第9話「王都へ」

  

「で、レーダ」

「何だ、ラディ?」

「この依頼、本当に大丈夫かな?」

「どうかな……」


 アデルに見送られながら港街から離れ、このローラナ王国の首都へと向かうレーダとラディの二人組、相も変わらず強い風が吹く街道の周辺には畑の野良仕事に精を出す農民の姿がある。


「依頼内容にはおかしいところはないぞ、ラディ」

「騎士団の遊軍部隊への参加かあ……」


 何か不服そうにそう呟くラディが見上げる空は青天、その空に天高く昇った太陽が、地表へと陽の光を降り注がせる。


「何か、貧乏くじを引かされそうな気がする」

「報酬は納得のいく額だったがな」

「俺達を名指しというのが、何かね」

「俺には金が必要だ」

「そ、そうだけどさ……」


 レーダにはラディが何を不満にそこまで言うのかは解らない。が、彼ラディの直感は決して無視は出来ないとレーダは今までの経験で学んでいる。


「冒険者、つまり単純な戦いではないということかな?」

「何が言いたい、ラディ」

「うーん、言葉にするには難しいけど……」


 畑の何処からか太鼓の音が聞こえる、耕すときの祈願太鼓の音だ。


「……まあ、いいか」

「複数の冒険者で依頼を遂行すると言っていたからな、簡単に捨て駒にはしないだろう」

「そうだね、俺の考えすぎかな……」


 小さく呟くラディの視線の先には小さな山、予定ではその付近にある砦で他の冒険者と合流する事になっている。


「さすがに二人では山は越えられないからね」


 山に付き物なのは山賊、それをよく知っているレーダ達は、その依頼主の心遣いには感心している所だ。


「風が強いな……」


 暖かくなってきたとはいえ、まだまだ冬の空気がその風には混じる。その風に当てられレーダは軽く身震いをした。




――――――




「少しぐらい休ませてくれてもよかったのにな」


 砦に付いて少しの休憩しか取れなかったレーダ達。しかし山脈の尾根から見える広大な風景と軽く吹き付ける風、弱まってきた風は彼らの心を穏やかにとさせる。


「まあ、それほど大した山じゃない、このバフトはな」


 昔来たレーダの記憶によれば、首都へは山脈から降りたりはしない。山から連なる標高の高い、高原に位置するのがローラナ王国の首都なのだ。


「俺は革鎧で身軽だけど、レーダは辛そうだな……」

「鍛練だ」

「そ、そうかい……」


 レーダの身に付けているスケイルメイルは防御効果こそ高いが重さもかなりの物。用意されていた騾馬に盾などかさばる物は積ませてもらっているとしても、ラディには出来る芸当ではない。


「俺は小柄だからなぁ……」


 それがラディ少年の悔しい所であり、重い鎧を扱えないというコンプレックスともなっている。


「おっ……」

「何だよ、レーダ」

「あれを見ろ、ラディ」


 レーダと同じく他の冒険者も何か立ち止まっている、ラディはそのレーダの側に行き、彼が指し示す方向にとその視線を向けた。


「ああ、あれは……」


 ドラゴン、最強の魔物と恐れられ、一部では敬われている生物である。それがその青い鱗へと陽の光を浴びながら、悠々と大空を飛んでいる。


「だ、大丈夫かなレーダ?」

「さあ……」


 レーダにしてみても、ドラゴンの気持ちや腹具合を知る術はない。彼らの近くにいた魔術師風の男が。


「大丈夫だ、我々を無視している……」


 そう言った言葉を信じるしかない。暫しの間、そのドラゴンの姿をじっと見つめている冒険者達。


「行こう、首都が見えてきた」


 冒険者達の隊長格、その腰に長剣を差した男が、そう言いながら皆に歩くのを勧めた。


「見ろ、ラディ」

「今度はなんだよ、レーダ?」

「あれが首都、王都だ」


 ドラゴンが飛び去った後、再びレーダがあごを引いて見るようにと差した方面、それをラディが見た瞬間。


「わあ……!!」


 少年の口から感嘆の声が漏れる。


「あれが王都か……」


 湖を背にした王宮、それを取り囲むように立てられた色とりどりの館、そして。


「まるで盾だな……」


 放射線状に拡がる道路に、これまた様々な色合いをした家々、港街でもよく見かけた光景だが、なんといっても特徴的なのは所々に設えられている、水晶で出来たと思われる巨大像であろう。


「建国王と、それに仕える騎士達の像とか言っていたな」


 そよぐ風にその髪をなびかせながら、レーダはラディの隣に立ち巨大像、ローラナ王都の街並みに立つその像の由来を説明した。


「さ、行くぞラディ」

「あ、うん……」


 遠くに見える尾根には餌を探しているのか、ヤギの群れの姿が見える。その奥の空には薄い黒雲。


「出来るなら、雨になる前に王都にたどり着きたい」

「ああ、解った……」


 リーダーの声にレーダは軽く頷きながら同意し、急かすようにラディの尻を軽く叩く。


「ん……?」


 だが、そのレーダの催促にはラディはすぐに動かず、首筋のうぶ毛がそそり立つような感覚。


「誰だ……?」


 そう、視線を受けている事に気がついた彼ラディ少年は、無意識の内に腰の「デュランダル」にとその手を添える。


「何をしている、ラディ?」

「いや……」

「急ぐぞ」


 だが、どこを見渡してもラディ達に視線を向けてくる人の姿はない。


「神経質なのかな、俺は?」

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