閑話 VR課(1)

「ふぅ…」


誰のため息だろうか。


それぞれが持てる能力を活かして打開策を見つけようとしているが、


遅々として進まない状況に、感情が漏れてしまったのだろう。


「……」



バタン!


「はーい皆、終わったよぉ。」


「「「「部長!」」」」


VR課の皆が部長を取り囲む。


「どうでしたか?」


「はいはい、落ち着いて、落ち着いて。


結論から話すよ。彼は無事に生きてる。


そして、彼の方でもシステムエラーが起きたそうだ。


それに合わせて再度データを取り直すそうだ。」


「ということは…」


「そうだね。何事もなく、正常に戻るってことだよ。でも、今回は過失はないって判断されたけど、次からは故意があったとみなさるからね。」


「はい。ありがとうございます。」

「部長。助かった。」

「部長~。ありがと~、ございます~。」

「部長。ありがと。」


「いいよいいよ。君達の尻拭いをするのが僕の仕事だからね。そのかわり命令だよ、彼を無事に連れて帰ってきてね?分かった?」


「「「「イエッサー!」」」」


VR課の皆がVR機に乗り込んでいく。


それを部長はイスに座り、コーヒーを飲みながら見送る。


「…僕はこんなことしか出来ないけど

皆、頑張っておくれ。」


誰に届くでもないつぶやきをコーヒーに混ぜて。





「各自無事に着いたか?」


「「「はい。」」」


全員が周囲を見渡す


「ここにレイ君がいないということは、街の何処かに行ってるんだろう。先ずは全員で冒険者ギルドに行くよ。」


「…仕方ねぇな?」

コクリ。

コクリ。


ざわざわ…ざわ…ざわ…

…おい、あれ。

…なんだ?ハーベストのヤツラじゃねえか。

……何でギルドにいるんだ?

…あいつら最近まで未開の地に行ってたんじゃ



「ハーベストの皆様ですね?本日はいかがされましたか?」


ギルドの奥から人が出てきて、ハーベストに話しかけてくる。


「あぁ、すいませんね。確認したらすぐに出ていくんですが、最近登録された人を確認したいんですよ。」



…ざわざわ…ざわ…ざわざわ…ざわ

…新人を確認しにきたって

…そいつ、何をやらかしたんだ?

…殺されるんじゃねぇか?


ギロッ!ギロッ!


…シーン…


「…冒険者達を脅すのはお止めいただけますか?」


「すみません。こちらも事情がありましてね。…これでも抑えているんですよ。」


「…個室でお伺い致します。」


「ここで結構。0.1ミリメガネって名前なんですが。」


「…個人情報保護条約に関わりますが?」


「仲間なんですよ彼は。私達の。」


「…証明は出来ますか?」


「私達全員が思っている…それではダメですか?」

コクコクコク…


ギルドの職員が後ろを見る。


仲間達が頷いているのが分かる。


「はぁ…。

…貸しにしときます。」


「高くつきそうですね。」


「…覚悟しといて下さい。と言ってもクエストを受けて戻られていないので、詳しい場所は分かりませんが。」


「何のクエストを?」


「川の調査ですね。」


「川の調査…あぁ、上流の川を確認して水スライムを退治してくるクエストでしたね。」


「そうです。」


「いつ受けたんですか?」


「…2日前です。」


「…2日前?」


「…はい。」


「何で?何で?2日も経ってるのに放置してるの?

ねぇ、何で?」


「…」


「じゃあ、これで失礼しますね。」


「ちょっと、マッパ!レイっちが2日も放置されてるんだよ!?これって怠慢だよね?ギルドの人サボってるよね?」


「…お仕置き?」


「そう!メイさん!お仕置き必要だよね?」


さぁぁ…


血の気が引くという言葉を目にするが、一斉に血の気が引くと、音がするんだな。


「…止めとけ。」


「何で?リッちゃん何で止めるの?悪いの向こうだよね?」


「…優先するのは1ミリだろ。」


「そっか。そうだった!まずはレイっちだもんね!」


「…さっさといくぞ。」


「はぁ~い。」

「マッパさん、行きましょう。」

「すいませんね。お邪魔しました。」


…ギルドの中に吹き荒れていた嵐が去っていった。



誰のため息だろうか。


嵐に巻き込まれないですんだ冒険者か、


対応したギルドの職員か。


血の気が戻っていくにつれて、感情が溢れ出たのだろう。きっと誰もが同じ気持ちだったに違いない。


…日常とは幸せに溢れた日々なんだと。

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