抗い。

幽霊船に乗って数時間。

私とお父さんは船底の物置に隠れる様に過ごした。


時折フラフラと魔物が近くを通ったが、身を屈めてやり過ごした。


「大丈夫だよ。お父さん。私、今まで街でも牢屋でも身を隠してやり過ごしてきたもの。隠れるのは得意なんだ。」



そう言いながら、シュウさんお父さんがしてくれた様に頭を撫でて笑いかける。



話し掛けると薄らとお父さんから反応が返って来るんだ。きっと私の声はお父さんに届いている。


だから、お父さんは良くなる。


絶対の絶対にだ。


虚ろな目のお父さんを見ていると泣きそうになる心に喝を入れる。



【ン?何か物音がシタカ?】

【匂うぞ?人間の匂いだ。何でこんな所から?】



不味い!

ドアから豚のような顔をした魔物が入ってきた。


ど、どうしよう·····。

み、見つかっちゃう·····。



私が恐怖で目をつぶった瞬間。


ガタガタ。ドタン。


【あぁン?誰ダヨ。こんな所に生贄を誘導した奴ハ?】

【んな訳なイダロ?たまにいるンダヨ。薬の効きが悪い奴ガ。適当に殴って大人しくさせて甲板に上げテオケ。】



お、お父さん!?


私が目をつぶった瞬間に魔物達の前にお父さんが出て行ってしまった。


何度も何度も殴られるお父さん。

わ、私、私、ど、どうしたら――。


泣きそうになった瞬間、お父さんと目が合った。

お父さんの目には少しだけ意志の光が宿っていた。



『今は隠れていなさい。』



そう言われた気がした。



【おーイ。なにしてンダ?もう島に着くぞ!!】


【今行ク!·····ったく、何て頑丈な奴ダ。】

【よっぽどの戦士ナンダロウヨ。こうなったらお終いダロウがな。ほら。早く連れテイケ。】


魔物達がボロボロになったお父さんを連れて行く。



お父さん――。

1人取り残された物陰で声を殺して泣きながらナイフを握り締めると、ナイフが薄らと白銀に光る。


ナイフが光った!?

優しい光が私の手を覆う。


まるで励ましてくれているみたいだ。


「うん。うん。ごめ――。ううん。励ましてくれてありがとう。もう大丈夫だから·····。だから――。」


私に、力を貸して――。






そこはまるで神殿の様だった。


大きなフロアに魔物の群れがひしめき合い。

一段高くなったステージには、大きな篝火が焚かれ、街の人達が並べられていた。


私も街の人達の列に紛れ込み、目立たない様にキョロキョロと目を動かし、お父さんを探す。



いた!ステージの真ん中の方に、お父さんが虚ろな目をして立っていた。


あぁ。顔にアザが·····。


待ってて!今助けるから!


何とかお父さんと抜け出す隙はないか辺りを窺う。


何かの集会が始まるのだろう。

ステージの中央に置かれた石造りのベットの横で、一際大きな、鳥頭の悪魔が演説をしている。



【見よ!この哀れな人間たちを!己の欲望のままに生きた身勝手な者を!不遇な生から逃げ出すしか出来ない弱き者を!幸福の町等と言う甘言にやすやすと惑わされる愚か者共を!】



悪魔の言葉が私に突き刺さる。


不遇な生から逃げ出すしか出来ない弱き者。


あぁ、そうかもしれない。

私はただ、助かりたかった。

逃げ出したかっただけだなのだ。

悪魔の言うことは正しい。



【聞け!我が同胞達よ!

例え、大魔王様が封印されようと、このジャミエルがいる限り、魔族は滅びん!我を讃えよ!我を崇めよ!そして今ここに大魔王様復活への生贄を捧げる!】



【【【ジャミエル!!ジャミエル!!】】】



生贄!?

ろくな目的ではないと思っていたが、まさかそんな!


鳥頭の悪魔がお父さんに近づいて行く。

お父さん!!


【今宵の最初の生贄はこいつだ。

むぅ。中々の戦士だな。大魔王様もお喜びになるだろう!】



お父さん!お父さん!お父さん!お父さん!

頭の中が真っ白になって鳥頭の悪魔に向かって走る。




抗いなさい。

抜いたなら、躊躇をしてはいけない。



2人の教えが私の中に染み込んで行く。

そうだ。教えて貰ったはずだ!

力を貰ったはずだ!


腰に差した鞘からナイフを引き抜く。

私に力を貸してくれる様に暖かな白銀の光に刀身が包まれる。



「うわああああああああぁああぁああ!!」


お父さんは私が守る!!



走り出した勢いのまま、腰だめに構えたナイフを悪魔に突き立てる。


白銀に輝く刀身の光が辺りを包み込む。



【ぐぅう!この餓鬼!薬が効いていないのか!?】


バキっ!


悪魔に振り払われ、飛ばされる。

勢いで口を切ってしまった。

頬がジンジンと熱い。


諦めない。

私は絶対諦めない。逃げない。

お父さんを助けるんだ!!


手に持ったナイフが私を励ますように再度輝く。


「お父さんを返せ!!」


【ふん!多少順番が狂ったが、今宵の生贄は貴様からだ!小娘ぇえ!!】


炎を纏った爪が私に向かって振り下ろされる。


ナイフを握りしめて再度突き立てるべく突進する。



ドン!



·····あれ?

ナイフを突き立てたが、何時まで経っても悪魔の爪が私を刺すことは無かった。


上を見上げると、あの恐ろしい悪魔の腕がなかった。



不意に後ろから声が聞こえた。



「ウチの可愛い娘になにすんだ。鳥野郎!!」



そこには剣を握ったお父さんが立っていた。

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