第1461話 大きく動く勢力図


 外からどういう風に見えてたかは不明だけど、とりあえずベスタが逃げ切って対戦は終わり! ……なんか途中から趣旨が変わってた気もするけど、まぁそれはそれって事でいいだろ。

 俺の水の操作は解除して、アルのクジラに乗ってエンの前まで近付いていってるけど……集まってる人達の数が凄いな!?


「……ベスタさん、思った以上に強い」

「彼岸花もいい分析力はしているな。今後、頼りにさせてもらうぞ」

「……うん、頑張る!」

「それなら、彼岸花は戦闘慣れしなくちゃねー? 操作精度は高いんだから!」

「折角、模擬戦が使えるようになるんだからな。何度死のうが、お構いなしでいけるか」

「……お手柔らかにね?」

「そういう特訓は任せるが……さっさと移籍作業を済ませてこい。周りがお待ちかねだ」


 まぁ凄い人数だもんなー。直接連絡が行った灰のサファリ同盟やモンスターズ・サバイバルは確実にいるし、それ以外にも見知った人も見知らぬ人も大量だ。

 森林深部でここまで人が集まってるの、何気に久々じゃね? 新エリアで占有エリアが出来て以降、この辺は少し人が減り気味だったんだけど……いやー、急な呼びかけでこんなに増えるか!


「乱入クエストを率いていた人が加入って聞いたけど、マジで!?」

「マジっぽいぞ! なんか知らんがリーダーとやり合ってた!」

「あー、さっきの何をしてたのかさっぱり分からんヤツか。……切実に解説が欲しいんだが?」

「グリーズ・リベルテが迎えに行ってたって話だけど……信用しても大丈夫な相手なの?」

「大丈夫じゃね? 何かあれば、抑え込める人達だろうしさ」

「インクアイリーが内部分裂を起こして、群集への加入をしに来てるって事らしいよ! その1つってだけじゃない?」

「なんでインクアイリー、内部分裂してんの? そもそも群集を無視した集団って話じゃなかった?」

「集めた人が、相当な変人だったみたい? 集めるだけ集めて、管理を放棄しちゃったんだって」

「はい!? え、無責任過ぎねぇ!?」

「あー、なんか移籍が多いなーって思ってたら、そういう事か」

「リーダーから、インクアイリーの伝手は維持するって通達もあったよね!」

「あー、あったな。あれ、そういう理由か!」

「移籍してきた人にあれこれ言うのは無しとも言ってたか。まぁ変な事をしない限り、そんな事を言う気ないけどなー」

「元がなんだろうが、大歓迎だぞ! ようこそ、灰の群集へ!」

「わっはっは! リーダーと渡り合える人が入ってくるのは心強いじゃねぇか!」


 うん、軽く周囲の声を聞いてみても、特に悪印象を持っている人はいない様子。まぁ悪印象を持ってる人が、大急ぎで見物しに来てないだけなのかもしれないけど……それでも、これは言っていこう。

 ベスタに任せてもいい気はするけど、ここは俺が宣言しよう! もう既にインクアイリーのコイコクさん達も連れてきたんだし、ここも俺らがリスクを負う!


「彼岸花さん、リコリスさん、ラジアータさん。ようこそ、灰の群集へ! これから、よろしくな!」

「……うん! 後悔はさせない!」

「歓迎、ありがと! さーて……まずはベスタさんに一撃、入れられるように特訓だね!」

「よろしく頼む。確かに、負けたままではいられないか」


 おーい、移籍を済ませてカーソルの色が灰色に変わった直後の目標がそれなのか!? 今更ではあるけど、本当に負けず嫌いだな!?


「はい! 彼岸花さん達の共同体名はどうしますか!?」

「ハーレ、それは待て。移籍したての3人では、共同体は結成出来んぞ」

「……え? あー!? そういえば、そういう制限があったのさー!?」


 あ、そっか。そういや、共同体の設立には加入したてのメンバーは加えられないんだったっけ。新入りの印である白い線が消えるまでは、どうやっても結成は不可?


「……まだ名前も決められてないし、そこはじっくり考えるよ」

「まとめ、まとめ! 灰の群集のまとめ、どんな風になってるんだろ? 前から興味はあったんだけど……おー、綺麗に整頓されてる!」

「おい、リコリス! 名前の話は完全にスルーか!?」

「えー、すぐには共同体の結成は出来ないんでしょ? なら、すぐに決めなくてもいいじゃん!」

「いや、そもそも呼び名が必要なのは、俺らを呼ぶ時にややこしいって理由だからであってだな? 彼岸花3人組と呼ばれるのは、何か違うだろう?」

「あー、そうだった、そうだった! んー、なら『曼珠沙華』で!」

「なるほど、『曼珠沙華』か。俺はそれでいいが……彼岸花はどうだ?」

「……安直だけど、悪くはないね」

「よーし、それなら私達の事は『曼珠沙華』で決定で!」

「ほいよっと」


 えーと、あっさり決まったのはいいんだけど……マンジュシャゲって……曼珠沙華か! これ、聞き覚えはあるけど、どういう意味だっけ?


「はい! 『曼珠沙華』ってどういう意味ですか!?」

「意味というか……そのまま『彼岸花』の別名だな」

「おぉ、そうなんだ!? アルさん、相変わらずの博識なのさー!」

「まぁ彼岸花は別名が多いだけなんだがな」


 あー、聞き覚えがあったと思ったら、まさかのそのまま『彼岸花』の別名だったか。なんか妙に彼岸花に拘ってない?


「ただの興味本位ではあるんだけど、なんで彼岸花に関係する名前になってるのかな?」

「そりゃまぁ、彼岸に送ってやろーって決意表明だよね! 勝ち逃げは許さない!」

「なんとなくそんな気はしてたけど、やっぱりそういう由来かな!?」

「思いっきり物騒だったのさー!? 彼岸って、あの世だよね!?」

「そうなると思うけど……あはは、本当に負けず嫌いなんだ」


 前からシュウさんや弥生さんへのリベンジに燃えてたけど、それを象徴するようなプレイヤー名ですなー。3人組の名前にもそれを使うんだから、負けず嫌いも筋金入りな気がする。


「……リベンジもあるけど、花言葉で『再会』もあるからね。そっちの願掛けでもあったよ」

「学名『リコリス・ラジアータ』で、赤い彼岸花だからな。色違いだと花言葉が変わってくるから、こっちの学名を分けて付けている」

「そこまでは言わなくていいじゃん!? リベンジをしたかったのはもちろんだけど、変な幕切れでいなくなったから心配してたなんてのは――」

「……リコリス、自分で言っちゃってるよ?」

「ぎゃー!? 今の無しで! 心配とかしてないから! 見つかってホッとして、リベンジに専念出来るようになって……うん、もう黙っとくね……」

「リコリス、どんどん墓穴を掘ってどうする?」

「今は放っといてー! あー!? 穴があったら入りたい!」

「それなら、掘ってやろうか?」

「本当に穴を掘るなー!」


 なんというか……面白いな、この彼岸花3人組……じゃない。もう『曼珠沙華』の3人組か。ただの負けず嫌いだと思ってたけど、それだけではなかったとはね。一方的に敵視してる訳じゃなく、良いライバル関係みたいな感じだったのかも?


「よっと! ケイさん達、そっちは片付いた感じだねー!」

「おっ、レナさん! そっちはどう?」

「eスポーツ勢の受け入れの共同体は、まぁまだ結成は無理だねー。赤のサファリ同盟も青のサファリ同盟も、まだメンバーの選定が終わってないみたい。eスポーツのアマチュア勢が群集の中に何人かいたってのは分かったみたいだけどさ。あ、そうそう。スミさんがその1人じゃないかって推測、大当たりだったみたいだよ」

「あー、やっぱりそうだったのか!」


 学生組が不在な時に急激に実力をつけてきた人が、eスポーツ勢の可能性があるってレナさんの読みは当たってたんだな。となると、それぞれの群集に何人かそういう人がいそうな気がするね。


「レナさん! 共同体の名前は決まりましたか!?」

「ううん、まだ。赤の群集も青の群集も、誰がリーダーをやるかって部分で揉めちゃってるみたいでさー。思いの外、関係者がいたみたいで……仮のリーダーじゃダメみたいな流れっぽい?」

「……ややこしい事態になってそうかな?」

「そりゃ、シュウさんや、ジェイさんと斬雨さんのコンビ以外でリーダーを立てるって事か?」

「アルマースさん、正解! 今、リーダーに立候補した中で、誰がやるかをトーナメント戦で決めてるね。それが決まってからじゃないと、代表者不在で共同体名の相談が出来なくてさー」

「……あはは、それは中々に大変な状態だね」


 まさかの立候補者が多数から、リーダー決定の為のトーナメント戦の開催か。うん、予想外の事態になってますなー。

 でも、仮で治めるリーダーを用意するよりは、自発的にやる気がある人の方がいいよな。特にシュウさんは、既に赤のサファリ同盟のメンバーなんだしね。


「ん? 灰の群集ではレナさんの代わりに、リーダーをしようって立候補者はいないのか?」

「それ、いないんだよねー。共同体への参加希望のeスポーツ関係者は灰の群集にも何人かいたんだけど……」

「……なるほど」


 まだ時間的にそれほど経ってないって理由もある気はするけど、それ以上にレナさんが共同体のリーダーとして適任だと思われている可能性はあるな。

 レナさんって教える役目は得意とは思えないけど、行動力、指揮能力、統率力、知名度と色んな点で優れてるしねー。正直、それを押し除けて立候補するのは、相当な自信がないと無理な気がする。


「まぁやると決めたからには、ちゃんとリーダーはやるけどね。そのうち後任を指定してから抜けるだろうけど、そこまではちゃんとね!」

「あー、なるほど」


 立ち上げる前から、抜ける時の算段も既にしてるんだ。まぁ軌道に乗ってからなら、それでも問題はないか。ずっとリーダーをやり続けろっていう方が無茶な話だしさ。


「レナ、共同体の立ち上げと、サイトの作成はどの程度かかる?」

「んー、共同体は名前さえ決まれば明日にでも? サイトは、今回はテンプレートを使って手抜きするし、ギンさんとアイルさんからある程度の聞き取りは出来たから……週末には公開出来るようにはするよ」

「今週末か。割と早いな?」

「まぁリアルの時間は割と融通が利く方だからねー! それに大規模な商用サイトを作る訳じゃないから、楽な方だよ?」

「……それでも手間をかけさせる事には変わらんがな。まぁ任せるぞ」

「うん、任されました!」


 俺らに手伝える事は……多分、ないだろうなー。ここはもう全面的にレナさんとラックさんに任せるしかないとして……そういやラックさんの姿が見えないな?


「レナさん、ラックさんは?」

「ラックさん……というか灰のサファリ同盟の何人かは群雄の密林のあちこちでさっきのあれの中継をやってたから、その中継役の移動種の整理に動いてるね」

「あー、中継も入ってるのか! その整理役をしてるとはね」


 言われてみれば、確かに移動種の木の人、結構いるもんな。不動種の人は下手に見に来れないだろうし、群雄の密林に中継するのも不思議じゃないか。……エリア的にはかなり離れてるけど、群集拠点種を介してるって可能性もありそうだね。


「それにしても……派手にやった割に、負けてるねー?」

「なにさー。レナさん、笑いに来たの?」

「んー、そうして欲しいならそうするけど?」

「俺は遠慮しておくが、リコリスはいくらでも笑ってやってくれ」

「こらー! 何を勝手な事を言ってるの、ラジアータ!?」

「およ? いいの、笑って? 途中から、2人で連携してたのに――」

「待て。それは待て。俺まで自動的に標的に入るのか!?」

「そりゃねー! まぁそういう冗談は置いておいて……わたしも個人的に言っておこうと思ってさー。3人とも、灰の群集へようこそ!」

「……お世話になります」

「レナさん、後で勝負! まずはラジアータをぶっ倒すのが先だけど!」

「ふん、まだ勝つ気でいたか。ならば、勝った方がレナさんへ挑むというのでどうだ?」

「よし、乗った!」

「およ? 待って、わたしはまだその勝負を受けるとはいってないよ?」

「レナさん、勝ち逃げは許さんぞ」

「そうそう! レナさんだって、リベンジの対象なんだから!」

「本当、相変わらずの負けず嫌いだね!? わたしとは勝ったり負けたりで、勝ち逃げって程じゃないのに……彼岸花さん、止めてくれない?」

「……それは無理」


 うん、まぁ楽しそうな様子だし、ここから先はレナさんに任せようか。


「ベスタ、時間も時間だし、俺らはこの辺で終わりにしとくよ」

「あぁ、了解だ。悪いな、無理に迎えに行くのに付き合わせて……」

「いやいや、この程度は問題ないって! なぁ、みんな?」

「色々と新鮮で楽しかったのさー!」

「思わぬ一面も見れたかな!」

「あはは、確かにそうだよね。アルさんとしても、少し警戒心は薄れたんじゃない?」

「……まぁ確かにな。思った以上に、人間味は感じたしな」


 迎えに行って、一緒に移動したからこそ見れた一面があったのは間違いないしね。想像以上の負けず嫌いや、お互いに信頼してるからこその喧嘩や、リベンジだけを考えてた訳ではないというのもよく分かった。

 『曼珠沙華』の3人は、純粋にゲームをゲームとして楽しんでるんだよなー。それが実感として分かったのは大きな成果だね。


「さてと、それじゃ今日はここまでで解散! 明日は夜から、イベントをやっていくぞ!」

「「「「おー!」」」」


 夜までにする事は……まぁその時に考えればいいだろ。今日みたいに色々なとこからの移籍が続く可能性もあるし、今考えるだけ無駄だな。

 それにしても、今日は育成こそろくに出来なかったけど……全貌不明なインクアイリーの分裂から、各群集への取り込みが始まって、大きな動きにはなったもんだ。eスポーツ勢に関しても色々と動いているから、勢力図が大きく変化していきそうだよな。



 ◇ ◇ ◇



 今後の勢力の変化がどうなるかは分からないけど、まぁ考えていたところでどうにもならないな。という事で、いつものいったんのいるログイン場面はスクショの承諾だけ済ませて、現実へと戻ってきた。

 特に新しいお知らせがあった訳でもないし、やるべき事が残ってるからな。ずばり、直樹が言ってた声に出る癖の部分が不具合である可能性!


「えーと、VR機器の本体からシステム設定を開いて……あ、これか! 『不具合のフィードバック』!」


 初めて開く項目だけど、あの癖がVR機器とモンエボとの相性で発生している不具合なのだとしたら、これを送る事で修正される可能性がある!


「ふむふむ、不具合が発生したと思われるソフトの稼働時のログと身体状態のログの任意提供か。症状も含めて、一緒に送れって内容だな」


 ログ自体はずっと記録されてるけど、よっぽどの異常じゃなければ基本的にこれはどこかに送信される事もなく、一定時間が経てば自動消去になるものだけど……それを分析用に送れって事か。

 まぁそりゃ、そういうデータがなきゃ不具合の原因を探りようがないしなー。個人情報満載のデータだから、本人が自分の意思で送らないと駄目って事か。


「……よし、送信完了! これであの声に出る癖、消えてくれたらいいんだけどなー」


 とりあえず症状を添えて今日の分のログを送っておいたけど、どうなるもんやら? なんか場合によっては、業務用のVR機器の送付があって、データ収集の協力をお願いする事もあるかもしれないとか書いてたけど……そこまで大事にはならないよね?

 いや、でも少しそういう方向になって欲しい気もする! 業務用のVR機器を使える機会とか、早々ないしさ!


 とりあえず、風呂に入って、今日は寝るか。あー、なんか精神的に疲れたー!

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