第6話「神殿の秘宝」
最初、レーダはこのまま四人で神殿跡を探索する事に否定的であったが。
「今回は、お前に助けられたからな……」
恐らくはもうゴブリンはいないはずだ、そのように主張するラディの声に従って、レーダ達は神殿の地下部分にと降りていく。少し「弟分」に助けられたという引け目もあるのかもしれない。
「二晩も村で休んだから、大丈夫よ」
そのアンナの言葉通り、彼女とアデルの魔法の力が回復している事を願いつつ、レーダは列の先頭にと立って辺りを見渡しているラディの姿を頼もしそうに見つめている。
「なあ、ラディ?」
「なんだい、レーダ?」
「その剣だが……」
ラディがその刀身から放たれる光をちょっとした灯りがわりに使っている魔法のショートソード、それを指差しながら、レーダは。
「身体の調子は大丈夫か?」
「大丈夫、平気だよ」
「なら、いいが……」
彼はラディの様子を気遣う。最初レーダはラディの代わりにその剣を持とうとしたが、相も変わらずかなりの「重さ」をレーダに感じさせた為、自分が持つことを諦めたのだ。
「いや、俺だけじゃなかったな」
試しにアンナやアデルにも持ってもらったが、やはりレーダと同じように持てるものではない重さの剣であるようだ。鞘に入れたままであれば持てるのだが。
「人を選ぶ剣か……」
どこかの国に伝わる聖剣みたいだな、そうレーダは胸の内で呟きつつ、ラディの背を見ながら螺旋階段を降りていく。
――――――
「何でも、教会の神父様が言うには」
アデルの言葉によれば、彼の宗派とは違う神を信じる物が造ったらしい神殿、その地下の広間で。
「ここに納められている本は、僕が手に取るようにと言われました」
「ゴブリン退治は単にオマケか?」
「いや、それもあったと思いますが、ラディさん」
「しかし、この広間は……」
埃っぽい、何年も掃除がされていないような広間を見渡しながら、ラディは軽くため息をつく。
「ゴブリン達も、少しは入ってきた様子だが、な」
「それでも、本には触れる事が出来ないと、神父様はおっしゃっておりました、レーダさん」
「そうか……」
そのアデルの言葉を聞いたレーダ、彼はその視線を泳がし無意識の内にラディの腰の剣にとその目を向けてしまう。
「で、どこにあるのよ?」
「えーと……」
アンナの催促にアデルは懐から一枚の地図を取り出し、ラディの近くまで寄りそい、魔法の剣の灯りでもってその地図の面を照らそうとする。
「ここにある品物、俺達が手をつけちゃいけないよな?」
「い、一応教会の依頼ですので……」
「わかってるよ、聞いてみただけだ」
そのラディの言葉に頬を軽くひきつらせた彼アデル、一つ咳払いをした後、地図にと這わせていた指をそのまま持ち上げ。
「あそこです、あの像の裏……」
簡素な石造りの女神像、それの後ろ辺りを指差す。
「さて……」
照明の魔法をアンナにもう一つ作ってもらって、レーダはその女神像の辺りまで静かに進む。罠はないとは思うが、念のためだ。
「見たことのない女神像だ……」
この大陸ではアデル等が信仰する神が教会勢力全てを牛耳っているが、それでも土着の神を信じる人がいるとはレーダと聴いた事がある。
「で、どうすればいい、アデル君?」
「はい」
薄暗い照明のもと、アデルは小走りにレーダの元までいくと女神像の裏、その壁のある部分を手のひらで軽く押す。
ゴ、ゴッ……
そのアデルの手の動きに合わせて壁の一部分がスライドし、より強くなったカビの匂いと共に紅い光。
「うん?」
レーダやラディには見覚えがあるかもしれない、ラディの紅き小剣が収まっていた宝箱を開いた時に目にした光、それが広間一帯に及んだ。
「うっ……」
その目を覆ったアデルを心配そうな目で見つめているレーダ達。隣にいるレーダが彼に声をかけようとしたところ。
「だ、大丈夫ですレーダさん」
「なら、いいが……」
「はい」
光が止み元の薄闇に戻った広間、ラディが気を利かせて紅の小剣の光をその女神像付近にとかざす。
「魔力は感じなかったけど、大丈夫……?」
アンナのその言葉は魔術師としての意見だ、恐らく彼女はこの手の事に慣れているのだろう。
「よし……」
アデルがその壁の部分、ちょうど小さな窪みになっている部分から、一冊の本を取り出す。
「魔術書かしら?」
近づけた魔法の灯りの元、アンナが見たところではその本には複雑な紋様が描かれている、本にカビの害はないようだ。
「教会の神父様が言うには」
その本、かなりの大判である本を大事そうにアデルは抱えると、懐から一枚の包み布を取りだし、その上に慎重な手つきで本を置く。
「僕以外の人間が、触ってはいけないそうです」
「教会の持ち物だから、という事か?」
「ええ」
本が大きいため、運ぶのを手伝おうとしたラディは、その言葉を聞いて何か不満げにその手を引っ込める。
「では、俺が君のリュックサックを持とう」
「すみません、レーダさん」
「いやいい、鍛練だ」
――――――
アンナの魔法により「警告」の音が出るようにされていたレーダ達の荷物、レーダにしてみればこういう時に魔法の有り難みを実感できる。人手が足りない時にそれをカバーできるのだ。
「……」
だが、その荷物の付近にいる数人の人間、服装からしてどこかの国の貴族であろうと思われるその男と、鎧に身を固めた騎士の姿はレーダ達には想像が出来なかったことだ。
「初めてお目にかかる、レーダ殿」
「お前は……?」
「あなたの噂は聞いた事がある」
その男をジロジロと睨み付けるレーダの視線にも構わず、男は表情を変えないまま言葉を続ける。
「私の名前はシグルド、ファドリアの者だ」
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