第1394話 純結晶の進化の軌跡


 ハーレさんと模擬戦を利用しての『純結晶』の進化の軌跡の性能確認、しっかりとやっていきますか! まだカウントダウン中だけど、もうあと少しでそれも終わる。


「もう間も無く開始だぜ! 3……2……1……対戦開始!」


 ザックさんの実況でも合わせてカウントダウンをしていて、これで模擬戦は開始だな。さて、それじゃ始めるか。


「ハーレさん、やるぞ!」

「はーい! 『纏属進化・纏火』!」


 あ、そういや、普通の成熟体用の『火の結晶』と、この『火の純結晶』の使い分けってどうなってるんだろ? まぁいいや、とりあえず俺も進化していこうっと。とりあえず発声で試してみて……。


<『進化の軌跡・雷の純結晶』を使用して、纏属進化を行います>


 ふむふむ、雷属性の普通の結晶は持ってないから、自動的にこっちが使用になるんだな。とりあえず進化する対象はロブスターにしておこう。よし、進化が始まって、いつも通り膜に覆われて……いや、待て!? なんか膜越しだけど、盛大にバチバチッと音がしてないか!?


「おー、こりゃすげぇな! 普通の進化の軌跡での進化の時よりも、覆っていく卵状の膜の外で火が燃え上がったり、放電しまくってるぞ!」

「……演出が……派手になってる?」


 外から見た状況が、ザックさんの実況から分かった。なるほど、この演出の時点でもう既に普段の纏属進化とは別物か!


<『同調激強ロブスター』から『同調激強ロブスター・纏雷』へと纏属進化しました>

<『電気の操作Lv6』『電気魔法Lv6』『生成量増加Ⅰ・雷』が一時スキルとして付与されます>


 おっ、バチっと電気が弾け散った感じで進化が終わったな。普段なら膜が砕け散るような演出だけど、属性感が増してる演出みたいだね。


「燃え上がった火の中から火を纏うリスとクラゲになったハーレさんが登場して、盛大に電気を纏ったロブスターのケイさんも登場だな! 体色も赤と黄色で……ん? ケイさんの方はロブスターだけで、コケは変わらずか?」

「……支配種と……同調種は……片方だけの進化だよ? ……共生進化は……両方だけど」

「おっと、そういう違いがあったか! 悪い、悪い! 失念してたぜ! てか、その辺ってなんで分かれてんの?」

「……行使できる……力の差? ……支配種と同調種は……ある意味……操作系の特化型」

「あー、力の切り分けが上手いって感じか!」


 その辺ってあんまり意識した事はなかったけど……確かに操作系スキルのLvが進化条件に組み込まれていたんだから、操作系の特化型とも言えるのか。単純に操作系のみに特化した進化形態もあるけど、支配進化は別系統の特化型なのかもな。


 それにしても……一時付与は3つか。『雷の操作』までありそうな気がしたけど、昇華で手に入る『生成量増加Ⅰ・雷』までなのはちょっと意外――


「おぉ! これって、一時付与スキルは4つなんだ!?」

「ん? いや、3つじゃね?」


 ハーレさんは何を言ってるんだ? ログで見直してみても、どう見ても3つしかない……って、ちょい待った!? あー、なんとなく原因が分かった!


「ケイさん、おかしな事を言ってるのさー! 間違いなく、4つだよ! 『火の操作Lv6』と『火魔法Lv6』と『生成量増加Ⅰ・火』と『炎の操作Lv1』!」

「……やっぱりそれだったか。すまん、今のは俺の方の勘違い」

「えっへん! それはそうなのです!」


 途中で原因には思い当たってたけど、やっぱりか。なるほど、操作系スキルの応用スキルがLv1で付与されるのなら、そりゃそうなるよ。


「ん? どうもケイさんとハーレさんの認識で齟齬があったっぽいが、どういう事だ?」

「……ケイさん……ロブスターで……雷の操作を持ってる? ……一時付与がLv1なら……育ってなくても……持ってる事もあるはず?」

「風音さん、正解! 既に同Lvで持ってるから、付与されなかっただけだと思う!」

「あー、なるほどな! そりゃ当然の仕様だな!」

「おー! そういえば、そんな事もあった気がします!」


 確か、フェルスさん達の護衛依頼の際に、ヨッシさんの雷の操作を狙って取って、俺もおまけで取っといたんだよな。更に本当におまけで、ロブスターでも取得になってたやつ。

 全然使う機会がなくて育ててないから、存在自体をすっかり忘れてたよ。普段は電気魔法が必要なら、ヨッシさんかサヤに頼めば済むもんなー。


「おし! とりあえず纏属進化が済んだとこで、情報の整理をしていくぜ! ケイさん、ハーレさん、それでいいか!?」

「問題ないのです!」

「俺も大丈夫だぞ」

「了解だ! さーて、それじゃ確認だ! さっきの流れで大体分かったが、『純結晶』での纏属進化の一時付与のスキルは、属性に応じた『通常の操作系スキルのLv6』と『通常の魔法スキルのLv6』と、その昇華で得る『生成量増加Ⅰ』と、『応用の操作系スキルのLv1』って構成で合ってるか?」

「私はその通りなのさー!」

「俺のも元々持ってたから付与されなかっただけで、持っていなければ『雷の操作Lv1』があったはず。というか、昇華相当になってるから、そうなってない構成的におかしいしな」

「確かにそりゃな! 昇華になった際にセットで手に入るようになってるんだから、当然と言えば当然の話か! って事で、これで一時付与のスキルは確定だ!」

「……応用スキルが……Lv1なのは……少し不満」


 うーん、風音さんのその意見も分からなくはないけど……昇華相当のLvで一時付与されるなら相当便利なんだよな、これ。一時付与されたスキルは正式に取得すれば、そのLvまでの熟練度は手に入れたい事になるから……って、ちょい待った。それはそれで、ここまで育ててきた身としては微妙な心境だな?


「今思ったんだけど、これって熟練度はこれまでの進化の軌跡と同じで蓄積されるのか?」

「はっ!? 確かに、それはどうなんですか!?」

「あー、どうなんだ? 『純結晶』の入手難易度が高いとはいえ、昇華相当が一発で手に入るってのも……」

「……流石に……簡単になり過ぎる? ……試すしか……ない? ……でも……模擬戦じゃ……無理」

「ですよねー」


 うーん、模擬戦の最中にはスキルの新規取得は不可能なんだよなー。アイテムも使用した事にはならないからこそ、こうやって試しに使っていられるんだし……その部分を試すには、実際の消費してしまうしか手段はないか。


「ケイさん、ケイさん! 後でやってみますか!?」

「……やってみたいとこではあるけど、流石に今回は駄目そうな予感がするぞ?」

「ふっふっふ! だったら、私がやるのです! 正確には、ヨッシのウニに任せるのさー! それなら、上手くいった時に無駄にならずに済むよ!」

「あー、まぁそれはあるかも?」


 今のヨッシさんは支配進化だし、ウニで火を扱うなら氷属性への悪影響も出ないはず。ダメ元で誰かが試すしかない部分だし……ハーレさんが持ってる分を、ハーレさんの意思でヨッシさんが使うのなら問題ないか。というか、元々それを想定して火属性にしたな!?


「おし、それは後で合流した時にしてみるか。ただ、付与されるLvがLvだから……ダメ元のつもりでいろよ?」

「もちろんなのさー!」


 そのLvで取得出来てほしいという気持ちと、今まで育成してきた手間はなんだったのかという気持ちが入り混じっててなんとも言えない心境だけど……もし、それが可能なら、ロブスターにも色んな属性の昇華を持たせてやるのもあり?

 うーん、流石にそういう事が可能になるから、いくらなんでも無理か……? まぁ今考えても結論は出ないし、合流してから改めて試すって事で――


「それじゃケイさん、ここからは真剣に勝負なのさー!」

「え、普通に勝負をやるのか?」

「確認して終わりは、流石に味気ないのです! 付与されたスキル自体は、当たり前に知られてるものばっかだし!」

「あー、まぁそりゃなー」


 『純結晶』の一時付与のスキルが、これまでのものより強力なのは間違いない。一部、付与されなくなっているスキルもあるけど……まぁそこは差し引いても問題はないしね。ただ、目新しい何かが無かったのも事実か。


「勝負するのは別にいいけど……魔力値は足りるのか?」

「ふっふっふ! 物理型でも成熟体ならそれなりにあるし、それも含めて試してみたいのさー!」


 あ、そういやそうか。ロブスターの魔力値は決して多い訳ではないけど、それはあくまでも魔法型になっているコケと比較しての事。今なら、全く使えないほど魔力値が少ないって状態でもないはずだよな。

 とはいえ、あらかじめ言っておいてくれればいい気がするけど……こりゃあれだな?


「ハーレさん、実際に進化して、使ってみたくなっただけか?」

「そうとも言うのです!」


 いや、それはそうとしか言わないと思うけど……まぁ別にいいか。俺もちょっと、この雷の昇華を一時付与された状態での戦闘ってのは試してみたいしね。既に持ってるスキルとの組み合わせで、色々と手段は広げられるだろ。


「おっし! それならケイさんとハーレさんの、ガチでの模擬戦を開始だな! えーと、何か戦闘に条件付けとかしとくか? 例えば、付与したスキルのみでとか?」

「それはいらないのさー! その制約があると、組み合わせて使えなくなるもん! ケイさんだけその縛りならいいけど!」

「だそうだけど、ケイさんはどうするよ?」

「……あー、どうしよう?」


 水属性を持ってる俺の方が圧倒的に有利な状態だからハンデを付けてもいいけど……甘く考えてると足を掬われそうだしなー。どう考えても、魔法と投擲を組み合わせて使う気っぽいし……コケの水属性での火耐性は絶対のものじゃないからね。


「ケイさん、負けた時の言い訳を作っておいてもいいよー! 制限が多ければ多いほど、言い訳はしやすくなるのです!」

「……ほほう? 言ったな、ハーレさん! よし、お望みとあらば全力で叩き潰してやる!」

「ふっふっふ! ケイさんの一本釣り、大成功なのさー!」


 ちょ、一本釣りて言い切ったな!? あー、変に遠慮はいらないって煽ってきてたか。ま、そういう事なら、本当に望み通り全力で相手をしてやろうじゃん!


「おっし、それじゃ特に制約なしの全力勝負って事でいいな! 俺がカウントダウンするから、それで対戦開始でいいか?」

「ザックさん、お願いします!」

「それで問題なし!」

「それじゃ、カウント10でいくぞ! 10……9……」


 システム的なカウントダウンは既に過ぎてるから、ここはザックさんにやってもらうのが確実だな。

 さーて、このだだっ広い草原でどうやってハーレさんを倒す? リスで小さいから草むらに隠れる事は出来るだろうけど……獲物察知もあるし、完全に隠れ切るのは無理なのは分かってるはず。でも、距離を詰めてくるのはリスクが高いのは承知してるだろうし……いや、そもそも先手は渡さなければいいか。


「……2……1……対戦開始だ!」


 先手を渡さず、即座に大技を叩きこむ! でも、避けられたら意味がないから……これだ!


<行動値上限を使用して『移動操作制御Ⅱ』を発動します>  行動値 27/127 → 125/125(上限値使用:2)


 草原を覆い尽くす程の水量で、一気に生成! 模擬戦エリアだから、下手に雑魚敵がいてそこでダメージが発生する事はないし――


「はっ!? 『略:傘展開』『略:ウィンドインパクト』!」

「逃すか……って、眩し!?」

「今なのさー! 『魔法弾』『略:ファイアインパクト』『狙撃』!」


 ハーレさんがクラゲの傘を広げて一気に上空へと飛び上がったのを追いかけたら、思いっきり太陽を見てしまった!? くっ! この動き方、わざとか!?


<行動値5と魔力値10消費して『水魔法Lv5:アクアウォール』を発動します> 行動値 120/125(上限値使用:2): 魔力値 304/314


 ともかく、大急ぎで視界を逸らしつつ、防御を展開! あ、ここは移動操作制御で防いだ方が良かったか?


「開幕早々、ケイさんが盛大に水を生成したが、ハーレさんはそれを全力で回避だ! そして、何やらケイさんの動きが鈍ったか!? ハーレさん、その隙を逃さずに追撃に入る! しかし、あっさりと防がれているな!」

「……太陽を背に……目眩し? ……今の動き方……上手いね」

「おっ、ハーレさんはそんな動き方をしてたのか! ん? そういや、大量の水が出たままだな?」

「……新しい……移動操作制御Ⅱだと思うよ?」

「あー、あれか! こりゃ、実戦で使ってもとんでもないな!?」


 ちっ、慌てて防御したから、この新しい移動操作制御がダメージ判定3回まで大丈夫なのを考慮に入れずに動いてしまった。そこを利用して攻撃を加えようとしてたのに、咄嗟の判断の1つにまだ馴染んでないか。


「そんな気はしたけど、やっぱりそれは移動操作制御なんだ! 『略:ウィンドクリエイト』『略:風の操作』! えいや!」

「強制解除にはさせないっての!」


 太陽を背にしながら、そのまま通常攻撃でキャンセル狙いってとこだろうけど……解除してしまえばいいだけだ!


<『移動操作制御Ⅱ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 120/125 → 120/127


 1発はダメージを受けたけど、強制解除になる前ならこれで――


「おわっ!? ちょ、これ、花粉か!?」

「ふっふっふ! 油断大敵なのさー!」


 くっそ! ハーレさんの攻撃動作が太陽光でまともに見えなくて、一撃受けた!? しかも花粉症の状態異常で視界が歪んでるし……ロブスターにも有効なのかよ、これ!? 



――――――


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