第1396話 夜の合流までに
<『模擬戦エリア』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>
ハーレさんとの模擬戦が終わり、エンの前に戻ってきた。さーて、とりあえずこれでやる予定の事は終わったし、時間としても18時半くらいにはなってるな。
「ハーレさん、そろそろログアウトするぞ」
「え? 早くないですか!?」
「……おい。さっきの件、リアルで話すんじゃなかったのか?」
「はっ!? そういえばそうでした!?」
おいこら、今の反応は完全に忘れてたな!? 意図的にサヤが目立つようにした件、そんなにあっさり忘れるほど、どうでもいい内容ってか!? ……相沢さんの弟の件での嘘といい、サヤへの扱い……どうなってんの?
「桜花さん、風音さん、ザックさん! 俺とハーレさんはちょっと用事があるから、ここまでになるけど大丈夫か?」
「おう、問題ないぞ。……ケイさん、問い詰めるのは程々にしといてやれよ?」
「……色々ある……お年頃」
「わっはっは! まぁ俺らが、下手にリアルの話に口出しし過ぎんのもあれだけどな!」
「……ほいよっと」
下手にやり過ぎれば、ギスギスして悪い雰囲気を作りかねないか……。風音さんも言ってるけど、お互い高校生だし、異性だからこそ言いにくい事ってのもあるだろうし……加減は誤らないようにしないとな。
「なんか過剰に心配されてる気がするけど、私は悪い事はしてないよ!?」
「……その判断は、実際に話を聞いてからにさせてもらおうか」
「あぅ!? ……それもそうでした」
「ここでログアウトしたらログインの時の邪魔になるから、少し移動してからにするぞ」
「……はーい」
という事で、夕方はここまででログアウト! あからさまに意気消沈してるハーレさんだけど……今、本当に何を考えてるのかがサッパリ分からん!
この状態で夏休みに遊びに行かせて、本当に大丈夫なのか? 下手に模擬戦とかする前に、強引にでも聞いた方がよかったんじゃないか? ……なんだか、色々と不安になってきたんだけど。
◇ ◇ ◇
いったんのいるログイン場面は、今回は急ぐので最小限で済ませてきた。すぐにログアウト処理をしてもらって、今は俺の部屋へと戻ってきている。さて、逃げられないように晴香の部屋に――
「兄貴、来たよー!」
「……来たか。なんか随分、元気があるな?」
ちょっと待て。ログアウト前の意気消沈していた様子はどこへ消えた!?
「ふっふっふ! 落ち込んでるように見せただけの演技なのです! ……まぁ一撃も当てられなくて悔しかったのはあるけど! 兄貴、強過ぎないですか!? あぅ……サヤに兄貴の攻略のヒントを伝えようと思ってたのに!」
「そういう理由かよ!」
あの模擬戦、急な対戦への変更だと思ったら……そんな事を探ってたんかい! いや、そういう理由なら、尚更にサヤが嫌がりそうな事をした理由が分からないんだけど……?
「……まぁそれは今はいいとしてだ。サヤを目立たせた理由は何だ? あれ、嫌がってただろ」
「だからこそなのです! 変に人目を避けてるみたいだから、荒療治なのさー!」
「……おいおい、無茶な事を――」
「だって、サヤって学校ではヨッシ以外の誰とも関わろうとしてないみたいだもん! 私が言えた事じゃないけど、それは寂しい状態なのです!」
「……それ、マジか?」
「嘘なら、わざわざリアルで話そうとはしないのさー!」
「……まぁそれは、確かにそうか」
大真面目な話だからこそ、ゲーム内では話さずにリアルで話すという事になったんだし……でも、サヤってそんな状態だったのか!?
「ちょっと待った。ヨッシさんが今年の春に引っ越したんだから……それ以外とは一切、交流無しか?」
「そうみたいなのです! なんか例の先輩との件で、高校でも微妙に腫れ物扱いみたいになってるらしいのさー!」
「あー、例のあれか……。てか、解決し切ってないのかよ」
俺の高校での現状を話した時に、思いっきりサヤが食いついてた理由はそこか。変な嫉妬や嫌がらせもあったって言ってたし……誤解が解けたとしても、聞く耳を持ってくれなかった元同級生だと信用出来ないのかもなー。今の高校に同じ中学出身の人が全くいないとも思えないし、中々厄介そう……。
んー、そもそもサヤのあの感じだと見知らぬ人相手では、単独だと警戒が入ってそうだな。そもそも変な先輩に近付かれ過ぎて、周りに勘違いされたのが原因だし……他人と距離を取っていても不思議じゃないか。
「……ん? でも、俺やアルと知り合った時にはそういう事はなかったぞ?」
「それ、兄貴が初手で転ばせたからなのさー! あれでなんか一気に気を張ってたのが緩んだって言ってたもん!」
「はい!? え、そう繋がってくる!?」
まさかの俺の最初のミスが、サヤの気を緩める結果になってた? というか、そういう話をしているって事は……。
「サヤは今でも、過剰に気を張り詰めてるのか? サヤ自身もその自覚あり?」
「うん! みんなと一緒の時はそうでもないけど、1人だとそういう事が多いんだってー! だから、少しでも慣らす為の模擬戦での中継なのさー!」
「……なるほど」
サヤが目立つのは苦手なのは分かってたけども……それって人間不信になってないか? 経緯を聞く限り、そうなっても仕方ない気はするけどさ。その状態でよく俺にリアルの連絡先を教えて……ははっ、それだけ信用されてるって事か。
「兄貴、真面目な話の途中でニヤけてるのはなんでですか!?」
「……なんでもないから、気にするな」
今、俺ってニヤけてたのかよ! あー、もう……サヤが大真面目に悩んでそうな状態なのに、信用されてる事を嬉しく思ってる場合でもないだろ!
「ちなみに、相沢さんの嘘の弟の件は、ここに繋がってきます!」
「……はい? え、どういう流れでそうなった?」
ちょっと待った。本当に流れが分からないんだけど……今のを聞いたら、晴香とヨッシさんが意図して嘘を付いている状態の方がマズくないか!?
「サヤ、相沢さんに警戒してたでしょ! あれ、自覚はないみたいだけど、多分サヤの嫉妬なのさー!」
「……は? え、それってどういう――」
「これ以上は私が口出しし過ぎだから、言わないでおくのです!」
「はぁ!? この中途半端な状態でか!?」
「何があっても言わないのさー!」
ちょ、えぇ!? 本当に何がどうなってるのか、さっぱりなんだけど!? サヤが相沢さんに対して、嫉妬してる……? え、本気でどういう理由だ?
「……ところで、兄貴は兄貴で何かトラウマでもあるの?」
「なんでそこで俺の話になる?」
「スーパーでの話を思い出したのさー! 相沢さんへの恋愛話の否定が、妙に早かったのです! それに学校での勘違い話もあったし!」
「……あれかー。まぁ何もないと言ったら嘘になるけど……それ、何か参考になるのか?」
「分からないけど、詳しく聞いてみたいのさー!」
「妙なとこに食い付くな!?」
あー、そういや妙に晴香はそういう話に食い付いてたな? 前に俺に彼女が出来るのがおかしいみたいな……いや、待てよ? サヤの嫉妬って、もしかしてそういう事か?
下手に俺が誰かと付き合うような事になって、共同体よりそっちを優先したり、根本的にゲーム自体から離れるような状況になるのを嫌がった? 今の居場所が良くて、それが壊れるのを恐れているっていうのはあり得そうな気がする。
なるほど、そう考えれば晴香を筆頭に色々と様子がおかしかった理由も説明がつくな。ただ、サヤ自身が受ける筋合いもない嫉妬で酷い目に遭ってるから、そうと自覚させない為の『ヨッシさんの弟』の存在か。
「ちなみに、兄貴から聞けないのなら山田さんに聞いてみます!」
「おいこら、待て!? いきなり、知り合ったばかりの相手を活用すんな!?」
くっ、確かに直樹なら、あれの一部始終は知ってるし、面白がって話す可能性は……いや、そこまで不用意に話しまくる事はないか? 口の軽い慎也じゃあるまいし……でも、今の流れで聞いてくるのは、全く無関係とは思えない。
ある意味では、人間不信を生み出しているという点で通じる部分もあるし……変に直樹を巻き込む方がややこしいか。一部始終は知ってても、部外者だったしなー。
「……はぁ、分かったよ。先に言っとくけど、正確には俺自身のトラウマって感じではないからな?」
「え、そうなの!?」
「どっちかというと、クラスの一部の連中がしでかした事が原因なんだけどな。俺の友達に仲の良い女友達がいた事が発端で、周りが盛り上げまくって告白をさせた結果……」
「……どうなりましたか!?」
「『友達以上には見れない』って玉砕。その後、その友達が盛大に落ち込んでな……」
「……あぅ!?」
「そこで終わりだったらよかったんだが……」
「え、まだ続きがあるの!?」
「むしろ、ここからが酷いぞ?」
「そうなの!?」
その時のクラスの男子の半数くらいは、それで色々とトラウマになってる奴がいるからなー。場合によっては、部活繋がりで他のクラスでもダメージを受けている奴もいるんだから……。
「まぁその落ち込み具合を見て、面白いとでも思ったんだろうよ。俺としちゃ、さっぱり分からん感覚だけど……仲良くして気を持たせて、いざ告白したら玉砕させるってのが一時期、広まってな?」
「……それは……酷いのです!?」
「誰が一番その気にさせた上で長持ちするかの勝負もしてたみたいでな。全員が全員、一気に標的に出来る訳じゃないから俺は直接の被害を受けてないんだが……男女どっちからでもあったから、人間不信の大量生産にはなってたぞ」
「想像以上に厄介な状態だったのさー!?」
「ちなみに逆パターンもあって、偽告白でその気にさせて、その後に笑い者にしてたり……。それらが発覚した後は本当に酷い状態で、クラス替えまでギスギス状態だったしな。それが起きたのが2年の時だったから、3年で受験勉強に逃げてた奴が多かったぞ」
「そんなのもあったの!?」
皮肉な話だけど、それで成績が上がった奴も結構いたのがなー。それがなければ、俺と同じ高校に進んでた奴も多かったんだろうけどさ。
少なからず今の高校にもその手のやらかした奴らはいるけど、そいつらとは話す気は皆無だし! まぁもっと成績が悪い奴が多かったから、主犯を含めて大半はいないけどさ。
「はっ!? そういえば、なんか噂でそういうのがあったって聞いた覚えがあるのさー!? あれ、兄貴のクラスだったの!?」
「あ、他の学年にも噂は流れてたか。まぁそりゃ部活で一緒の奴を標的にしたりもしてたから、そういう事もあるよなー」
「……トラウマ、大生産なのです……」
「当事者ほどではないけど、俺も軽いトラウマにはなってる感じだな……」
「あぅ!? そういう内容なんだ!?」
サヤの中学時代の件も大概だけど……こっちはこっちで大概だよなー。あー、本当に仕掛けた側の主犯が、今同じ高校でなくて助かった。あんなもん、二度と関わりたくないし……。
「はっ!? 相沢さんは、それに関係してますか!?」
「知らんけど……多分、全く無関係だとは思うぞ?」
「その割には、兄貴は相沢さんに塩対応な気がします?」
「……いや、これでも晴香が苦手な相手なら変に距離を詰め過ぎない方がいいかと思って、配慮もしてるんだが?」
「え、そうだったの!?」
「まぁ単純に相沢さんに抜けてる部分があるし、そこを警戒してるってのもあるけど……」
どうやら本気で晴香が相沢さんを嫌ってる訳ではないみたいだし、サヤが今の居場所が壊れないようにしたいのであれば、まぁ無用に警戒する程ではないか。無自覚なサヤへの理由付けとして『ヨッシさんの弟』の存在があるなら、それで十分だろうしさ。
「そのまま兄貴は警戒を続けておいて下さい!」
「……へ? え、晴香が特に嫌がってないなら、別にそこまでする必要はないんじゃ――」
「相沢さん、うっかり変な事をしそうで怖いのさー! 少なくともサヤが自覚するまでは、今の状態でお願いします!」
「……まぁ相沢さんも話には噛んでるみたいだし、それでもいいけどさ」
なんか晴香は、俺と相沢さんが近付かないようにするのに妙に必死だな? あー、でも高校での居心地の悪さも考えたら、適度に距離を取っといた方が楽ではあるかもね。
「はっ!? という事は、兄貴は初恋はまだですか!?」
「……まぁそうなるけど、それはほっとけ! そういう晴香はどうなんだよ?」
「ふっふっふ! そんな機会があったと思いますか!?」
「……正直、思わん」
「その通りなのです!」
「やっぱりなー」
去年は論外として、その前でもヨッシさんとずっと一緒だったんだろうし……想像が出来ないしね。というか、なんで俺は妹と恋愛談義をしてるんだ? しかも、不毛というか、話すだけ虚しくなるような内容を!
「あ、ちなみにヨッシにちょっかいを出してた人がいたのは実話なのさー! 相沢さんの弟って部分だけが嘘!」
「……へ? え、あれって嘘はそこだけなのかよ!?」
「そうなのです!」
まさかの、あの部分だけが嘘だという事実!? 嘘を吐くなら、真実の中に混ぜるのがいいとは聞くけど……それを実際にやってたんかい!
「……なぁ、サヤに嘘を吐いてるのは大丈夫なのか?」
「んー、正直そこはサヤの自覚待ちなのです! 下手に言ったら、そっちの方がややこしくなりそうだもん!」
「……あー、なるほど」
まぁ確かに、サヤ自身が自覚しなけりゃ進むものも進まないよな。その自覚を促す為にも、過剰に周囲に警戒している状態をどうにかしようというのが目立たせた理由か。
サヤ自体も受け入れてはいたし、今の状態自体はどうにかしたいのかもね。状況は分かったし、サヤの今後の為にも多少の荒療治は必要かもな。
「……サヤもだけど、こっちの自覚も難儀なのです」
「ん? こっちって何の話だ?」
「なんでもないのさー!」
ん? なんでそこで慌てて誤魔化す必要がある?
「はっ! もう19時だし、晩御飯を食べに行くのです!」
「あ、いつの間にかそんな時間か。おっし、それじゃ晩飯を食って、サヤとの対戦をやっていきますか!」
「そうするのです! サヤと兄貴、どっちが勝つかな!?」
「負ける気はないけど……サヤ相手だとどうだろうな?」
晴香には勝ったとはいえ、それでも危ない部分は結構あったし……サヤは晴香よりも確実に強い。水の操作の効果は凄まじいけど、それが絶対的なものでもないからな。
サヤがどういう風に攻めてくるか次第……いや、後手に回るのは危険か? 先手を常に握って、サヤの攻撃を抑えるように動いた方が――
「晩御飯は、なんだろなー?」
まぁその辺を考えるのは、実際に戦う時でいいや! 事前に作戦を決めていたって、対人戦じゃその通りに進む事の方が少ないからな。今はとりあえず、晩飯を食いに行こう!
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