戦巧者
「ふぅむ。品揃え自体は悪くは無いな。」
決闘の後、ステラの剣を駄目にしてしまった為、なし崩し的に一緒に武具屋に来ることとなった。
品質はよく分からないが、品揃え自体は多い。
この付近の魔物はそこそこ強い為、第5章の最初にこの国を拠点にレベル上げをするのが、割りとオーソドックスな攻略法だ。
「なぁ、こういうのはどうだ?」
ぶふぉ!
試着室から声を掛けてきたステラが身にまとっていたのはデモクエ女戦士御用達のビキニアーマーだ。
初出典はデモクエ3だったはずだ。
「剣を買いに来たんだろうが!それにそんな鎧でどこを守る気だ!!」
「女のプライドかな?同衾を断られた時は自信をなくしたが、どうやら私も捨てたもんじゃないらしい。」
くっ!殺せ!
どうやら顔に出ていたらしい。
ステラに小言を言ってから、着替えるように促し、熱くなった顔を冷ます様に店内を見回す。
夕暮れ時になり、街の人通りも少なくなった為か、店内には人はおらず、カウンターの奥で年配の店主が帳簿をつけていた。
今の間に消耗品でも買い足しておくか。
俺は戦士なので、回復手段が道具に頼るしかない為、
この辺りの準備は必須と言える。
「そこの薬草と毒消し、麻痺回復のフルムーン草をあるだけくれ。
聖水もだ。特に聖水は多ければ多いほど良い。
·····あぁ。ついでにこれも包んでくれ。」
会計を済ませていると、着替え終わったステラが声を掛けてきた。格好はビキニアーマーではなく、先程までの赤い皮鎧に戻っている。
く、悔しくなんてないんだからね!
「なぁシュウ。今日の所は宿に戻って食事にしないか?私は腹が減ったよ。」
ステラとは親子程も歳が離れているが、呼び捨てにされるのも案外嫌じゃない。
常に凛とした彼女の持つ空気のせいかもしれないな。
それに彼女には今の調子の方が似合っていると思う。
「んー?何だ?こっちをじっと見て。さてはさっきのビキニアーマーが忘れられないのか?」
ニヤニヤしながらからかってくるステラ。
「うるさい。お前こそ剣は良いのか?」
決して否定はしない正直者な俺だ。
「あぁ。もう少し上のランクの剣が欲しいからな。
明日でも他を当たってみるよ。」
「ならコイツを使え。どうせ他を見てもそう変わらん品揃えだろう。何本か予備があるから気にせず使え。」
そう言いながら魔法の袋から予備のケーニッヒメタルの剣を取り出す。
「い、いいのか?どう見ても尋常な剣ではないぞ?」
「後これもだ。」
先程の店で買った『 白銀のバレッタ』を合わせて渡す。
魅了と混乱を防ぐ力を持ったバレッタだ。
状態異常に耐性のないステラには必須装備と言える。
剣とバレッタを抱き締めて俯くステラ。
うん?心無しか顔が赤い?
「こ、こういう不意打ちは卑怯だぞ·····。」
彼女の性格的に珍しくボソボソと不満を告げて来る。
「あー。田舎の出であまり物を知らんのだ。何か気に触ったなら謝るが·····。」
顔を真っ赤にし、唸りながらながら不満気に睨みつけてくるステラ。
何この可愛い生き物?
「うー!もういいもういい!後で何を言ってもこれは返さんからな!いいな!?」
彼女にしては珍しく口調を荒らげながらも、剣とバレッタをいつまでも抱き締めていた。
宿の部屋で荷物を下ろし、鎧を脱いで一息つく。
一応部屋に鍵はついているが、それなりに荒っぽい雰囲気のある宿なので、鎧も魔法の袋へねじ込む。
「な、なぁ。シュウ。このバレッタを付けてくれないか?
は、初めてつけるので上手く付けれそうもない。」
もじもじしながらベットに腰を掛け、赤い髪を持ち上げ、ステラがうなじを見せてくる。
例の王様の謁見を定期的にする様になってから、それを聞いた旅人が物見遊山に押し寄せる様になったらしい。
そのお陰で一部屋しか空きがなく、相部屋となってしまったのだった。ベットが2つあるのが救いだ。
何?俺の理性の限界を試してんの?
仕方なしに纏めた髪をバレッタで着けてやる。
うん。赤い髪にシルバーのバレッタが映えて似合っている。機能も申し分ないし、我ながら良いチョイスだ。
「·····む、昔好きだった騎士物語に、騎士がお姫様にプロポーズの言葉とともに、守刀と銀の髪飾りを送るってシーンがあって、あ、憧れてたんだ」
あぁ。だからさっきあんなに照れていたのか。
偶然とは言え、憧れのシチュエーションの相手がこんなおっさんとは、申し訳ない事をしたかもしれんなぁ。
「に、似合わないだろ?いい歳したこんなデカくて無骨な女が物語のお姫様に憧れているとか。」
やはり戦巧者!ギャップ萌えを狙ってくるとは!
この俺の目を持ってしても・・・。
いや、何か普通に可愛いな!!
「そんな事はない。俺から言わせれば、まだまだ可愛い盛りだ。」
子どもの頃は20代や30代は大人に思えたが、いざ40代になるとどうしてもまだまだ若いという風に見えてしまう。これが老害の始まりなのだろう·····。
やっぱり俺はこの世界に来て気が大きくなっているのか、
今までは考えられない行動に出てしまった。
「さぁ。麗しき真紅の姫君よ。食事に行こう。
良ければ、この私にエスコートをする栄誉を与えて貰えないだろうか。」
大仰に片膝をついて跪き、それっぽい台詞を並べてみる。
顔を真っ赤にしながら右手を差し出すステラ。
「よ、よしなに。」
その姿は歴戦の武人ではなく、年相応の女の子に見えた。
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