とある真紅の戦姫の独り言


アイツを一目見たときから、目が離せなかった。



初めて会ったのはカーサブランカ王の謁見の間。

この国に訪れた旅人はその日のうちに王の予言の話を告げられる。


謁見の間で暇を潰していると、1番最後にアイツがフラリと部屋に入って来た。


珍しい黒髪黒目の偉丈夫。


遠目からでも分かる程の分厚い金属鎧を着込んでいるのに、まるで普通の服を着ているような軽い足取りで謁見の間に入って来たのが印象的だった。



王の話は闇の王の復活を告げるものだった。

確かに備えは必要だとは思うが、徒に民を不安にさせるだけではないのだろうか?


そんな事を思いながらチラリとアイツを見ると、何か考え込むように、顎に手を当て黙考する横顔が見えた。



歳の頃は40くらいだろうか?

マントの隙間から覗く、黒金の豪奢な鎧、腰に差した真新しくも使い込まれた剣。


まるで軍略を練る歴戦の将軍の様だ。



軍か·····。


故郷では騎士団に所属していた。


王女と言う身分ではあったが、ドレスやアクセサリーよりも剣と鎧を好む性分だった為、強引に騎士団に入団し剣を振るう毎日だった。


好きこそ物の上手なれと言うのか、気付けば国で並ぶ者のない剣士となっていた。


しかし、15の時にあるスキルを覚えてしまう。




『 血の衝動』




戦いが長引けば興奮が抑えきれなくなり、ただ1人敵を屠り続ける呪いにも似たスキルが発現した。


次第に周りから人が寄り付かなくなり、気付けば1人でいる事が当たり前になった。



『 殺戮戦姫』

『 血塗れの姫騎士』

『 返り血の乙女』

『 血に狂う王女』


裏で誰に何を言われようと、平気でいようと決めた。


自分の弱味を見せるのがたまらなく嫌だったのだ。



2年後、故郷で起こった子どもの連続誘拐事件の解決した際に国を出奔する事を決めた。


それは多分、誰にも頼る事も出来ない王女として、騎士としての生活に疲れてしまったのだろう。


内心で、もう帰ることはないと決意し、旅支度を整えた。


剣に鎧、マント、簡単な日用品、数日分の携帯食料、そして大好きだった騎士物語の本。



アイツに声を掛けたのも、その物語の主人公にどこか似ていたからかもしれない。



挑んだ勝負はあっさりと負けた。

アイツはステータスや武器の差だと言っていたが、戦場や魔物相手に同じ言い訳は通じない。


身体云々は冗談半分ではあったが、半分は本気だ。


私としてもそういった事に興味はあるし、アイツの様な渋い戦士は、まぁ、ハッキリ言って好ましい。


·····等と思っていたらあっさりと断られた。

これが大人の余裕だろうか?



その後すぐに、それなりの恥を忍んで仕返しをした。


戦果はまずまずだと自負していたら、あっさりと不意打ちを食らった。本当に卑怯だ。


件の騎士物語の中でも1番好きなシーンをしれっと再現されたのだ。


その上、アイツとお揃いの剣だ。

剣の価値は元より、お揃いと言うのが憎らしい。



しかも畳み掛けるように相部屋となり、可愛いと言われ、まるでお姫様を扱う様に夕食に誘われた。

いや、国元では確かに姫だったのだが·····。


夜なんか一睡も出来なかった。

むしろ、こんな状況で眠れる訳が無い!



念入りに身体を洗い、新品の下着もおろし、悶々とした気持ちで布団に包まった。


所詮、聞きかじった知識しかない私は悩んだ。

上手く出来るだろうか?

何か粗相を起こさないだろうか?

優しくしてくれるだろうか?

いや、多少強引に迫られるのも悪くない。


うん、そうだな。

組み伏せられて唇を奪われるとか悪くない。


あまつさえ、そのまま服を剥ぎ取られて·····。

悪くない!悪くないぞ!



·····などと妄想していたら、気付けば朝になっていた。


チラリと布団から顔を覗かせると、グースカと眠るアイツの顔が見えた。



正直、腹が立った。


確かに捨て鉢な気持もないではない。

興味本位も確かに認めよう。


しかし、これではあんまりではないか。

これでも昔は三国一の美姫ともてはやされたのだ。


ベットからのそりと起き上がり、呑気に眠るアイツの寝顔を憎々し気に見下ろし、はたと気付く。



相手の行動に一喜一憂するなど、初恋をした少女みたいだ。



その言葉が、ストンと胸に収まる。


あぁ、そうか。私はコイツに恋をしているのだ。



親子程も年の離れた異国の戦士。

シュウと言う男に、ステラと言う少女は恋をしたのだ。


それに気付くと世界の全てが明るく色づいて見えた。


旅に誘われた時は天にも昇る気持ちになり、

強敵との戦いの予感に血肉が滾り、

シュウの強さに見惚れた。


アイツは私が思い悩んでいた事をさらりと解決する。


地道に魔物と戦いながらも、伸び悩んでいたレベルは一気に引き上げられ、あれ程苦しんだ『血の衝動 』をあっという間に抑え込んでしまった。



アイツはこれからも、誰もなし得ない様なことをさらりとやり遂げて行くのだろう。


願わくばその一助となり、いつまでもアイツを傍で支えたいと思う。





「なぁ、シュウ。本当に無理をしていないのか?

我慢するのは身体に悪いと聞いたぞ?」


「うるさい。明日は朝からローザタウンに向かうんだ。早く寝ろ。」


「何でも爆発すると·····」

「するか!!」



キラリと紅の宝石をたたえた腕輪が光る。


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