カット2 アシスタント

 正門までたどり着くと、清古が校門を開いてカメラマンの車を敷地内に入れ、俺はジェスチャーで来客用駐車場の方へ誘導した。

 駐車場に車が止まって、運転席から四十代ぐらいの男性カメラマンが降りてくる。


「おはよう。誘導ありがとう。今日はよろしく」

「おはようございます。よろしくお願いします。これが駐車許可証です。運転席側のダッシュボードに置いてください。こちらは入校許可証です。」


 言いつつ俺は入校証を渡した。


「今回は男手があるからアシスタントはいらないと聞いているので、本当に撮影アシスタントを連れてこなかったけど大丈夫なのかい?」


 カメラマンが入校証のバッチを付けながら俺に聞いた。そのバッチには「大出間おおでま」と名前が書かれている。


「荷物運びや簡単な仕事なら僕たちがお手伝いできるので、それでよければ。僕は美浦 時生、隣にいるのは清古 祐介と言います。」

「わかった。それじゃ、美浦くんと清古くん、さっそく荷物を降ろしてもらえるかな」


 大出間は後部座席のスライドドアを開け、中に積まれている荷物を順番に手渡してきた。意外とズシリとくる機材が多い。プロが使う機材だし、きっと値が張るものだろう。持ち運びも注意しないといけない。


「なあ、トキオ。そういえば俺は見学と言ったつもりだけど」


 清古が俺から手渡された荷物を受け取りながら、今更、声をかけてきた。


「おお、そうだったな。でも由梨先輩には、俺と同様にこき使ってくれていいと伝えてある。すまんが諦めてくれ」

「このやろう……。ま、仕方ないか」


 セリフの割には、それほど嫌がらずに手伝う清古だ。こいつのこういう素直なところはマジで尊敬する。


「まずは日が陰らないうちに中庭の桜の前で撮影だね。行こう」


 大出間の言葉に合わせて、俺たちは機材を肩に掛けながら中庭へ向けて移動した。

 そして中庭に到着すると、大出間の指示で機材のセッティングを開始する。


「屋外撮影は天気との戦いだ。天気が崩れたらいけないから素早くセッティングしないと」


 大出間は俺たちにテキパキと指示を与えてくる。


「ところで居衛戸くん。モデルの女の子は、お願いした通りにしてくれているのかな?」


 作業の途中で大出間が涼に声をかけた。

 モデルの女の子と言えば理沙のことか。お願いとはいったい、なんだろう?


「はい。大出間さんのイメージに合わせてうちのメンバーが準備していますが……あ、ちょうど出てきたみたいですね」


 俺が涼の視線を追ってB校舎の出入り口を見ると、ちょうどそこから理沙と明日香が出てくるところだった。


 中庭に出てくる理沙のその姿を見て、俺と清古は驚いた。

 普段、ライトブラウンのショートカットにしている理沙の髪形が、肩までの黒髪になっているのだ。しかも、目元はつけ睫毛でメイクしているし、唇には薄ピンクの口紅まで塗っていた。日焼けした理沙の顔に、その口紅はとても映えて美しかった。


「涼さん、こんな感じのメイクでよかったですか?」


 明日香が涼に向けて尋ねた。ということは、このメイクを依頼したのは涼で、明日香がメイクをしたということか。


「さすが明日香。いつものスポーティな理沙くんも素敵だが、こういうメイクにすると新たな魅力に溢れるね」


 涼が歯の浮くようなセリフをサラッと言えば、


「おいおい。理沙、驚いたよ。ひと月会わない間にイメチェンしたのかと思った。ほんとに綺麗だ」


清古も涼の言葉に重ねて褒めた。

 さすがイケメン二人。女性の褒め方がスマートである。


「あら、清古。私をからかいに来たんじゃなかったの? でも褒めてくれてありがとう。こんなメイクなんてしたことないから恥ずかしいな」


 理沙が薄めのチークが乗った頬を少し赤く染めると、


「どうかな、トキオ。わたし、変じゃないかな?」


上目遣いで俺に聞いてきた。


「え? うん、まあ、そうだな……」


 変なわけがない。

 それどころか、不覚にも理沙を綺麗だと思ってしまった。黙っていれば本当にどこぞのお嬢様のようだ。

 サッカーボールと同じように俺のケツを蹴っていた幼馴染みの理沙と同一人物とは思えなかった。

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