会社員は二日目も長い(説明回 2)

……頭が真っ白になるというのはこういうことなんだな。

まるで、異世界に飛ばされた直後の主人公みたいだ。


世界平和…マッパさんの顔をみる限りはマジメだ。本気と書いて(マジ)とルビがふられるような顔つきをしている。


しばらく待っても誰も何も言わない。

え?本当に世界平和なの?

このVR課の仕事って、本当に世界平和なの?


「マッパさん」


「何だいレイ君?」


「世界平和ってどうやるんですか?」


「それはね……血さ。」


「……ち? ……ちって言うとあの、血液とかの血ですか?」


「そうさ。何だいレイ君。君は血が持つ美しさと素晴らしさを知らないのかい?」


「はぁ……」


「あぁ、なんてことだ! 血が持つあの色、香り、粘度、濃度。全てがその人の個性を表していて、それでいて、1つも同じものがないんだよ!! 知ってたかい? 双子でも微妙に違いがあるんだ。まるでワインに色んな産地があるように、どこで産まれたのか、どのように育ったのか、どれぐらいの月日が経ったのか……色々な環境や条件が重なり、ミックスされ、そして…そして……あぁ! 最高の血に巡り合えたあの感動を! あの感動を! レイ君! 君は知らないのかね!?」


……助けて下さ~い! 誰か、今すぐ! 今すぐ助けて下さい!


穏やかなマッパさんが、急変して血走った目でこっちをみてます! みてます! 


ガン見してきます。


周りを見ると、プリンちゃんとメイさんが笑ってこっち見てるし。お願いします、助けて。


「もう、マッパさ~ん、ダメッですよ? 熱くなりすぎですよ~。」


「……あぁ、そうだね。レイ君、すまない。つい興奮してしまってね。」


「はぁ……」


うん、マッパさんもヤバい人でしたね。


うん、良く分かりました。


うん、VR課ヤバい。


「それに~、マッパさんが言われる世界平和って良く分からなくないですか?」


「さすメイさん。それな。」


えぇ!? みんな世界平和目指してるんじゃないの!?

どういうこと?


「え!? ……メイさんは違うんですか?」


「そ~ですね~。う~ん……説明が難し~ので、リッちゃんお願いしますね~。」


「……」


「リッちゃん。」

「うるせぇ。」


「……リッちゃんダメッですよ?」


「……チッ。わぁったよ。」


メイさん > リッちゃん

ですね。了解しました。


「おい、1ミリ。」


……1ミリってもはや、名前でも何でもないよね。


「リッちゃん。0.1ミリメガネさんですよ。」


1ミリでも0.1ミリでも、俺にとってはどうでもいいですよメイさん。


むしろ山田って呼んでもらえませんかね。


「VR課はVRを使って異世界で資源となる情報を集める仕事だ。」


「そんだけ?」


ナイス相づちですよプリンちゃん。でも、何故かリッちゃんは舌打ちしながら俺の顔を睨んでます。


メイさんはなんで役目が終わったみたいな顔で紅茶飲んでるんですかね。


「ちっ……VRの中に宇宙が創られたのは知ってるな?」


「はい。」


「詳細は省くが、そこは地球と似た世界が造り出されている。似てはいるが、未知の惑星だ。こっちの常識が通じない。そして、仕事ってのは、未知の物質や生物を解析し、地球にデータを持って帰ることだ。後は、科学者達がそのデータを基に研究を進めるって話だ。分かったか?」


……リッちゃん……めっちゃ分かりやすい。何そのギャップ。


「ちなみに、宇宙を創ったのがプリンちゃんのお父さんだよ。」


「親父パネェ。」


復活しましたねマッパさん。良かったですけど……プリンちゃんもなんか、どや顔してますけど。


「あの、マッパさんが言われてた世界平和って何ですか?内容を聞いたら世界平和とは違うような……」


データを集める? = 世界平和?


良く分からない図式だけど?


「血はデータの集合体さ。何に強いか弱いかが分かる。血を配合出来るようになれば、病気に強く、健康で過ごせる世界が来るんだ。世界が平和になるじゃないか。」


「……なるほど。それはそれで問題ありそうですが、たしかに血の配合が出来れば、そんな未来もあり得ますね。」


「さすがレイ君。君なら分かってくれると思ってたよ。」


「メイさんも家族って言われてたので、同じ考え方ですか?」


「そんなのと一緒にしないで。」


……メイさんキャラが……キャラが変わりすぎです。


のほほんとしたメイさんは何処にいったんですか……


「…私は~家族になりたいんですよ~。」


良かったいつものメイさんだ。てか、さっきも聞きましたよ。


「はい。家族ってのは血の繋がりがあるから家族じゃないんですか?」


「う~ん……なんとい~いますか~。家族って色々な形があって~。良いんじゃないですか~?」


「……1ミリ。単一化した世界と多角化した世界に対する意見の対立だ。気にすんな。」


……リッちゃん……もぅ、何が何だか……


「分かりました。メイさん頑張って下さい。」


「もちろんです~。0.1ミリメガネさんも家族なので~、一緒に頑張りましょ~。」


あ、俺ってもう家族なんだ。


「あの、話が変わりますけど、VRの世界からデータとかをどのように持って帰るのですか?」


「そこら辺は心配しなくていいよ。僕たちはVRの世界に行って帰ってくるだけさ。後は科学者達が勝手にやってくれるよ。」


「そそ。VRで適当にやってればいいよ。レイっちマジメ過ぎ。」


いや、プリンちゃん。俺も一応大人だし。


「会社だから、ノルマとかあるんじゃないですか?」


「ヤバい。マジメ過ぎ。」


ウケすぎですプリンちゃん。


「昨日の内にレイ君のデータは取ってあるから、後は実際にVRを使って体験していけば自ずと分かるから。」


昨日の……意識を失ったアレか!?


……何でプリンちゃんがダブルピースしてるの?


……犯人はお前だな!?


「……なら、もぅ帰っていいな?」


「そうだね。説明も済んだからね。」


……え?


皆が帰り支度をし始めたので、慌てて時計を見る。


12時だ。


……お昼……あ、お昼ごはんってことだな。


「分かりました。何時に戻ってきたらいいですか?」


「ほえ?」


「……?」


「え?」


「……あ?」


「え? お昼休憩ですよね? 午後からの仕事は何時からですか?」


「「……ハハ! ハハハ……」」


「レイっち、ヤバい殺す気?」


「そうか、レイ君は仕事スキーなんだね。」


「はぁ~。びっくりです~。」


「笑かしてくれるな。」


……いや、至って普通ですから!!


勤務時間ですやん!


「VR課は勤務時間は決まってないんだ。忙しい日もあるけど、何もなければ昼までに終わるよ。今日は残業した方じゃないかな。」


昼までで残業!? どんな職場なのここ!?


「そういうことだから。じゃあね。また明日。」


マッパさんは帰っていった。


……他の人達は笑いながら出ていきました。


父さん、母さん。


会社って…大変なんですね。


今度、父の日には胃薬を送ります。

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