紅の光

頭が真っ白になった。


燃え盛る炎の中からステラを抱き寄せ助ける。

焼け焦げた臭いが鼻についた。


ステラ。なんで。どうして。ステラ。油断。おれのせい。許せない。ステラ。ステラ。


頭の中でゴチャゴチャと後悔が渦巻く。



この世界に来てから俺は戦闘で傷付く事もなく、誰かが傷付く所も見たことがなかった。


ゲームの延長上。覚悟も何もないまま、ただ流されるままに好き勝手をしたツケを払わされたのだ。


その代償は限りなく大きかった。



「ステラ!ステラ!目を開けてくれ!」


俺の目から涙がポロリとこぼれ落ちる。

弱々しくステラの瞼が開く。


ああ、クソ!

あんなに溌剌としたステラが嘘のように弱っている。


上薬草を出す為に魔法の袋をあさる。

焦って上手く薬草がとれない。



「大丈夫だ·····。し、シュウが無事ならそれで良い。」


「ステラ!死なないでくれ!俺の、俺のせいで!」


ステラを横抱きにしながら、いつもと変わらない白い手を握り締める。



「シュウ。貴方の事が好きだった·····。」


「あぁ!あぁ!俺もだ!俺もお前の事が·····。」




いつもと変わらない白い手?

·····うん?




「む。もうバレたか。言質を取りたかったが、まぁ好意は確認出来たし、良しとするか。」


そこにはさっきまでの弱々しさなど微塵も欠片も全く感じない、いつものステラがいた。


よくよく見れば、マントの先が少々焦げてはいるが、それ以外にどこにも焼けた跡などなく、いつもと変わらない、いや。


薄らと紅の光を身に纏っている?




もしかして!止炎の腕輪の効果バグか!!



この腕輪には状態異常への完全耐性がある。

そして、その機能を持って『 血の衝動』のバーサク状態を抑え込んでいるのだが、


初期版のデモクエ4ではそこにバグがある。


状態異常への耐性計算が、魔法その物への耐性計算に影響を及ぼすのだ。


試算されたデータによるとおおよそ9割。

他の装備で魔法耐性を上げてやれば、元々の高いHPと物理防御と合わさり、鉄壁のディフェンダーとなる。


当然、ゲームバランスを大きく崩すため、リメイク版では修正されたバグだ。




「異性に抱きしめられると言う状況は初めてだが、存外悪くないな。ただ、欲を言えば鎧だと少々硬すぎる」


「·····言ってろ。」


「くっくっくっ。普段は無表情なのに、時折そうやって感情が顔に出るのは可愛いぞ。シュウ。」


おっさんのギャップ萌えに需要があるとは知らなかったな。


下らない事を言いつつもお互いに剣を構える。




【『 極大火炎魔法フレアゾーマ』】



「『戦姫の抱擁』!」



ステラの固有職業『戦姫』、熟練度6スキルが辺りを覆う。


性能は全体防御+防御力アップの壁タンク技だ。



デモクエ4では主人公パーティーのメンバーは転職出来ない代わりにそれぞれ固有のスキルがある特殊職業についていた。


ステラの場合は『戦姫』。

基本的には戦士と同系統の職業だが、より攻撃力と防御力に特化し、その上それなり以上に素早い壁タンク職だ。



デーモン・プリーストの放つフレアゾーマがステラのスキルに誘導されてその進行方向をステラに向ける。


太陽の如き炎がステラに当たる瞬間、付けていた腕輪が薄く紅に光り、辺りを燃やし尽くす程の炎が消えさった。


うーん。確実にナーフ案件である。




「まぁ何にせよ·····。とっとと片付けるぞ!」


「あぁ!」




魔法も物理攻撃も通じないデーモン・プリーストに為す術はなく、拳大の魔石のみを落とし、塵となって消えた。

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