第1581話 午前中はここまで


 情報共有板での作戦会議、終了! まぁ作戦とは言っても、ぶっちゃけ普段通りに動くだけって話だけどなー。動きに対して探りを入れられるのなんて、今に始まった事じゃないし。


「さてと……とりあえず、午前中はこのくらいで引き上げ?」

「もう12時も近いし、それが無難だろうな。さっき決まった方針に合わせて動くのは、昼からか」

「それでいいと思います!」

「んー、まぁタイミング的にそうなるよねー。ベスタさんに色々任せる形になっちゃってるけど……まぁそこは代わりが出来ないし、任せるしかないけどさ」

「そうなんだよなー」


 ベスタが持ってる情報は、ソロだからベスタしか知らない訳で……代わりに誰かが編集出来る内容じゃないんだよなー。他の群集のまとめ役の連絡も、状況的にベスタ1人に任せた方がいい。

 仮に俺が連絡したとしても……ベスタしか知らない情報を聞かれても、答えられないし……。まとめに整理してもらってから、それを見ながら説明するより、ベスタ自身が対応した方が色々とスムーズに進みそう。そう判断したからこそ、ベスタが自分で連絡するって言ったんだろうしさ。


「ねぇ、ケイ? 昼からは、どう動くのかな?」

「あー、他のみんなとも相談してになるけど……とりあえずは、これまで通りの探索だろうなー」

「え、ベスタさんの発見した黒の異形種の溜まり場には行かないの?」

「それは状況次第だぞ、ヨッシさん。ベスタがまとめた情報による。近場にあるなら行ってもいいけど……遠い場所は、わざわざ行くのもなー。どこのエリアにも、他の人はいるだろうしさ」

「あ、そっか。分担して動く意味が無くなるもんね」

「それなら、狙うのはフィールドボスの方かな?」

「そうなるなー。これまでの探索に、フィールドボスの探索を加えてやる感じになるかも? まぁ大きく違うのは、発見情報を共有しながらやるってくらいか」

「ま、そんなとこだろうな」


 劇的に動きが変わるのは、フィールドボスが見つかってからの話。それも、すぐ駆けつけられるような場所ならって条件付きにはなってくる。

 ぶっちゃけ、この条件だと必ず俺達がそういう状況になるとも言えないんだよなー。だからこそ、群集のみんなでの協力が必須なんだけどさ。


「んー、あとはクエスト自体の進捗の有無も影響してくるよね?」

「そうなんだけど……どのタイミングで、どういう風に進むのかが予想出来んのが痛い! 半端な時間で進行させてくるとも思えないから、昼飯時が終わった後か、イベント進行の時間帯の実績のある17時か、お知らせ更新のある19時……この3つくらいが怪しいとは思うんだけどな」

「おぉ!? 確かに、そのどれかにはなりそうな気がします!」

「10時頃も可能性はあると思ってたけど、何もなかったしねー。今日中に何か進展があるなら、その辺の時間帯のどこかが怪しいかも?」

「まぁこればっかりは、実際に進んでみるまで分からんけどなー」


 それに……今のはあくまで経験則からの予想だから、必ずしもそうなる保証もない。全く無関係な時間に進む事だって考えられるし……あー、考えるだけ無駄か!


「はい! お昼からの合流は、何時にどこにしますか!?」

「それ、もう決まってるからな? 14時、桜花さんのとこに集合だから」

「え、私達だけで先に合流はしないの!?」

「……してもいいけど、何やるんだ?」

「情報収集! ベスタさんがまとめた情報の確認も必須なのさー! 他のみんな、まだその辺の事情を知らないんだし、先に整理しておいた方がいい気がします!」

「あー、確かに……」


 普通に予定通りの集合時間にするつもりだったけど、ハーレさんの主張ももっともな内容か。14時でクエストの進行が起こる可能性はあるし、その前に色々な情報を整理しておくのは……ありだな。


「みんな、13時半に集合は可能? もし出来るなら、ハーレさんの案を採用したいんだけど……」

「時間的にはまだ12時前ではあるから、まぁ余裕はあるな」

「多分、問題ないかな?」

「私も大丈夫だと思うよ」

「わたしも問題ないよー!」

「ふっふっふ! それじゃ決定なのさー! 桜花さんがログインしていれば桜花さんのところでどうですか!?」

「桜花さんがいる場合は、それで問題ないな。いなかった場合も、桜の並木の外れの場所でいいか」

「はーい! それじゃ、一旦解散なのさー!」


 ちょっと昨日の予定とは違う内容にはなったけど、まぁこの程度はどうとでもなる範囲だったね。という事で、午前の部は一旦ここまでで終了!

 13時半なら、それほど無理もなく集合出来るだろ。さーて、それじゃ昼飯を食ってきますかねー!


 あ、そういやイブキの回収は……まぁ羅刹が情報共有板を見ているとは言ってたし、灰のサファリ同盟の人もいたんだから、任せておけば問題ないな。

 報告した時の反応を見る限り、今回の協力者としての成果は大きいし、雑な扱いはされないだろ。……イブキ自身が、変な対応をしない限りは!



 ◇ ◇ ◇



 いったんのいるログイン場面では、特に新しい情報はなかったので、手短に済ませて現実へと戻ってきた。さて、ちょっと12時までは時間があるから、昼飯まで少し時間を潰して――


「ん? メッセージの通知? あ、直樹からか」


 ログアウトするタイミングを見計らったかのように、直樹からのメッセージが届いた。今日の午前中で直樹が出る分の予選は終わったんだろうし、その辺の結果報告かな?

 とりあえず、メッセージを開いて内容を確認してみようっと。


「おー、直樹のとこは順当に優勝か! ……あー、相沢さん達は準決勝で負けて、3位決定戦で勝っての3位か」


 決勝で直樹と相沢さんが当たる事はなく終わったっぽいし、全国に行くのは2位までだったから、3位じゃ無理だな! よし、これならアルバイトに俺と晴香が出まくるなんて状況は避けられる!

 その分だけ、相沢さんと一緒にアルバイトをする日も増えると考えたら……ちょっと微妙な心境にはなるけどさ。


「兄貴、開けてー!」

「……へいへいっと」


 このタイミングで晴香が来るって事は、直樹から同じようなメッセージが届いたか? いや、ラックさんからって可能性もあるな? とりあえず、昨日設置されたばかりの鍵を開けますか。


「兄貴! 山田さん、全国行き決定なのさー!」

「俺もそれは連絡をもらったとこだな。直樹から聞いたのか?」

「ううん! ラックからー! 兄貴のとこは、負けたみたいだね?」

「なんとも微妙な心境だけどなー。でもまぁ、これでお盆は休みが取りやすくなっただろ」


 優勝出来ればお盆にある大会に出場出来るけど、負ければ不可能だって話だったしな。直樹はそこでアルバイトを休みにするだろうけど、相沢さんがそうなる事態は避けられた訳だ。


「それなんだけど、兄貴にお願いがあるのさー!」

「……ん? 何か他に問題でもあったか?」

「お盆は絶対に休みにしたいので、相沢さんを説得してもらえませんか!?」

「……それ、晴香が普通に頼めば?」

「それが駄目だった時の、万が一の手段なのさー!」


 俺に頼むのが、なんで万が一の手段に……って、そういう狙いか!? あー、まぁ確かに晴香が頼んだだけなら無理な場合もあるけど、俺から言えば……通る可能性は高いか。


「要は、俺に相沢さんを脅迫しろと? 今まで迷惑をかけられた分を、交渉材料に使って?」

「言い方が悪いのです! 兄貴相手なら、強気に出れないのを利用するだけなのさー!」

「……それも大概、良い言い方ではないけどな?」


 というか、何気に無茶苦茶な事を言い出すな!? いやまぁ、他の日に変える事が出来ないんだから、手段を選んでられないんだろうけどさ。


「そういうのは、先に自分で頼んでみろ。それで駄目なら、その時は考えてやる」

「もちろん、そのつもり! でも、万が一の策があるなら、安心して頼めるのさー!」

「……流石に初手から脅迫のつもりではなかったか」

「それは当然なのです! そもそも、脅すつもりなら、もっと早くにやってるのさー!」

「……そりゃそうだ」


 脅すなら、結果が出る前にやっておかないとやりにくいもんな。てか、何気に晴香も相沢さん達が敗退して安心してね? まぁ勝ち続けられるのも微妙な心境だし、これで丸く収まるか。


「ふっふっふ! 午後のソロのバトルロイヤルにも出てたみたいだけど、そっちは昨日の時点で敗退してるから、問題ないのです!」

「へ? え、あっちにも出てたんかい!?」


 あー、開催時間が重なってないから、複数の部門で参加は出来るのか。直樹はそうなってなかったと思うけど……部員数が多いし、ある程度は人数が絞られてるのかもね。


「……まぁ負けたのなら、それでいいか」

「そういう事なのさー! ちなみに兄貴だと、バトルロイヤルだとどんな戦績ですか!?」

「……あれ、対象は別のゲームじゃなかった?」

「はっ!? そういやそうだった!?」


 あのゲームでも家庭用のVR機器向けのには追加でバトルロイヤルモードは追加されたとか言ってた気がするけど、それでもチーム戦だったような気はする? 採用になってたゲームはやった事がないし、戦績を聞かれても答えようがない。


「まぁいいや! 今のうちに、ちょっと聞いてみるのさー! アルバイト用のグループメッセージを使うねー!」

「ほいよっと。出来れば、穏便に済ませてくれ」

「はーい!」


 昼飯までまだ少し時間があるし、直樹はともかく、相沢さんの方はもう暇になってるだろうから問題ないな。eスポーツの大会はこの土日の2日間での開催だったはずだし……よし、今のうちに、スーパーの店長さんに渡すシフトの希望を書いとこ。まぁ俺の場合、『いつでも可』でしかないけども。


「むぅ……お盆は、用事があるって言われたー!?」

「……ほう? 大会の出場条件を満たしたら出るつもりでいたのに、もう用事があると?」

「勝てたら大会に行くのを優先してたけど、そうじゃなくても元々用事があったらしいです!」

「それ、大した用事じゃなくね? 大会でキャンセル出来る用事だろ?」

「そうだと思うのさー! でも、私の個人的な事情だから……無理にとは言えないのです……」

「……まぁそりゃなー」


 お盆の用事と言えば……まぁ順当に考えれば、親戚関係か? うちは特にその辺は大々的に何かがある訳じゃないけど……サヤとか、それを抜けてこっちまで遊びに来るんだしな。それを台無しにするのは……ちょっと心苦しいね。


「よし、ちょっと話をしてみますか。……正直、相沢さん相手は面倒だけど」

「兄貴、本音が出過ぎなのさー!?」

「そこで嘘を言っても仕方ないしなー。それに、今更だし……」

「……確かに、それはそうなのです」


 という事で、グループメッセージを開いて……あー、うん。割とあっさり、晴香の頼みを断ってるな。ただ、理由までは書いていないか。


「変に勘違いされても面倒だし……直球でいくか」


 遠回しに伝えようとすれば、変な曲解をされておかしくなるのは体験済み。そうならないように、今回は直球で……『晴香はどうしてもお盆に空けなきゃいけないから、代わりを頼む! 晴香、大事な友達が来るんだよ』……これでいくか。流石に脅すのは……最終手段にしておこう。

 これ、大丈夫だよな? 変な曲解のしようはない内容だよな!? あ、返事がきた。


「『吉崎兄妹が揃ってのお願い!? 一体、何が起こるの!?』……って、全然返答になってねぇな!?」

「兄貴、もう直球で脅すのさー!」

「いやいや、それは後が面倒だからな!? もう素直に理由を書いちまうぞ?」

「……サヤやヨッシが来るの、出来れば知られたくないのさー!?」

「……あー、サヤが嫌がるから?」

「それも理由の1つです!」


 サヤ、異様に相沢さんの事は警戒してるもんな。ゲーム内であれなんだから、リアルで遭遇なんてのは……うん、本当に避けたいかも? とはいえ、脅すのもなぁ……。


「ん? なんか追加が来たけど……あー、これは……」

「あー!? 『代わりを引き受ける条件として、吉崎兄妹に模擬戦の対戦相手を求める!』って書いてきてるのさー!?」

「……よし、脅すか」

「あ、兄貴がキレてるのさー!?」

「当たり前だ! こっちは色々と文句を言いたいのを水に流して済ませたのに、あの部の連中の手伝いなんかしてられるか!」


 相沢さんが条件を付けてくるような真似をするのなら、こっちだって遠慮は要らないな。直球で素直に頼んだのに、こういう対応なら、それ相応に返させてもらおうか!

 さて、どう脅したものか? 気に入らないとはいえ、eスポーツ部の件は喜多山先生に免じて水に流した訳だし、そこを掘り返すのはよくないし……あー、この手があったか。


「っ!? 『そういう条件を付けるなら……うちの親がそっちの親から謝られたけど、具体的な説明をさせてもらうけど?』って、そういえばそんな話もあったのさー!?」

「色々と説明しにくいからボカしてたけど、もう遠慮はいらないかと思ってなー。反省してないなら……っと、返事がきたか」

「『それだけはやめてー!? お盆、代わるからー!』……だそうです!」

「よし、効果抜群!」

「……親を巻き込まれるのは、嫌なのはよく分かるのです」

「それは俺も同感だよ……」


 だからこそ、親越しに謝罪が来た件では色々と戸惑ったんだしな! だけど、そういうルートがあるからこそ、この手は有効になる! 喜多山先生が、相沢さんが色々とやらかしてるのを把握してたみたいだし、それが他の家族にまで伝わるのは流石に避けたいんだろうね。


「ともかく、これでお盆のスケジュールは問題ないのさー!」

「そうなるなー」

「圭ちゃん、晴ちゃん、お昼ねー!」


 おっと、気付けば12時を少し過ぎてて、母さんからお呼びがかかったか。結局、脅す形にはなったけど……そこは相沢さんの自業自得って事で。口は災いの元って、こういう事を言うんだろうね。


「さて、昼飯を食いにいくか」

「はーい!」


 さて、ササっと昼飯を食って、続きをやっていこう! 昼からは今回の探索メンバーが全員揃うし、色々と状況の変化も伝えていかないといけないしなー。

 

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