第39章 連休中のイベント

第1463話 放課後の野暮用


 午後の授業も終わり、放課後になった。特に今日は母さんから買い出しを頼まれてもいないけど……ちょっと、職員室に用事があるから行って――


「吉崎くん、いる?」

「……喜多山先生?」


 なぜ、これから苦情を言いに出向こうとしていたeスポーツ部の顧問の先生がここにいる!? あ、隣のクラスが確か英語か!? 授業終わりにそのまま来たのかも?


「おーい、圭吾? 呼ばれてるけど……何したんだ?」

「何もしてないけど!?」


 慎也はうるさいわ! 少なくとも、呼び出しを受けるようなやましい事は何もした覚えはない! そもそも去年ならまだしも、今年は喜多山先生はこのクラスの英語の担当じゃないのに、どういう用事!?


「あ、いたいた。吉崎くん、ちょっと時間ある? 少ーし、大事なお話があるんだけど?」

「……どういう用事ですか?」


 まぁ俺としても全く用事がない訳ではないから……職員室まで出向く手間が省けたのは好都合? いや、でもまだ結構人が残ってる教室に来ているって時点で目立ちまくってる気がする……。


「いやー、用事というか、うちの部の子達が迷惑かけちゃったみたいだからねー? 一応、名ばかり顧問とはいえ、顧問らしい仕事もしないと……流石に私が怒られそうで?」

「あー、そういう……」


 というか、自分で名ばかり顧問って言っちゃうのかよ! なるほど、昨日の件で顧問が不在だったのは、こういう軽さが理由か! 先生自体が怒られるような内容になるんだな、昨日のあれ。まぁ校外の人間が2人来てたのに、教師不在じゃなー。


「おっし! それじゃ俺は先に帰るぜ!」

「へいへいっと」


 別に慎也と一緒に帰ってる訳でもないし、帰るならさっさと帰れ! 


「という事で、ちょっと時間を取ってもらっていい?」

「……分かりました」

「それじゃ、eスポーツ部の部室まで行こうか! はーい、見せ物じゃないからねー! なんか勝手に嫉妬してる感じだけど、嫉妬は見苦しいよ? 人を妬む余裕があるなら、その分だけ自分を磨きなさい! 青春の期間は有限だぞー!」


 ……あー、うん。まぁ言ってる事は間違ってないんだろうけど、この先生って妙に軽いんだよなー。去年も思ったけど、今年もこんな形で実感するとは思ってなかったよ。

 でもまぁ、内容的には俺の味方をしてくれてるっぽい? うーん、それでもこの変な目立ち方は勘弁して!?



 ◇ ◇ ◇



 喜多山先生は予想通り授業終わりに寄っていたようで、職員室を経由してから、eスポーツ部の活動しているコンピュータ室へとやってきた。相沢さんを含む、昨日の面子が勢揃いしてるけど……もう帰りたくなってるんですけど? え、こいつらまでいるの?


「はい、全員謝罪!」

「「「「「すみませんでした!」」」」」

「……えぇ?」


 いきなり5人全員に頭を下げられても、困惑しかないんだけど。そもそも顧問が関与した段階での謝罪じゃ、本当に悪いと思ってるかどうかすら怪しい……。


「……喜多山先生、こんな口だけの謝罪で済ませろって事?」

「んー、まぁ心境的には難しいだろうねー。奏ちゃん、もう何度目か分からないくらい迷惑かけちゃってるみたいだし?」

「うっ!?」

「「「「…………」」」」


 おいこら、eスポーツ部の男連中! 相沢さんだけを責め立てるような視線を送ってるけど、他人事だとでも思ってるのか!?


「はい、そこの4人! 反省してないでしょ! 今、吉崎くんに苦情を出されたら、明日の予選に出れなくなる可能性もあるの、分かってる!? まぁ先生としては、休日出勤が無くなるなら、それも歓迎ではあるんだけど――」

「ちょ!?」

「それは困る!?」

「吉崎、それは勘弁してくれ!」

「……部活を結成した意味がなくなる!?」


 その辺は知った事じゃないわ! 俺はあくまで、自分が受けた不快さを訴えに出て……まだ出てはいないはずなんだけど、もう言ってる事になってるな? 何がどうしてこういう流れになってるんだ?

 というか、そもそも顧問の先生としてこの発言はどうなんだ!? 流石は相沢さんの姉って事だけはあるのか!?


「……まぁ流石に設立して初の大会だし、いきなり出場辞退は可哀想かなーとは思うんだけど……吉崎くんはどう思う?」

「正直、その辺はどうでもいいですね。むしろ、スカッとしそうな――」

「吉崎くん、待って! 本当に色々とごめんなさい! でも、別に悪気があっての事じゃ――」

「昨日のあの過剰過ぎる敵意の籠った視線に、悪気がない……ねぇ?」

「「「「…………」」」」


 残りの4人、思いっきり目を逸らしてんじゃねぇか! そういう反応をするって事は、明確に自覚あるじゃん! 自覚があった上で、反省なしの口だけ謝罪とか受けるかよ!

 eスポーツだってスポーツを名乗ってるんだから、スポーツ精神を持ってこい! 少なくとも、俺はこのeスポーツ部の連中に敵意を向けられるような真似はした覚えはないしな!


「みんな、人を呪わば穴二つって知ってる? まさに、今みたいな状況を言うんだけどね?」

「お姉ちゃん!? 別にみんなは呪ってなんか――」

「奏ちゃんは黙ってなさい! 今回の元凶は誰!?」

「っ!?」


 そうだ、そうだ! 先生、もっと言ってしまえ! 無自覚で変な事態を厄介な方向へ変えてしまってる事は、本気で反省してもらわないと困るしな!


「私もねー、妹のたっての頼みだったからって、ちょっと甘くし過ぎてて、反省中なんだよねー。そりゃ私も昨日は放置しちゃったのは悪いとは思ってはいるんだよ? でもね、みんな、好き勝手な事をした責任って、誰に向かうと思ってるの? やったところで得もない顧問を引き受けて、好き勝手な振る舞いをされて、苦情がきて……それで査定下がってお給料が減ったら、この中の誰かがお金を払ってくれる? 今のこれも、しなくてよかったはずの、余計なお仕事なんだけど?」

「「「「「………………」」」」」


 あー、うん。これは説教してるようで、してないのか? いや、身勝手な行動の責任を押し付けてしまっているという意味では、これも間違った言葉ではないような気もする。


「そもそもねー、この話はどこから来てるか知ってるの? 奏ちゃんが昨日、呼んできてた他校の山田くんだっけ? あっちの顧問の先生からの問い合わせだからね? なんで私が、みんなが吉崎くんを異常なまでに敵視してたって理由で、他校の先生からネチネチと嫌味を言われなきゃいけないのかなー?」

「「「「「………………」」」」」


 どういう流れでこういう話になってるのかと思ったら、そういう経緯か!? あー、直樹が自分のとこの顧問に報告した結果、こういう状況になったっぽいな。大義名分として、うちの高校のeスポーツ部の偵察として来てたんだし、そういう報告をする事にもなるか。

 その結果で他校から苦情がきたら、顧問としては対応しない訳にはいかないですよねー。ナイス、直樹! 今のこの状況に俺が呼び出されているのは面倒ではあるけど、良い仕事をしてくれた!


「吉崎くん、迷惑かけちゃってごめんね? うちの奏ちゃん、色々と優等生なはずなんだけど、妙なとこでポンコツで……」

「お姉ちゃん!? ポンコツって酷――」

「……黙ってなさいって言ったよね?」

「……はい」


 怖っ!? 今の喜多山先生、相当怖かった!? え、あんな声出るの!? 全然そんな雰囲気がある先生だと思ってなかったんだけど……怒らせたら本気で怖いタイプ!?


「本心としては、煮るなり焼くなり好きにしてって言いたいとこなんだけど……それは私としても困るんだよね。それに……下手に自主的に出場辞退の処分にしても、余計な恨みを買いそうだとは思わない?」

「……あー」


 さっきの反省してない様子だと、冗談抜きでそういう逆恨みは出てきそうな予感……。いや、これって先生にとって都合が悪いから、何事もなかったように有耶無耶にしようって魂胆なような気も……。


「ねぇ、吉崎くん? どうするのがいいと思う?」


 俺にどうするのか決定権を委ねているようでいて、先生からの圧が凄まじいんだが!? さっきの形だけの謝罪で全てを水に流せって、無言の圧力を感じるんだけど!?

 いや、でも先生がこういう方針なら、冗談抜きでこれ以上のトラブルを起こしたら即座に廃部になりそうだよな。なら、ここで終わりにすれば、平穏に済むのかも? ……それもありだな。


「もうこれ以上余計な事をしないなら、さっきので水に流すのでいいですよ」

「はい、言質はいただきました! それじゃ今回のゴタゴタはこれで終わりという事で! 今後は、余計な事をしないように!」

「「「「「……はい」」」」」

「特に奏ちゃん!」

「え、私だけ念押し!?」

「そりゃそうでしょう! 吉崎くん絡み、今回で何件目なのよ? 夏休みのアルバイト先まで一緒になっちゃってるとか聞いたら、お姉ちゃん、今から頭が痛いんだけど……」

「わー!? なんで知ってるの!?」

「そりゃお母さんから聞いたに決まってるでしょ。部活絡み以外で知った名前が出てくるって、私に探りを入れてこられたらさー」

「お母さん、何やってるの!?」


 いや、相沢さんこそ、家族に俺のどんな話をしてんの!? てか、そんな探られ方してたの、俺!? ……そういや、俺も母さんから似たような感じで聞かれた事もあった気がする?

 小学校、中学校とずっと同じだったなら……逆のパターンもあるって事か。近所のスーパーなんだし、そりゃそういう事もあるよなー! 恐るべし、母親ネットワーク……。


「……部長と吉崎って、どういう関係?」

「ちょっと前に付き合ってるって噂が流れて、すぐに消えたけど……実はマジ話だったりするのか?」

「母親が知っているって、家族ぐるみの関係!?」

「部長に取り入れば、あの晴香って子とも仲良くなれる?」


 おいこら、待てや! なんで消え去った疑念が、またここで出てくる!?

 てか、晴香の事を気にしてるやつがそういやいたな!? でも、絶対にこいつらには紹介なんざしてやらんぞ!


「はい、それも余計な事! なんで入部テストを実施するかになったのも、理由は分かってるよね? そもそも、本当にそういう関係性ならどれだけ私の心労が減る事やら……。もう吉崎くん、いっそ本当にうちの妹と付き合っちゃわない?」

「それは遠慮しときます」

「お姉ちゃん!? 吉崎くんも即答!?」

「あらら、振られちゃったよ、奏ちゃん」

「べ、別に、それくらい、問題はないし?」


 あのー、昨日変な勘違いで俺を振ったような状態になっておいて、今の即答で戸惑うような反応をするのはやめてもらっていい? ……まぁ今のは流石に声には出さないけどさ。


「……先生、俺はもう帰ってもいいですか? 用件、もう終わりですよね?」

「あ、うん。それはもう大丈夫だよ。お手数おかけしたねー!」

「それじゃ、失礼します」


 さて、それじゃすぐに帰って、続きを――


「あ、吉崎くん! また夜にねー!」

「「「「夜っ!?」」」」

「あらー? 奏ちゃん、それってどういう事ー?」

「……え? あっ!? これ、今言ったら不味かったやつかも!?」


 ……どう考えても今の流れで言っていい話じゃないし、eスポーツ部の面々に俺の情報が伝わらないようにするって話はどうなった!? いや、それ以外の変な誤解がまた発生しそうなんだけど……もういいや。面倒だから、このまま帰ってしまおう。


「わー!? 吉崎くん、そのままスルーして帰っちゃうの!?」

「奏ちゃーん? 今度は何をしでかしてるのかなー?」

「待って!? お姉ちゃん、待って!? 絶対、何か変な誤解をしてるって!?」

「流石にこれ以上教室で騒ぐと迷惑になるし、とりあえず仮想空間で聞きましょう。はい、これ」

「うっ!? 逃す気がないやつだ!?」

「……やっぱり部長と吉崎、付き合ってるんじゃね? 内緒にしようとしてるだけで……」

「いやいや、それにしては反応が変だぞ?」

「あ、分かった! 今付き合ってるんじゃなくて、過去に付き合ってて部長が振られたのか!」

「それだ! 部長がそれで未練がましいのかも!」

「それ、違うからー!」

「はーい、その辺も含めてじっくりと話を聞かせてもらうからねー?」


 なんか騒がしいけど、もうスルーして帰ろう。変な誤解を解くのは先生がなんとかしてくれるだろうし、eスポーツ部の連中がモンエボに来たとしても、この様子なら俺への余計な手出しも封じてくれるだろ。


「ん? 直樹から、メッセージ? ……あいつ、この状況を読んでたな」


 このタイミングで『eスポーツ部の連中からの敵意は、どうにかなったか?』なんて聞いてくるのは、そういう事なんだろうしね。ただまぁ、正確には読み切れなかっただろうけど……。


「『変な事になってるけど、まぁなんとか解決はしそうだぞ』……で、返信っと。相沢さんのあれは、もういつもの事だしな……」


 本当に欠片も悪気はないんだろうけど、よくもまぁここまでややこしい状況を作れるもんだよ。ただまぁ、今回は実の姉の喜多山先生が同席しているタイミングだったから、なんとかなりそうではあるけどさ。


「……さて、帰るか」


 いつの間にやら、完全に静かになったコンピュータ室だけど……まぁ実情は仮想空間の中で、相沢さんが問い詰められてる状況なんだろうね。おっと、直樹から返事がきたな。


「『……また何かトラブってんのか?』って、まぁそういう反応にはなるよなー」


 俺だって、まさか帰ろうとしたタイミングであんな状態になるとは欠片も予想してなかったし……。いや、冗談抜きで何がどうして、ああなった?

 eスポーツ勢の流入の受け入れ先として用意する共同体のメンバーになってはいても、俺は今日の夜、そこに行く予定はないんだけどな? そもそも、明日は大会の予選なのでは……?


 あー、うん、考えるだけ無駄な気がしてきた。ともかく、今は家に帰ろう。……なんかドッと疲れた放課後だけど、明日からは3連休だし、イベントは何が始まるんだろうなー?



――――


連載、再開!

電子書籍版の第16巻も予約開始になっているので、そちらもよろしければ!

詳細は近況ノートにて!



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