お父さん

「うわ!来た!ゴミ漁りのミレーヌだ!」

「くっせー!近寄んなよ!」


「また部屋を汚して!本当に迷惑ばっかりかける子だね!あぁ臭い臭い!!」

「ほら。そこに落ちているパンくずでも食べてろ」


「こんな小汚い小娘が視界に入るだけで不快だわ!牢屋に入れておしまい!!」


「あーん?何だ?お前が相手してかれるのかぁ?」




世界は怖い。

悪意に充ちている。

きっとそこには救いなんかないんだ。


もう、終わるなら終わらせて欲しい。







シュウさんは変わった人だと思った。


怒鳴らないし、ゴミをぶつけない、殴りもしなければ、下卑た目で私を見ない。


どこか困った様に、でも私を安心させようとしてくれた。


並べられた料理の豪華さに驚き、一緒に食べようとの言葉で、気持が溢れ出してしまって泣いてしまった。



泣いているといつも殴られた。

慌てて涙を止めようとしても、涙は止まらない。


身を竦めて謝る私を見て、困った顔をしながらシュウさんは、ありがとうと言うと良いと教えてくれた。


そんな風に言ってくれたのはシュウさんが初めてだ。



小さな声で言ったありがうと言う言葉に、シュウさんはとても嬉しそうに頷いてくれた。



そこからは驚きの連続だった。



カルカナと言う町に着いた時に、宿でまず身体を洗えと大きなタライとお湯を出してもらった。

お風呂と言うらしい。


お湯が真っ黒になったのを見て、シュウさんは何度もタライのお湯を変えてくれた。


その後、シュウさんに服を買って貰った。こんな綺麗な服を着るのは初めてだ。


いつもはゴミ箱から拾った布切れを自分で継ぎ接ぎして作ったワンピースを着ていたのだ。




この町はおかしい。

街の人の多くは皆地面に座り込んで何処かをボーッと見ながら涎を垂らし、何かを呟いている。


シュウさんから魔王のせいだと教わった。

何でも、生きることに絶望した人がこの町に来て、こうなってしまうらしい。


でもそれは、私みたいな人間からすると、ある意味救いかもしれない。


そんな事を言うと、困った顔で頭を撫でられ、

1本の綺麗なナイフを貰った。


凄く綺麗なナイフだ。

少し青みがかった白銀で、吸い込まれそうなほど美しい。


ナイフに見蕩れる私を、シュウさんは難しい顔で見ていた。


そして、意を決した様に、私の肩に手を置いて、真剣な顔で教えてくれた。



このナイフは決してみだりに抜いてはいけない。

でも、使う時は躊躇をせずに使わないといけない。


その言葉を聞いた時、あのお姉さんを思い出した。



最後まで、抗いなさい。



あぁ。このナイフはその為の力なのだ。

絶望に抗う為の、ちっぽけで、でも確かな力。


シュウさんは優しい人だ。

私のような子どもにそんな事をさせたくないから、あんな難しい顔をしていたのかもしれない。



「シュウさんが、お父さんなら良かったのに·····。」



私の呟きを聞こえたのか、シュウさんお父さんは優しく微笑んでくれた。


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