第8話 ストロング フェイク

「少々お待ち下さい、じきに社長が参りますので」

 銀縁眼鏡の若い女子事務員は、軽く会釈すると静かに応接室から退出した。

 テーブルの上のお茶からほわほわと白い湯気が立っている。白い、見るからに安っぽい湯呑み茶椀に入れられたお茶は、器に相応しく安っぽそうな薄黄色い色をしていた。

「父さん」

 耶磨人が静かに蓮多郎に声を掛けた。

「何だ?」

「茶柱が立っているよ」

「そうか、それは良かった」

 やや緊張気味の声で答える蓮多郎。

 重苦しい時間だけが、ゆっくりと流れていく。

 此処は高邑家が購入した家を仲介した問題の不動産屋である『ヒラマヤ不動産』の応接室。

 せかす百多郎に従い、早速、父親と息子の二人で疑惑の城へと乗り込んだのだ。

 流石に大人数で出向くのもまずいだろうと言う事での人選ではあるが、勿論、耶磨人の身体の中には百多郎をはじめ、珠璃と珠樹の二人も身を潜めている。

 怪しげと言えば怪しげな不動産屋だった。

 契約時に父が訪れた際の記憶に従って店舗を探したのだが、なかなか見つからない。電話で道順を問い合わせながら漸く店舗に辿りつけたものの、事務所内は閑散としており、受付で数回呼び掛けて出てきたのが、さっきの事務員ただ一人だ。聞くところによると何人かは外回りに出ており、幹部クラスは会議中だとのこと。

 どうでもいいことだが、社名が『ヒマラヤ』ならぬ『ヒラマヤ』と言うのも気にかかる。

 まさかとは思ったが、二人は乃乃海月の毒攻撃再来を警戒し、出されたお茶には一口も口を付けず、ただぼんやりと時が過ぎゆくのを噛みしめていた。 

「お待たせしました」

 ドアが開き、グレイのパンツスーツ姿の一人の女性が姿を見せた。

 歳は二十代後半位。ショートヘヤーの髪が淡いブラウンの光沢を放っている。ぱちりと開いた大きな眼、きゅっと締まった唇。透き通るような白い肌。どれをとってもその美しさに翳りはない。

 その女性は二人の前のソファ―に腰を下ろすと、徐に名刺を差し出した。

『代表取締役社長 比羅間 彩』

「ヒラマ サヤと申します。この度は繭椿が御迷惑をお掛けしまして、本当に申し訳ありませんでした」

 比羅間は蓮多郎達に深々と頭を下げた。

 意外な展開だった。脂ぎった中年太りのぎとぎと親父が、大自然の摂理が齎す不毛の大地への誘いに逆らえなかった成れの果ての頭をかきかき現れるのを想像していた二人にとっては、猫だましならぬ肩すかしを喰らったような心境だった。

 それでも耶磨人は、気になっていた社名の『ヒラマヤ』は『ヒマラヤ』を間違えたのではなく、『比羅間屋』をカタカナ表記しただけなのだという事実を知り、ただならぬ疑問を解消出来た事へのささやかな達成感と満足感に酔いしれていた。

「顔を御上げ下さい。家のことについては、もうとやかく言うつもりはないです。ただ、繭椿さんと連絡が取りたい――ただそれだけなんです」

 蓮多郎は殊の外柔らかな口調で比羅間に語り掛けた。

「ありがとうございます。でも残念ですが、全く行方が分からないんです」

「どう言うこと、ですか?」

 顔を上げ、苦悶の表情で語る比羅間に、蓮多郎は拍子抜けした驚きの声を上げる。

「失踪したんです。売上金四千万を持ち逃げして」

「持ち逃げ? それも四千万といやあ……」

「そうです。高邑様から頂きました代金そっくりそのままです」

「はあ……」

 蓮多郎は言葉を失った。深刻な面立ちで淡々と語る比羅間の口調に、人を騙そうとする偽りの調べは、ほんの微塵すら感じられない。

 耶磨人も同様だった。正面からじっと見つめても眼を逸らすことなく語り続ける比羅間に曇りもよそよそしさもなく、虚言を綴っているようには思えなかった。

「警察にも届けたのですが、全くの手掛かり無しでして……あのう、それで、繭椿に話というのは、どういった御用件でしょうか。私でよろしければ、代わりに対応させて頂きますので」

 恐縮気味に肩を落として語る比羅間の姿に、二人は互いに顔を見合すと吐息をついた。

 しきりにわびる比羅間に困惑しながら一礼すると、耶磨人は不動産屋を後にした。^

「当てが外れちまったな」

 耶磨人は気落ちした口調で呟くと、真新しい雑居ビルを見上げた。

『ヒラマヤビル』

 このビルの一階が先程訪問した不動産屋の店舗になっている。さっきの社長は一代でここまで築いたのだろうか……それとも、親から相続したのか。もしくは玉の輿――いやいや、薬指に指輪ははめていなかった。

 彼女に一体何があったのか。

 週刊誌めいたドラマチックな展開を期待させる様な思いが、一瞬耶磨人の脳裏を過った。

「とにかく、戻って作戦を練り直すしかないな」

 蓮多郎は眩しそうに眼を細めながら空を見上げた。どんより気分の耶磨人達を嘲笑うかのように、二人の頭上には抜けるような青空が広がっている。

 昨日のあの忌々しい出来事がまるで絵空事であったかのような、とてつもなくシュールな蒼が、耶磨人の眼に突き刺さっていた。

 不意に、ぞわり、と、おぞげの立つ異様な気配が、耶磨人をとらえる。

「ももさん」

 耶磨人は立ち止まると、姿を消したままの百多郎に囁いた。

「気がついたか。流石俺の子孫だけあるな」

 百多郎は実体化するや、嬉しそうに耶磨人の耳元で答えた。

「どうした、耶磨人?」

 不意に立ち止まった耶磨人を、蓮多郎は怪訝な表情で見つめた。

 刹那、蓮多郎の顔が驚愕に歪む。くわっと見開いた彼の両眼は、小刻みにうち震えながら、耶磨人を真っ向から凝視していた。

「えっ? 何?」

 今度は耶磨人の方が、蓮多郎の急変ぶりにあたふたしながら彼に声を掛ける。

「後ろを見てみなっ」

 百多郎に言われるままに、耶磨人は慌てて背後を振り向いた。刹那、耶磨人の表情が瞬間凍結する。

「そんな――」

 愕然とした表情で、耶磨人は背後の光景を凝視していた。

 ビルが、消えていた。

 つい先程、蓮多郎と乗り込んだあの不動産屋のビルが、若手女社長が一代で築いた――のかもしれないあのビルが、影も形もなく、忽然と消失していた。

但し、ぽっかりと空間が生じているのではない。元々両側に立っていた他のビルに吸収されてしまったかのような、全く違和感のない消失振りであった。

 否、あたかも、元々その様なビルなど存在しなかったかのような光景だった。

 この事実に気付いているのは、恐らく耶磨人達だけのようであった。その証拠に、絶え間なく行きかう人々の中に、その奇妙な事件を騒ぎ立てる者は誰一人としていない。

「どういうこと、これ……」

 実体化した珠璃が呆然とした面持ちで呟く。その横では、同じく実体化した珠姫が険しい表情でビルのあった空間をじっと凝視していた。

「俺達にこれ以上探りを入れて欲しくなかったんだろうな。でも馬鹿な奴らだぜ、かえって自分達が怪しいと名乗りを上げたのと同じだ」

 百多郎が楽しげに呟く――刹那、彼の顔から笑いが消えた。

「来るぞっ!」

 百多郎の鋭い叫びが、瞬時にして周囲を凍てつかせる。

 同時に、路面が大きく波打った。

「えっ? 地震?」

 耶磨人がもんどりうって転倒する。

「逃げろおおおおおおっ!」

 百多郎が、叫びながら――逃げた。

「お、おい、守護霊のあんたが先に逃げてどうすんだ!」

 慌てて後を追っかける耶磨人達。

 突然、目前の路面に亀裂が走り、火で炙った烏賊の様に大きく反り返ると、あたかもバリケードの様に耶磨人達の行く手を遮った。。

「面白くなってきやがったぜ」

 途方に暮れる耶磨人達をよそに、百多郎はにやりと笑みを浮かべた。

「あれっ? ももさん! さっき先頭切って逃亡したはず……」

 耶磨人が、傍らに立つ百多郎を当惑した顔で凝視した。

「面白がってる場合じゃねえよ、じいちゃん!」

 不意に、鋭い口調が百多郎の背後で響く。

 振り向いた耶磨人の眼に、黒いセダンの運転席から顔を出す絶世の麗人が映る。

「萬さん! どうして、ここに?」

「皆、早く乗って!」

 萬はそう呟きながら車のドアを開けた。

 耶磨人が車中に乗り込もうと――

「乗ってはだめっ! 」

 鋭い叫び声と共に、漆黒の影が耶磨人と萬の間に入る。

「えっ!」

 耶磨人が驚愕の叫びを上げる。

 萬だ。ダークスーツ姿の萬が、車中の萬を見据え、対峙している。

「萬さんが二人……」

 茫然と佇む耶磨人。

「そいつは偽物だ、早く車に乗れっ」

 車中の萬が険しい表情で叫ぶ。

 車外の萬がそれを黙殺し、右手で手刀を作るや一気に振り降ろす。

 ぴしっ

 軽い破砕音が緊迫した空気を震わせる。同時に、車が上下真っ二つにずれた。中に乗っている萬もろとも。

 車中の萬が、にやりと笑みを浮かべる。

 かさかさかさかさ

 紙が擦れ合うような乾いた摩擦音とともに、車と萬の形がぐすぐすと崩れていく。瞬時にして、それは色褪せ、人型に切りそろえられた無数の小さな白い紙片と化した。

「式神!」

 珠璃が驚愕に顔を歪ませる。

「さあみんなっ、今のうちに逃げるよっ、こっちへ来てっ!」

 手招きをしながら、萬が大声で叫ぶ。

 ずしゃり

 水気を含んだ固形物をぶった切ったような異音が、空気を鈍く震わせた。

 萬の動きが止まった。驚愕に凍てついた表情が、ゆっくり左右にずれ始める。

「ももさん……?」

 底知れぬ戦慄が、耶磨人を捉える。意識が混乱していた。何がどうなってこうなったのか、耶磨人にはもはや冷静に判断出来る思考力は持ち合わせていなかった。

 かろうじて出来たのは、身体を両断されて崩れ落ちる萬の向こうで、矛を振り下ろしたまま身じろぎもせずに立っている百多郎を、ただただ絶望的なまなざしで凝視する事だけだった。

 ぱしいっ

 軽い炸裂音とともに百多郎の身体が、真横に裂けた。

「手の込んだ真似しやがってっ!」

 夥しい白い人型の紙片と化してぐすぐすと倒れていく百多郎の向こうに、肩で大きく息をするもう一人の百多郎の姿があった。

「見てみろ、こいつらみんな偽物だ。最初に逃げ出した俺もな。さっき切り倒してやったけどよう」

 百多郎の台詞が終わるか終らないかのうちに、倒れている萬と百多郎の断面から無数の白い紙片が飛び出した。めくれ上がったアスファルトの路面の向こうからも同様に白い紙片が飛び交う。百多郎が倒した一番最初に逃げ出した百多郎のなれの果てだった。

「みんな、式神なのか……凄い、こんな精巧なものは初めてだ」

 緊張に乾き密着した唇を引き剥がしながら、珠姫がぽつりと呟く。

「油断するなっ、式神どもに動きがあるぜ」

 百多郎の鋭い牽制の声が響く。 

 飛び交う紙片は紙吹雪となって凝縮しながら天空へと舞い上がるや、見る見るうちにどす黒い色調へと変貌を遂げ始めた。一瞬き後、それらは互いに密着し、はっきりとした形状を中空に築き上げていた。

 龍だ。それも漆黒の鱗に覆われた。今までの神々しい龍のイメージを覆すような禍々しい瘴気を放ち、見る者を戦慄の淵へと追いやる畏怖に満ちた威圧感を醸している。

「けっ、ハリコの黒龍かい。姿を真似たって妖力までは真似られねえよっ!」

 百多郎が吐き捨てるように呟いた。

 ぐろろろろおううううううっ

 黒龍の重低音の咆哮が大気を荒々しく震わせる。

 突っ込んで来る! まっすぐこっちへ。

 巨大な顎を大きく開き、鋭い牙を唾液で妖しく光らせながら。

「そりゃああああああああああああっ!」

 絶叫を上げながら、百多郎が矛を大きく構えるや、一気に振り下ろす。

 野太い唸り声のような風音を巻きながら、矛の軌跡が空間に切創を刻んでいく。

 黒龍の頭頂部から顎先へと一筋の線が走るや、びしっと左右に弾けた。

 切断された数十枚程の紙片が、ゆらゆらと空気抵抗に揺さぶられながら地に舞い落ちる。が、本体を構成する大部分の紙片は、切断面からどっと一気に溢れ出ると、切り離された対面を互いに引っ張り合いながら、再び何事もなかったかのように結合していく。

「けっ、何回でもぶった切ってやるっ!」

 百多郎は矛をバトンの様にくるくる回しながら、空を大きくうねりながら泳ぐ黒龍に切りかかる。牙をむき、爪をたてて威嚇する黒龍を、問答無用で次々に切り刻んでいく。

 が、黒龍はその都度何事も無かったかのように、黒光りする体躯を瞬時にして再生する。

「くそう、きりがねえ」

 百多郎が忌々しげに呟く。と、懐から一枚の紙切れを取り出すや、空目掛けて投げ付けた。途端に、それは黄金色に輝きながらうねうねと伸長し、もうこれでもかと言わんばかりにまでに伸び切ると、もうだめってところで一気に弾けた。

 黄金色の光が、さながら巨大化したアメーバの様に大きく伸長し、見る見るうちに三次元的立体形状を整えていく。褐色のボデイ。その中に目が覚めるようなグリーン系の模様が次々に描かれていく。

 鳥だ。胴体だけでも十メートル、尾羽を入れれば三十メートルぐらいは優にある。

「ももさん、これは?」

 耶磨人はあっけにとられた表情で百多郎を見た。

「雉だ。ももたろうだけに。さあっ、早く乗れっ!」

 再び迫る黒龍に矛を突きたてながら、百多郎は叫んだ。

 慌てて雉の背中に飛び乗る耶磨人達。百多郎は黒龍の腹部を大きく切り裂くと大きく跳躍し、雉の首にまたがった。 

 けええええええええええええん

 巨大雉は一声鳴くと大空へ羽ばたいた。だが、同時に、再生した黒龍が再び牙をむき、襲いかかってくる。

「しっかりつかまっていろっ!」

 百多郎の声に、耶磨人達は羽毛の根元をぎゅううっと握りしめた。

 巨大な顎が雉の胴を咥えこむ――瞬間、雉は器用に身を翻し、黒龍の追撃をかわす。雉は急上昇に転じ、黒龍を振り切ろうとするが、敵はその柔軟な身をうねらせながら執拗に追っかけて来る。

「珠璃、珠姫、ちょっと手伝ってくれっ」

 百多郎が迫る黒龍を見据えながら低い声で呟く。

「えっ?」

 唐突な百多郎の振りに、二人は驚きの声を上げる。

「奴に気取られるかもしれんから、はっきりは言えん。奴の中身が何か考えろっ! おまえ達の力を上手く生かせ。それが俺の頼み事だ」

 早口でまくしたてる百多郎の態度に二人は顔を見合わせるが、すぐに頷くと百多郎に向けて親指を立てた。

「よし、いくぜええええっ!」

 百多郎が身を大空に踊らせる。

 黒龍が、口をめいっぱい広げて迫り来る。

 せえええええええええええええええっ

 百多郎の咆哮が緊迫した空中を震わせる。

 跳んだ。

 迫る黒龍の頭上目掛け、ぼさぼさの髪を疾風になびかせながら。

 黒龍が鎌首をもたげて百多郎に喰らい付く――刹那。

 百多郎の矛が、下顎から上顎へと貫く。

 百多郎はそのまま矛を大きく振り降ろした。矛の刃は頭頂部から顎を抜け、腹部、尾と身体の末端に至るまで、一挙に黒龍を裂いていく。     

 その細長い体躯は乾竹のように大きく左右に分断されるが、またしても切断面から無数の紙片が吹雪のように飛び交い、修復し始めた。

 百多郎が珠璃と珠姫に目配せする。

 珠璃が大きく右腕を薙ぐ。同時に、強烈な疾風が巻き起こり、融合し掛けていた黒龍の紙片は蹴散らした。

 刹那、珠姫が口早に呪詛を紡ぎながら天に向けて右手を掲げ、一気に振り降ろす。

 突然、雲一つない空を稲妻が走り、舞い散る黒龍の本体を貫く。

 稲妻は、再生しようと蠢く紙片に火を放った。炎は吹きすさむ疾風に煽られ、一気に燃え上がると紙片を次々に焼き焦がしていく。 

「やったぜ!」

 百多郎の表情が久々に緩む。

「凄え」

  燃え崩れて行く黒龍を見下ろしながら、耶磨人が興奮気味に呟いた。

「ま、ざっとこんなもんよ。と言っても、ねーちゃん方の力を借りなきゃ勝てなかったけどな」

 かっかっかっ、と、胸張り腕組大威張りのポーズで黄門様笑いをする百多郎の横で、珠璃と珠姫は得意気な笑みを浮かべ、佇んでいる。

「二人とも、凄い……あの力、どうやって身に付けたの?」

 耶磨人は今までになく尊敬に満ちた眼差しで、珠璃と珠姫を見つめた。

「まあ、それなりに鍛錬してるからね。でも、もっと凄いのは、ももさんよ。私達の力をちゃんと見抜いてたんだから」

 珠璃が、頬を赤らめながら、ややはにかんだ言葉使いで答えた

「耶磨人、見て」

 珠姫の突然の振りに、耶磨人はどぎまぎしながら彼女を見た。

(こいつ、俺を名前で呼びやがった。それも、自分の方を見ろだと? どういう事だ?)

 嫌だったわけじゃない。名字ならまだしも、女の子に名前で呼ばれたのが初めてだったのが、耶磨人にとって驚愕的喜びだったのだ。耶磨人の価値観でいうと、名前で呼ばれるイコール親しい間柄という不動の方程式が成立しており、性格はさておき、超美形の珠姫の一言は、彼の理性を掻き乱すのに十分過ぎる程の起爆剤だった。

「私じゃなくて、地面よ地面」

 しかめっ面でけしかける珠姫を、更に当惑顔で見つめる。そして地面に目を向けた刹那、耶磨人は言葉を失った。

 大きく捲れあがり、波打っていたはずの路面が、まるで何事もなかったかのように元に戻っていた。

「ありゃあ、全て幻術だったのさ――「ハリコ」の黒龍を除いてはな」

 燃え尽きて灰となった式神の残骸が黒い雪となって地上に降り注いでいるのを見降ろしながら、百多郎が呟く。

「ももさん、これからどうなるの?」

「そりゃあ御前、決まってるだろ、楽しい祭りの始まりだぜ――命がけのな」

 不安げに見つめる耶磨人に、百多郎は不敵な笑みを浮かべた。

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