第2話
「しょーにぃ行ってきま〜す。」
「おう、行ってらっしゃい。」
直樹は元気に手を振りながら先に保育園にいた友達の輪に合流していった。
自転車で直樹を保育園まで送ったあとは、朝やることは学校に行くことだけになる。
「さてと、行くか。」
保育園の玄関に停めてある自転車にまたがり、学校に向かう。ここから15分から20分ほどの距離だ。
小高い山の上に建っている保育園なので、行きはきついが、学校に行くときはとても楽だ。
坂を勢いよく駆け下りる。
途中で昨夜の雨で濡れたマンホールの上を通りすっ転びそうになるハプニングに見舞われるがなんとか耐える。
7、8分ほど自転車を走らせ、ちょうど学校の中間くらいにきたところで信号に捕まる。
「マジか……面倒だな」内心で少し悪態をつく。
ここの信号は変わるまでの時間が長くて有名なのだ。信号を待ってる間、特にやることもないので、視線をフラフラさせてると、信号のすぐ隣にある歩道橋の上にいる人物に目を奪われる。
制服をきた女子が歩道橋の上からたくさんの車が通る大きい道路をただならない様子で眺めている
からだ。
よく見るとうちの高校の制服だ。
(まさか、飛び降りとかじゃないよな……)
そんな非日常的な考えを数瞬の間巡らす。
「そんなわけないか。」自分の考えを自分で笑う。
だが、この予想は数秒後に現実になった。
その女子高生は歩道橋の手すりに手をかけると勢いよくジャンプして、そこから柵に足をかけ、その上に立つ。
俺は手すりに手をかけた時点で、考えるより先に体が動いていた。
その場に自転車を投げ捨て、階段を3段飛ばしで駆け上がった。
その間にその女子は柵に立っていた。
いや、立ってしまっていた。
それを見た瞬間に間に合わないと直感した。
俺はなんとか、飛び降りることから意識を逸らさせようと、思わず大声で叫んでいた。
「生きろ!!」
女子高生の意識が数瞬の間、こちらを向く。
その数瞬に距離を詰める。が、女子高生はすぐに飛び降りた。
けど、一瞬だけでもこちらに意識を向けたおかげでなんとか手を掴むことに成功した。
「まだ、人生何があるかわからないだろ!!死ぬなよ!!」
俺の体は半分ほど歩道橋からはみ出ていて、女子高生に至っては宙ぶらりんの状態だ。
けど、それだけは言った。
俺は必死に引き上げようとするが、残念ながら女子1人引き上げる力は持っていない。だから、歯を食いしばって耐えることしかできない。
徐々にズルズルと体が歩道橋の柵の外にはみ出していく。
「おい!!どこでもいいから掴まれ!!二人とも落ちるぞ!!」
現場を見ていたのか、見知らぬ男性が階段から急いで上がってくる。
だが、間に合わなかった……
俺と女子高生は一緒に道路まで一直線に落ちた。
落ちて行く瞬間、俺は走馬灯じゃなく年の離れた兄弟達のことを思い返していた。
(悪い、二人とも……もっと一緒にいたかったよ。一足先に母さんに会いに行ってくる。菊と直樹は元気で良い子に育ったよって。)
そこまで考えると俺の意識は暗転した。
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