとても細工の細かなナイフだ。

柄をぎゅっと握り締めると胸が熱くなる。

ナイフからまるで勇気が流れ込んで来るみたいだ。



宿屋の外には虚ろな目をした街の人達がゾロゾロと列をなして歩いていた。


時折、魔物達がそれを監視するように道の端に立っており、列を乱すなと声を上げる。


人の波に紛れ込み、私も街の人達と一緒にお父さんを探しながら船着き場を目指す。


虚ろな目をするのは得意だ。

だってお父さんと会うまでは、私もそうだったんだから。


多分、そんな事を言うとお父さんはまた困った顔をするんだろうな。そして頭を撫でてくれる。

もしかしたら甘い物を出してくれるかもしれない。


お父さんの優しさを思い出すだけで、不思議と恐怖がなくなっていく。

貰ったナイフをまた握りしめる。





船着場にはとても大きな船が着いていた。

ボロボロの外装が余計に不安を掻き立てる。


まるで絵本に出てきた幽霊船みたいだ。



悪魔達に言われるまま、町の人たちは船に乗り込んで行く。


い、行かなきゃ。

お父さんと離れたくない一心で船に乗りこむ。


船の甲板に街の人達が詰め込まれ、少し高い位置にいる魔物達が監視をしている。


でもこっちを見ていない。

仲間の魔物と皆落ち着いて談笑している。


中にはウトウトと眠りこけている魔物もいる。


お城の牢屋の見張りと一緒だ!

ここは逃げ場のない船の上。

しかも薬でおかしくされた人達しかいないから見張りもやる気がないんだ。


これなら多少動いても見つからない。

目立たない様に周りを見渡すと――いた!

お父さんだ!


お父さんの手を引いてゆっくり物陰に連れて行く。

いつもお父さんが腰につけている魔法の袋からマントと鎧と剣を取り出して着せてあげる。


お父さんのこの鎧は魔法の鎧で、服を着せるように簡単に装備させてあげられる。


お父さんがおかしくなってから毎日私が付けてあげていたんだから、慣れたものだ。


虚ろな目で中空を見るお父さんの頬にキスをする。



「絶対、私が助けてあげるからね」


そう言ってお父さんの手をぎゅっと握り締める。

今度は私がお父さんを助けるんだ!

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