第5話 異世界と案内人
僕はクロムに家に来てもらうことにした
この世界についても色々知りたいから
おじいちゃんはクロムに出会ってから「?魔族・・・?異世界・・・?うーん。わしらは神隠しに合ったと言う訳なのか・・・うーん」とずっと独り言を言っている。
彩菜はクロムと話したいのだが、恥ずかしくてもじもじしている。
「ただいまー」玄関を開けると美味しそうな匂いが鼻をくすぐった
そういえば・・・お腹すいたな。すっかり時間を忘れていたがリビングの時計に目をやると、とっくにお昼も過ぎていた。
「遅かったわねぇ、おかえりなさい」キッチンのカウンターから母さんが笑顔をみせた
「で、外はどうだった?」
やっと起きてきたのか、現実を受け入れたらしい父さんもリビングに入ってきた。
「?あれ?その子は?」
父さんの視線がローブをかぶっているクロムに移った
「お初にお目にかかる。貴殿がこの家の主かな?」
「・・・あ、はい。そうですけど・・・」父さん、貴殿なんて呼ばれたことないから・・・
「僕が崖から落ちたのを助けてくれたんだ」さらりと僕が言うと
「そうか・・・はぁぁ?なぁに~~崖から落ちたぁ?それで、けがは?」
父さんは僕の肩を両手で掴み、ゆすってくる。
「やめて~・・・何でもないから」
「何でもないって、おまえ・・・」
「大丈夫だ。我が落ちる直前に風を起こして助けた。」
「?え?風?」
「ああ、こんな風にな」
クロムはローブから右手を出し、少し持ち上げた。
ぶわぁ~~
掌の上に小さなつむじ風がおこっている。
「な、なんだ?どんな仕組みだ?」
クロムは何言ってるんだ?という表情で「あぁ、ただの風魔法だ」と言った
「父さん、クロムは魔法使いなんだ!」
「魔法?」
そこでクロムはおもむろにフードをとり挨拶をした
「我の名はクロム・ナイトスカイ、誇り高き魔族の国イグニスの魔法使いだ」
父さんもクロムの角を仰視している。
そこにおじいちゃんが背後から父さんの肩にポンポンと手をのせて
「な?」と父さんに一言。共感。
そこで遅いお昼を持ってきた母さんが登場した。
「さぁ、みんなでご飯にしましょう!あらぁ、なんて可愛らしい子なのかしら?一緒に食べていってね?」
母さん、天然。角見えてんのかな?
クロムは母さんを見るとその瞳を丸くして「な、女神か?」
いや、ただの天然主婦です。
「やだぁ、女神なんて、斗真さんにしか言われたことないのに」
父さん、母さんにそんなこと言ってたの・・・引く~
彩菜も「なんか・・・気持ち悪い話だね」と一言
「私も昔はやれ天使だの女神だの真一さんにいわれましたよ、さぁさぁ、おしゃべりしているうちにさめちゃいますよ、いただきましょう」
いつの間にかおばあちゃんも食卓にいた
て、おじいちゃんもなの?恥ずかしい人達・・・
テーブルには母さん特製カレーが運ばれてきた、スパイシーな香りが食欲をそそる
こんな時に何をのんきにと思うかもしれないが、どんな時でもお腹はすくのだから仕方がない
「いただきまーす」まず一口、ひき肉と野菜がゴロゴロ入っていてカレーの上には素揚げをしたナスが飾ってある
スパイシーなカレー、トロトロなナス。本当に幸せ
隣で恐る恐るスプーンを口に運ぼうとしているクロムは、一口、くちに含むとその瞳を瞬かせた
「こ、これは、初めて食べる味だ。辛い、がその辛さが食欲を進ませる。肉も野菜もこんなに入って贅沢な食べ物だ。旨い」
クロムはそういった後、その華奢な姿に見合わぬほどお代わりをして食べた。
よほど気に入ったんだな
母さんはその姿を見てニコニコしている
「ふふふ、誰かがおいしそうに私のお料理を食べてくれるのが私にとって最高に幸せよ」
それを聞いてクロムの頬が少し赤くなった
お腹もいっぱいになったところでクロムはこの世界について話し始めた
「お前達がどこから来たのかは知らないけれど、異世界から来る迷い人はお前達だけではない。まあ、我はこの200年の間でお目にかかったことはないがな」
「え?200年?」みんなは目を丸くしている。僕と見た目変わらないくらいなのに?200年生きてるの?嘘でしょ?
「うむ、今年で我はちょうど250歳だ。魔族はお前たちと違い長く生きるのでな、良くも悪くも、な」
クロムはコホン。と咳ばらいをして話を進める。
「そもそもこの世界とお前たちのいる世界、他の世界もだが壁一枚の隣り合わせで存在しているのだ。たまにそこにほころびが生まれてほんのひととき世界と世界はつながる。その時にタイミングよくそのほころびに巻き込まれてしまう者たちがいる。それが次元の迷い子だ。」
僕らのいる世界のほかにも世界があるのか・・・
「一度こちらに来た人間がまた元居た場所に戻れるのか、それは私にもわからない。今は、だ。そもそもそんなことを今まで考えたこともなかったからな」
「お前たちは、元居た世界に帰りたいと望んでいるのか?」
父さんが僕らの顔を見回して「もちろんだ」と答えた。
「ふむ、長い人生の退屈しのぎになりそうだ。我もその方法を一緒に探してやろう!」
「本当に?!魔法使いが一緒なんて心強いね、父さんもそう思うよね?」
父さんは浮かない顔をしている。
「そもそも・・・俺はこの世界の魔族が何なのか知らない。俺たちの世界では魔族とは物語の中の存在でそのポジションはほぼ毎回 悪 と決まっている。人の魂を食らうとかそそのかすとか、こんな事をいったら失礼だと思うが常に不気味な存在だ。俺一人ならいいが俺は家族を守らなくてはならない」
父さんは真剣な表情でクロムを見つめた
「ほぅ、見どころのあるやつよ。うむ、では貴殿の世界ではどうだ?人を殺すやつはいないのか?人を殺す獣はいないのか?何を見て何を感じて貴殿が悪とみなすのか、それは貴殿の勝手だとも。
我は確かに魔族でこの世界でも人間からしたら不気味な生き物かもしれん。我が良いやつかそれとも悪いやつかそれは我にもわからん。貴殿の目に映る我がすべて。良いか悪いかは貴殿が決めればよかろう。
ちなみに我は人は食わん。獣でもあるまいし。魂なんか食っても腹の足しにもならん。」
そういうとクロムはふーっとため息をついて僕を見た。
「我はただ退屈していたのだ。だが今日お前たちを見つけて久しぶりにワクワクしたぞ!この歳になってはじめての料理にも出会えた。我がお前たちの助けになってやる代わりにお前たちは我にお前たちの文化を教えるという条件はどうか?もし異世界の扉が開くなら我も一緒に行こう!この目で見てみたいのだ」
陶器のような白い艶のある肌 美しい銀色の髪 そしてその微笑みを見て僕は天使のように笑う魔族だと思った。
父さんは深くため息をついた
おじいちゃんはそんな父さんの背中をたたき、「どのみち、右も左もわからぬ世界なのだろう?この子についてくしかないさ」そう言った。
こうして僕らは異世界の案内人を得たのであった。
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