第8話

「ふ……あああっ!」

 あられもない声が抑えらない。身体に満たされた琢磨によって、頭の中が真っ白になる。

「つ、強い! 強いいっ!」

 沙也加の身体に肉棒を突き入れた琢磨は、思うままに腰を突き入れてきた。

「さ、沙也加、さん……っ!」

「もっと! 強くっ! ち、力いっぱいいいいっ!」

 沙也加の艶めいた望みに応えるように、琢磨は腰の動きを強く激しくした。

 その度に、沙也加の口からあられもない喘ぎが漏れてしまう。さっきまで余裕をもって男を迎えていたはずなのに、その身に男を受け入れて、余裕が失せてしまっている。それほど、琢磨のモノは沙也加の身体に力強い快楽をもたらしていた。

 気持ち良い。

 琢磨が気持ち良い。

 今までの男たちとは違う、身体が一つになるというのがこれほど気持ち良いとは思わなかった。知らなかった。

 今、自分を貫いている男は、これまでの男たちと違う快楽を沙也加にもたらしていた。

 それは、心の快楽。

 心と身体が一つになった愉悦。

 身も心も、という言葉の意味を、沙也加は今、身体の中から感じていた。味わっていた。

「あ、ああんっ! あん! あん! んあああ…………っ! …………っ」

「さ、沙也加さん! も、もうっ!」

 琢磨が男の精を自分の中に吐き出しそうになるのが分かった沙也加は、両足で琢磨の腰を抱え、同時に両腕を気持ち良さげに喘ぐ後輩の首に巻き付けた。そして、耳元で甘く甘く喘ぐように囁いた。

「い、良いよ……。琢磨の……琢磨の全部、私に、ちょうだい……っ!」

「ん……あああっ」

「あっはあああああんっ!」

 下半身に全ての力を籠めるようにして琢磨が硬直し、全身に快感と愛おしさを込めて沙也加は後輩を抱きしめた。

 沙也加の心と身体が、満たされていく……。


「ふ、ふふ……、童貞卒業、おめでとう、琢磨」

 絶頂を味わった二人は、全身の力を抜いて身体を合わせていた。琢磨は沙也加に覆いかぶさったままだが、苦しくはない。琢磨の身体の重みが心地良い。

「あ、ありがとう、沙也加さん。なんか、嬉しいです……」

「ちょ……、待て……、ホントに泣くヤツがあるか……」

 これまで何度も男を迎え入れたことはあるが、沙也加が求める男の条件が自分をリードしてくれるようなヤツであったためか、大抵はベッドでも自分本位の男が多かった。テクニックがあるかどうかは別として。

 しかし今、自分の中に男を吐き出した後輩は、沙也加を組み敷いたまま感極まったように嬉し涙を流している。その新鮮な反応は、沙也加の心の柔らかい部分をくすぐったくさせていた。

「正直、自分が女の人とこんな風になるなんて、思っても見なかったんです。だから、一生懸命、全力で、頑張ったんですけど……」

 ――なるほど、それがこのスイートルームか。

「だから、たった一晩でも、沙也加さんと一緒に、その一緒に、出来るなんて、嬉しいです」

 ――ひとばん……。ああ、そうか。そうだったな……。

「いいよ。お前の本気はちゃんと伝わったから、だから、後はもう……」

「……?」

 そこで言葉を切った沙也加は琢磨に抱き付くと、ぐるりとベッドの上で半回転した。さっきまでとは逆に、今度は沙也加が琢磨を組み敷くような格好になる。その動きで繋がっていた二人は離れたのだが、沙也加は足の間から淫らに滴る男と女の愛液もまるで気にしていない。

「私も好きにさせてもらう」

「さ、沙也加……さん? なんか、目が怖いんですけど……」

「そうか? これからお前を食べようってんだからな。仕方がない」

「た、食べるって……ふえわおああっ!」

 琢磨に覆いかぶさっていた沙也加は身体を少し下げると、一度精を吐き出して少し柔らかくなった肉棒に手を添えた。そして肉食獣が獲物を前にしたような笑顔を後輩に向けると、一息に琢磨を飲み込んだ。

 ――半立ちでも結構なボリュームだな……。これが、さっきまで私の中に入ってたのか。

「え、ちょ……沙也加さんっ! そ、それっ……!」

 絶頂直後の男のモノは敏感になることは知っている。それでも、これまで沙也加はあまりそういう行為はしてこなかった。なぜなら、沙也加を相手にしていた男たちは、自分たちが果てるとさっさとシャワーを浴びたりタバコを吸ったりして、沙也加に余韻を楽しませるような事が無かったからである。

 たまたまそういう男たちばかりだったのかもしれないが、沙也加が男と長続きしなかったのは、普段はいかに沙也加を楽しませようとも、彼らはベッドの上では紳士的な男たちでは無かったのだ。

 ――それが……、まさか涙を流すなんてな……。

 男を弄ぶ行為に妙な楽しさを感じつつあった沙也加は、口の中で大きくなっていく肉棒に舌を這わせていた。

「まだまだイケそうだな。朝までするんだろう?」

「あ……ははっ」

 乾いた笑みを浮かべる琢磨を見下ろして、沙也加は後輩の腰にまたがった。そして、自分の舌で大きくした肉棒を、ゆっくりと蜜壷に飲み込んでいく。

「ふ、ふふっ、うふふふふっ……」

「沙也加さん……、すごく……、すごい、エロい顔してる」

「そうか? ふふ、そうだろうな。セックスがこんなに楽しいなんて、初めてだからな」

「は、初めて?」

「そうとも。こんなに気持ち良いのは初めてだ。お前とのセックスは楽しい。凄く良い。興奮する。心が沸き立つ。身体を動かさずにいられない」

 琢磨の肉棒を咥えたまま、沙也加はゆっくりと腰を前後に動かしていた。淫らに、イヤらしく、自分を見上げる男の視線をチリチリと受けながら。すると、琢磨の肉棒が自分の中で一回り大きくなったように感じられた。それに合わせて、圧迫感とともに覚える快感も一回り大きくなったように思える。

「あはっ……。いいな、琢磨。もっと、私を感じて……」


   *


「こんな、犬みたいな恰好……」

「エロいですよ。沙也加さん。スッゴクいやらしいです。お尻が……」

「そこ……っ! ちが……っ!」


   *


「く、口で、するなんて……」

「私も初めてだからな。上手くないかもしれんが……」

「それじゃ、お返しに、僕も……」

「あ、ふあああんっ!」


   *


「ずっと……、キスばっかり、ですね……」

「そうは言っても……、んん……、お前の腰は、イヤらしく動いてるぞ……」

「沙也加さんも、ですよ……。んむ……。向かい合って……、繋がったままキスするだけ、なんて、無理ですよ……」

「身体が、動いちゃう……か……?」

「沙也加さん……、どこで、こんなエロい……こと……」

「ん……は……。古代インドの、セックスマニュアルだよ……。んんっ!」


   *


「まだ、やるのか……。ゴムが足りないんじゃないか?」

「大丈夫ですよ。遠山さんが二箱用意してくれましたから」

 ――……遠山っ!


   *


 軽やかな電子音が鳴り響いている。

 自分の部屋の目覚まし時計ではない。アラームをセットしたスマートフォンのものでもない。

 心地良い手触りのベッドから半身を起こし、沙也加は周囲を見回した。

 見慣れない、広いベッドルーム。カーテンの隙間から陽が差し込んでいる。見下ろすと後輩の無防備な寝顔。

 ――そうか、昨夜はコイツと……。

「モーニングコール!」

 電子音の正体に気付いた沙也加は、裸のままベッドから飛び降り、壁にしつらえられた棚の中で音を立てているインターフォンを手に取った。

「はい……、はい……、ええ、わかりました。ありがとうございます。すみません、三十分後に何か軽食のセットを二人分、お願いします。……はい、それで、よろしくお願いします」

 インターフォンの受話器を元に戻すと、沙也加は大きく溜息をついた。そして、ベッドで眠ったままの後輩に目をやる。

「ホントに朝までヤルとはな……。でも、それももう終わりか」

 静かな休日の朝。ベッドには男が眠っている。バラの花ビラを踏みしめ、沙也加は満足そうな表情の琢磨の脇に腰掛けた。意外と逞しい胸を軽く撫で、後輩の頬に手を当てた。起きる気配はない。

 ふと、沙也加の胸に、寂しさ湧き上がってきた。祭りの終わりにも似た哀しい感覚。いずれ失われることが分かっているものの、今はまだ手元にある心地良いモノ。

 目覚めない琢磨の頬を撫でていた沙也加は、後輩の唇に親指を当てた。その唇と、昨夜は何度キスをしたか分からない。

「キスで目覚めるのはお姫さまなんだがな……。起きろ、琢磨」

 琢磨に口付けした沙也加は、後輩の頬を抓り上げた。

「……? ん……、あだだっ!」

「起きろ、寝坊助め。夢の時間はお終いだ」

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