深夜のスマホから少女の笑い声

とりたま

第1話 笑顔を永久に奪われた女子高生

笑顔が素敵だった友だちが、

ある日突然、笑わなくなった。





私はミサ。

高校2年生。


それは、いつもと同じ朝のはずだった。

教室に入ると、私は仲の良いサオリのところに行って声をかけた。


「サオリ、おはよう」


「……」


いつもは素敵な笑顔で「おはよう」と返してくれるサオリが、この日は無表情だった。

うつろな目を私に向けるだけで、何も言わない。


「サオリ、どうかしたの?」


「なんでもないよ」


「なにかあったのなら、話して」


「本当になんでもないよ。心配してくれてありがとう」


サオリは表情を変えなかった。





休み時間にもう一度サオリに話しかけてみた。


「ねえねえ。サオリ、見て」


「なに? ミサ」


「昨日さ、サオリの好きそうな動画、見つけたんだ」


「そうなの」


「一緒に見ようよ。すごく笑えるんだから」


私は昨日見つけた動画を自分のスマホで再生して、サオリに見せた。


「この猫がね、おじさんみたいなリアクションするの。見てて」


「……」


「あはははは。ね、笑えるでしょ? この表情!」


「うん。そうだね」


サオリは、ぜんぜん笑っていなかった。

単に、私の見せた動画が面白くなかっただけなら良いのだけど…。





サオリは、その日一日、笑顔を見せなかった。

私に対してだけじゃなく、クラスの誰に対しても。


何が起きたのかはわからないけど…

もう二度とサオリの笑顔は見られないんじゃないか。

そんな気がした。


そして、そのイヤな予感は的中することになった。





釈然としないまま一日が終わった。


私は、サオリのことが気になって仕方がなかった。

家に帰ってからも何も手につかなかった。


きっと、明日はいつものように笑顔を見せてくれる。

その時の私は、まだそんなふうに信じていた。





夜。


自分の部屋のベッドで寝ていると…

誰かの声が聞こえた気がして目が覚めた。


「……?」


気のせいだろうか。

夢だったのかも知れない。


私はもう一度眠りについた。

すると…


すぐにまた声が聞こえた。

女の子の笑い声だ。


この部屋の中で、誰かが笑った。


私はベッドの中で身を固くして耳を澄ました。


間違いない。

女の子の笑い声だ。


(この部屋に女の子がいる?)


私はふとんを頭からかぶり、目をしっかりと閉じた。

恐怖で全身から汗が噴き出す。





どのくらい時間がたっただろう。


いつの間にか、笑い声は聞こえなくなっていた。

固く閉じていた目を、ふとんの中でゆっくりと開ける。





私は部屋の明かりをつけた。

部屋にとくに変わった様子はなかった。


(やっぱり、夢だったのかも知れない)


私がそう思ったとき…

また女の子の笑い声が聞こえた。


「ひっ!」


思わず声を漏らして、部屋の中を見回す。

声のするほうには、誰もいない。


声はどこからするのか。


「スマホ…?」


勉強用の机の上に、スマホがある。

夜はいつもそこで充電しているのだ。


間違いない。

女の子の笑い声は、スマホから聞こえてくる。


(……? この声、どこかで聞いたことがある…?)


私は恐る恐るスマホに手を伸ばした。

そして、画面を確認する。


そこには…

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