会社員は二日目も緊張する

はぁ、はぁっ……はぁ、はぁ。


手紙を読んでると、遅刻しそうになり、急いで準備をして会社に向かう。



勇者は地下へと続く階段を見つけた。


地下へと下りますか

  はい

→ いいえ


昨日はここを下りて行った先のドアで死んだんだったな……


またこの階段を下りようとしている俺は、勇者だと思う。


ふと、後ろを振り返ると会社の受付嬢や出勤してきた社員が目をそらした。


何気ない顔をして去っていくが、こっちを見てたのを気付かれてないとでも思っているのか。


いつでも変わってあげますよ。今なら熨斗もつけてあげますよ! という想いと念を視線にこめる。


俺はバジリスクかメデューサにでもジョブチェンジしたのか、誰とも目が合わない。


ふぅ……


ひと息ついて、俺は再び勇者兼会社員にジョブチェンジをする。


地下へと下りますか

→ はい 

  いいえ


気持ち的には下りたくないのだが、勇者の俺は会社員でもあるので、下りるという選択肢しか選べない。


何てクソゲーだ! 発売元にクレームを入れてやる!


何て、思っていても時間しか進まない。


遅刻する訳にも行かないので、ドアまで進むしかない。


ついに来たぞ……魔王城……いや、VR課へ。


ドアに張り紙がされている。


『登録されていない方がドアノブに触れると死ぬ恐れがあります。』


いや、昨日はこの張り紙無かったよね!!


俺、死にかけてたんだ!


ドアノブで死ぬって、どんな部署なんだよ!


『未登録の方は、インターホンを押して下さい。』


昨日から張り紙されてたらなぁ。


あぁ~! ウジウジしても仕方ない。


インターホンを押すか。


ピーン……ポーン……ピン……ポーン……ピン……ポーン……


返事がない。


あれ~?

誰も出てこないんだけど…


ピーン……ポーン……ピン……ポーン……ピン……ポーン……


……?


……???


どうしよ……ドアノブに触ると死ぬかもって書いてあるしなぁ。


「すいませーん。新入社員の山田です。どなたかいらっしゃいますかー。」


返事がない。ただのドアのようだ。


ただのドアではないか。触ると死ぬからな。


……えー!?


どうしたらええんや?


俺がしばらくの時間、オロオロとしていると


ガン! ガガガ、ガン! 


ドスン!


え? 何の音? ドアの向こうからヤバイ音が聞こえるんだけど……


……ガチャッ


ん? ドアが開いたのか?


キィィ


ドアの建付けが悪く、軋むような音と共に190センチはあるような大男が出てきた。


「……何のよう?」


ドヤンキー! 金髪で筋肉質の身体、何故かジャージにタンクトップでサンダル履いてるし!!


「…おい。聞いてんの?」


「あ、はい! 俺……いや私、新入社員の山田と申します。この度、VR課に配属になりまして、こちらに来るように言われましたので、時間ギリギリになりましたが、出勤してきました。申し訳ありません。」


「あぁ、あんたが……。」


話は聞いていたようで、ヤンキーさんが納得した顔になってジロジロと全身を見てくる。何で眉間にシワを寄せて見てるんだ。めちゃくちゃ怖いんだけど。


「あの……何か……?」


「まぁいいや。入りな。」


アゴで入ってこいとばかりに合図され、ヤンキーはドアの向こうに消えていく。


ドアは開いている。



勇者は中に入りますか?


  はい

  いいえ

→ かえりたい



え? 俺って就職先間違った?

もう、家に帰れないとか無いよね? 無いよね?


「早く来いよ!」


ドアの向こうから声が聞こえる。


あぁ。神様、仏様、ご先祖様。何とぞ私を助けて下さい。


「早く!」


「はい!!」


ええぃ! ままよ!


俺は覚悟を決めて中に入っていった。



パン! パン! 


パパン! パパパン!

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