会社員は四日目に吸い込まれる

「ここがダンジョン…」


『はい』を押したと思ったら、渦の中に抵抗することも出来ず、身体が吸い込まれた。


今立っているのは洞窟の中のようだ。


後ろは壁で渦も何もない。


袋小路のようで、前に進むしか道は無いようだ。矢印は通路の先を示している。


「出口は無いってか…洞窟っぽいが不自然なほど明るいからな。…慎重に進むか。」


しかし、やたらに明るい。何処かにLED照明でもついてるのだろうか?


少し進むと、道が出てきた。右に行くか、左に行くか…悩んでいると。


エクストラスキル『道程』が発動。


お?たしか…チュートリアルクエストが発動したスキルだったな。


『緊急クエスト 川の調査』が変更になります。

『緊急クエスト ダンジョン調査』となりました。


『緊急クエスト ダンジョン調査』

無事に生きてダンジョンを出ろ

成功報酬 『道程』スキルのレベルアップ


『緊急クエスト ダンジョン調査』となったことで、

難易度が変更となります。

難易度

 易しい → 不明。


ちょっとまてぃ!まてぃ!


驚き過ぎたせいか、その場に座り込む。


なんだなんだ…矢印が消えてしまったぞ。


クエストが変わってしまったからか?


それとも…難易度が不明になったからか?


無事に生きて出ろだと!!

何もしなかったら殺されるってことか!?


「ヤバいな…」


あれこれと考えるが、情報が無さすぎる。


…とりあえず、進むしかないようだ。


「右の道から行こう。気休めかも知れないが、他の冒険者も来るかも知れない。右に進んだと分かるように目印をつけるか。」


地面に矢印を書いて、名前も付け加える。


「初心者が受けるクエストだからな。街からもそこまで遠くない。誰かが気づくか、先にダンジョンをクリアするかだな。」


…案外、ハーベストの皆が見つけてくれるかも知れないしな。


よし。準備はしたぞ。さぁ、行くか。


右の道を進む。


ザッザッザッザ…


…あれ、魔物だよなぁ…


めちゃくちゃ明るいから、遠くにいる魔物がはっきり見えるよ。


アイツからも見えたんだろうな


「グギャァ!」


叫び声あげて向かってきたよ!


「ま、マジか!やれるか!俺!いや、こんなところで死にたくねぇぞ!」


剣先を相手に向け、剣道の中段のように構える。この構えであってるのか?

どうしたらいい?

この剣は片手剣か?両手で振るのか?分からない。


段々と近づいてくる。少しずつ魔物が大きく見えてきた。


段々と。俺の腰くらいの身長か。魔物は木の棒か?よく分からないが何かを振り回しながら


段々と。おいおい…振り回してるのは、何かの骨だな…マジかよ…


段々と。息づかいが聞こえるまでに近づいてきたぞ。


段々と…



…肩で息してるけど、大丈夫?



俺は動かずに待ってただけだけど。

魔物は勢いよく走ってたけど。

目の前まできたら肩で息をして、足元がフラフラしてるぞ。


あ、骨を振りかぶり直したぞ!

避けなければ!


ササッ。

スカッ


ゴロゴロ…

ゴブリンは踏ん張れずに転がった。


追い討ちをかければいいのだが、身体が動かない。

攻撃をしなければ襲われるのだが、躊躇してしまう。


悩んでいると、ゴブリンが起き上がり、骨を振りかぶり、攻撃をしてきた。


ササッ。

スカッ


フラフラ…

バタン。


……ん?


あれ?


『ゴブリンを倒しました。経験値5を獲得。』


…え?


俺、何もしてないよ?


ゴブリンは淡く光りだした。


…!?なんだ!なんだ?


光が消えるとゴブリンが持っていた骨だけが残り、ゴブリンはあとかたもなく、消えてしまった。


……



ホワイ?


避けただけで…手を汚さずに魔物を倒してしまったぞ…。


モヤモヤした俺の前にある、白く光る骨だけが


ゴブリンがこの場にいたことを証明してくれている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る