そして。

デーモン・プリーストが討たれた三日後の夜。

カーサブランカ王国周辺に住む人々は夢を見た。


銀髪の美丈夫の魔族と金髪の見目麗しい少女が出てくる夢だ。



曰く、巷で流れている闇の王を復活させようとした悪しき神官は黒金の勇者と真紅の戦姫に討たれた。


この地に住む魔族は争いを望んでおらず、ただ平和を求めていると訴えるものだった。


この夢のお告げは、ゲームではローザが1人でピエトロを止めて欲しいと訴えるイベントだったのだが、仲睦まじい2人が種族を超えた愛を訴える姿がとても印象的だった。



そして·····。





「ぬぅ。本当にもう行くのか?ローザ様とピエトロ様の大恩人じゃ。何なら2人の新居を用意するぞ?」



早朝のローザタウンの入口で村人達に見送られる。

ピエトロとローザは夢のお告げを告げた後、既にこの地を立ち、魔族の国へ向かった。


急先鋒のデーモン・プリーストは死んだが、人間の国への戦争を進めている派閥はまだ多いらしく、不戦派を取り纏め、情勢を決するらしい。


デーモン・プリーストの謀叛を知り、狙われたローザを心配するピエトロに、争う意思はもうないと感じた。


ピエトロは、願わくばお前と戦わずに済む選択肢を取りたいものだと爽やかな笑顔で去っていった。


くそぅ。真のイケメンは心までイケているのか!?




·····しかし、この爺。


何ならどころか、既に建築予定地まで決めてやがるのを俺は知っている。

この村の奴らはつくづく陰謀が好きだな。


呆れた顔で多角経営爺を睨む。


「この村もピエトロ様の肝いりで発展させる事が決まったしのぅ。人材が足りんのじゃ。もうちょっとこの村に留まり、結婚して子どもを何人かこさえて、その子達が成人してからでも·····。」


「永住させる気か!」


「うーむ。非常に魅力的な提案だが、私達も旅の目的があってな。残念だが·····。いや、本当に。」


心底残念そうなステラを軽く小突く。

まぁ俺も嫌ではない·····。

と言うか魅力的なのは認めよう。


「お告げを無視するのも気持ち悪いしな。

実際、気になる事もある。俺はこのまま砂漠を超えて『 法の神殿』に向かう。」



既にゲームマスターの存在をほぼ確信している俺としては、お告げを無視する気にはなれなかった。


神の手のひらの上で踊ると言うのもどうかと思うが、それだけ魔王という存在は大きい。



「ならこのまま2人で砂漠超えか?まぁそなた達なら心配はしておらんが。」


「いや·····。行くのは俺だけだ。ステラとは一旦この先で別れる予定だ。」


「例の夢のお告げだけでは闇の王の不安が拭いされたとは思えん。近隣の街や国を巡りつつ、アントヘイル王国に一旦この事を報告に行くのだ。

魔族側からだけでなく、人側からも歩み寄ってこその和平だろう。」


ガシッとステラの手を握る爺。


「素晴らしい!流石は『真紅の戦姫 』じゃ!

是非とも全てが終わったらシュウ殿と一緒にこの村へ!何十人子どもが出来ても大丈夫な家を建てておきますゆえ!!」


オイオイ。どんだけグイグイ来るんだよ。

満足気な顔をしたステラと爺を呆れた顔で見つめる。


子どもは何人の予定だとか、2人とも強い戦士なのだから道場を建てるので村の者を鍛えて欲しいとか、間取りがどうのとやけに具体的な話をしている。


待て。まさか今のやり取りで移住が決定したとか言わないよな!?





ローザタウンを出発し、街道へ続く分かれ道。

ここでステラとも一旦、お別れだ。


アントヘイル王国へ向かう西側を向いて、ステラが告げる。


「さよならは言わん。別れも昨日済ませたしな。」


背中で語るとは流石の男前っぷりである。

そこまで男前になれない俺はつい口を滑らせてしまった。


「·····お前と過ごしたこの数日、楽しかっただけに寂しくなるな。」



ビクッとその背中が震え、次第に震えが大きくなる。ガバッとステラに抱きつかれる。



「お前は本当に卑怯だ!私がどれだけ!どれだけ!」


滂沱の涙を流しながら強く抱き締めてくる。

その顔はまだ幼い少女に見えた。


そのおでこにそっと口付けをする。


「すまん。ただ俺の正直な気持ちだ。」


「·····おでこじゃヤダ。口じゃないと許してやらん。」



朝日の紅い光に照らされた2人の影がそっとひとつになる。


「また会えるよな?」

「当たり前だ。待ってるぞ。相棒。」




これが後の世吟遊詩人に広く歌われた、黒金の勇者の相棒、真紅の戦姫の物語の始まりとなる。

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