カット2 DVD

「『映画映像絵画研究会』……略して『えい研』か。一応確認しておくけど、トキオってそんなに映画とか写真や絵画が好きだったか?」


 清古が訊ねる。


「いや、ぜんぜん。まだ、映画はテレビで放送する吹替のやつとか見るけど、写真は週刊誌のアイドルグラビアぐらいしか見ないし、ましてや絵画なんて美術の教科書でしか見ない」


 それも、八割は授業中の暇つぶしの犠牲として落書きだらけになっている。


「よくもまあ、それで抜け抜けと『えい研』なんかに入部したもんだな」


 清古は呆れて俺を見た。


「思わず、入ってしまった」


 俺はいい笑顔で答えた。


「さすが『暴走機関車』だな。ではここで質問です。そんなトキオがいちばん好きな映画は?」

「『となりのトトロ』」


 俺は即答した。


「いいじゃん、『トトロ』。知ったかぶりしたってすぐにバレるんだから、正直に答えたほうがいいよ」

「そうかな?」

「どんな映画であろうと、映画好きには違いないよ」


 清古にそう言ってもらえると、出まかせで入部してしまった気まずさが少し紛れた。


「で、今日は何を借りてきたんだ?」


 清古が俺の鞄を指さした。鞄の中には一枚のDVDが入っていた。


◇ ◇ ◇


『えい研』の部室での話が終わって、理沙とともに部室から去ろうとしたとき、俺は由梨に呼びとめられ、『えい研』の壁に並んだキャビネットの前に立った。

 由梨がキャビネットの扉を開くと、中には本屋の片隅などでよく売られている名作洋画の廉価版DVDがズラリと並べてあった。


「わたしが一枚ずつ、お小遣いで買いためたものです。部に興味を持った方が来た時に共通の話題になればと置いておいたものなので、もし気になる映画がありましたらお貸ししますよ」


 由梨が笑顔で言った。


「結構、ありますね」


 ざっと見でもDVDは20~30枚ほどあった。財閥令嬢の由梨にとってこの程度の買い物は、はした金だろうか。

 それでも、キャビネットに整然と並べられたDVDを見ると、由梨の映画への真摯な思いが伝わってくるようで、本当は映画にあまり興味がない俺は何とも申し訳ない気持ちになったものだ。

 DVDは、タイトルだけ聞いたことがあるものも多かったが、すべて観たことがない作品だった。

 これなら、どれを選んでも大差ない。

 俺は、その中でも一番、有名な作品を手に取った。


「じゃ、これをお借りします」


◇ ◇ ◇


 俺は鞄から、借りてきたDVDを取り出して清古に見せた。


「『ローマの休日』。あらすじは知ってるけど観たことないなと思ってよ」

「定番だけど、いいんじゃない?」


 気負わずに観れそうな恋愛ものにしてみた。


「よっしゃ! 今から清古も一緒に見ようぜ!」


 清古を誘う。


「何が悲しくて、男二人で『ローマの休日』を観なくちゃいけないんだ」


 ソッコーで断られた。冷たい男だ。

 でも、よくよく考えたら確かにあまり楽しそうではなかった。


「仕方ない。清古にフラれたから、帰って部屋のパソコンで観るか」


 立ち上がったところに清古が、


「そういえば、理沙がモデルをするっていう学校案内パンフレットの撮影はいつだって?」


昨年の、イケメンが表紙になったパンフレットを手に持って質問してきた。


「とりあえず桜をバックにした写真を何枚か撮りたいらしくて、さっそく今度の日曜に撮影することになった」

「今度の日曜か。それなら俺もヒマしているし、理沙のモデル姿でも見学に行こうかな」

「ああ、別にいいんじゃね? 俺は明日も『えい研』に顔を出すつもりだし、先輩たちに見学者が増えてもいいか聞いてくるわ」

「おお、頼むよ」


 清古はにこやかに言った。

 その笑顔を見て、俺はふと、清古の片思いのことを思い出した。


 いつも、にこやかな表情を浮かべている清古が、唯一、寂しそうな表情になった、あの日のことを。

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