第1330話 精度の違い


 巨大な水球の中で、ハーレさんを流して回してみてるけど……これ、地味に規模が大き過ぎて全体のイメージがしにくくて操作し辛いな!? 中で回転させるような操作をするなら、球形じゃなくて円柱の形にした方がまだやりやすいか?


「おー、凄い事になってんな!? これ、ハーレさんは大丈夫か?」

「はいひょうふ!」

「紅焔さん、大丈夫っぽいぞ?」

「みたいだな!? てか、更に速くなったな、ケイさん!?」

「ちょっとコツを掴んだというか……球形のままだとやりにくかった。この規模、動かそうとすると全体の動きを把握し切るのが難しい……」

「あー、そうなのか? まぁ見えてない部分もあるしな」

「操作さえしていれば見えてない位置でも操作は出来るけど、流石にそれにも限度があるしね。規模が大きくなった際の注意点はそこかい?」

「まさにそこだなー」


 球形だと流れの速さを均一にするのは難しいし、流れが無茶苦茶になって球形を維持する事そのものが面倒。多少の無駄が出ても操作時間の削れ方が相当抑えられてるから……まぁもっと小さければ無茶苦茶に入り乱れた流れってのも作れそうではあるけども。

 うーん、でも水流の操作ほど流れの勢いはつけられそうにないな。スキルLvがLv10になったとはいえ、応用スキルの方が専用性は強そうだね。ある程度までなら再現は出来るけど、本格的な水流が必要なら水流の操作の方が使い勝手は良さそうだ。


「ハーレさん、これ以上は加速させられそうにないし、そろそろやめとくぞ」

「まーい!」


 なんか変な返事が聞こえてきたけど、まぁただ単に俺が作った水の中だから死なないだけで、水中でまともに喋れない部分はそのままになるんだな。もし防御に使うとしても、水属性持ちか水中の種族以外から返事は期待出来ないのはちゃんと把握しとこう。

 さて、盛大な勢いになってる水だけど……これはあえて、いきなり急停止させてみるか。えーと、水の外周部は反発力を高めにして……よし、この状態で全ての水を静止!


「わっ!?」

「おー、水の中でハーレさんが跳ねまくってるなー。あ、思った以上に操作時間は削れないのか」

「おーい!? ケイさん、その反応でいいのか!?」

「いいんじゃないかい? ハーレさんも初めこそ驚いた感じだったけど、今は普通に跳ねて遊んでいるよ?」

「あ、マジだ!?」


 そんな気はしてたからやっただけだけど、案の定、ハーレさんは状況をすぐに理解して、巨大な水の中をトランポリンで跳ねるようにしているね。まぁ上下左右、どの方向に対してもだからトランポリンって表現が合ってるかは分からないけど。


「ハーレさん、反発力を無くすから、地上に戻ってきてくれ」

「ひょうはいへふ!」


 相変わらず何を言ってるのかが分かりにくいけど、今のは『了解です』だろうね。まぁ水中では喋れない仕様は今に始まった事じゃないから、特に気にする必要もない部分か。

 えーと、ハーレさんが地面の方へ向かうタイミングで、反発力を無くして水の外へ出れるようにしてっと。……タイミングはこれでいいけど、その勢いで出てきて大丈夫か? 最後に思いっきり加速してたけど……俺の方で勢いは殺さないぞ?


「ぷはっ! とう! 水から脱出です! わっ!? 足がハマったのさー!?」

「まぁ泥濘んでる湖の畔だし? この辺はかなりマシな方だけど、今の勢いでいけばなー」

「あぅ……そうでした!? 『略:傘展開』『略:ウィンドクリエイト』『略:風の操作』!」


 リスの両足が完全に埋まってしまったから、なんとかクラゲで持ち上げようとはしてるね。まぁ少し考えたら予想出来た事だし、明らかに出てくる際に勢いを増していたから、この結果は自業自得って事で。あ、抜け出てきた。


「ふぅ……なんとか脱出なのさー! ケイさん、これは戦法に使えませんか!? 今の埋まったやつ!」

「……今のをか? あー、土の操作と合わせて使えばいけるか?」

「ケイさん、泥として操作する気か!?」

「まぁ同時に操作すれば、出来なくはないはず? いや、流石に土の操作の方が追いつかない? うーん、やってみないとなんとも言えないかも……」

「マジでやる気か!?」

「一考の価値はあるかと思うけど……」


 紅焔さんが驚いてはいるけども、前に実際に泥として操作を試してみた事はある。あの時は操作精度がもっと必要なのと、操作時間の削れ方が酷くて実用性はなかったけど……今だとどうだろう?

 あの時に考えた落とし穴としての運用は……結局、今までろくに使わなかったままな気もするなー。みんなが普通に飛べているから、あんまり地面への罠って使い道がないか……。


「あれだなー。よく考えたら、いつ使うかって問題がありそう? ぶっちゃけ、視界潰しで使うなら、ハーレさんの泥団子で十分な気がする。落とし穴というか、ハマる沼の罠とかだと……使いどころが微妙?」

「はっ!? 確かにそんな気がします!?」

「それよりは、さっきのハーレさんみたいに中に閉じ込める方が無難な使い方かもなー。ぶっちゃけ、まだまだ操作時間は余裕。半分以上は残ってる」

「あれだけ動かしてか!? うへぇ……そこが一番ヤベェ強化内容じゃね?」

「多分、そうなるだろうなー」


 スリムさんが作っていた岩のドームの異常な強度は、この強化されまくってる操作時間の影響が大きかったんだろうね。追加生成で多少削れても補修は出来るだろうし……ただ、規模がとんでもなく拡大されてるから、すぐに扱いこなすのは難しい気がする。

 あれって、もしかしたらもっと小規模な段階から構想自体はあって、地道に練習してたんじゃね? 俺のは水だけど、土の操作がLv10になったとしても、即座にあれを作れるかというと……自信はないぞ。


「あ、そうだ。少し試したい事があるから、一旦解除するぞ」

「はーい! 次は何を試す気ですか!?」

「とりあえず生成量はいつもの量にして、精度の違いを確認だな。紅焔さん、水球を1つだけ作るから、攻撃を当てられるか試してもらっていい?」

「よしきた! 攻撃手段はなんでもいいか?」

「そこは任せるから、全力でやってみてくれ」

「おう、任せとけ!」


 さて、シンプルに操作精度の向上がどの程度のものかを確認しておこう。その後、同時操作での精度も確認して……そこまでやれば時間的に切り上げってとこか。

 それじゃとりあえず、シンプルに生成していきますか! 


<行動値1と魔力値2消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 109/124(上限値使用:1): 魔力値 45/310


 さっきは操作時間の長さが最大の強化内容と言ったけど、この発動コストの低さも大きな点だよな。


<行動値2を消費して『水の操作Lv10』を発動します>  行動値 107/124(上限値使用:1)


 よし、バスケットボールくらいのサイズの水球を生成して操作は完了! 軽く動かして……おー、かなりスムーズに動くね。でも、正直な感想としては……。


「……思ったほど、向上してる感はないな」

「そうなのかい? かなり良い動きをしてると思うけど……」

「それ、元々ケイさんの精度がおかしいだけなのさー!」

「俺もそう思うぜ! ケイさんの元々のがおかしいだけだ!」

「おかしいって言わなくてもよくね!?」


 そりゃ操作系スキルの扱いは得意分野だけども……おかしいと言われるのは心外だよ! でも、客観的に見ればそういう風に言われるのも仕方ないのかも。

 ぶっちゃけ、俺だって他の人の……特に近接戦闘での無茶苦茶な挙動を見たらそう思う事がない訳でもないしさー。


「てか、大真面目な話だけど、ケイさん的にはそんなに変わった感じがねぇの?」

「そもそも、Lv7の時点で大体は思った通りに動かせてたからなー。……変に負荷をかけない限りはだけど」

「変な負荷って何だ!?」

「さっき少し話題には出したけど、土を混ぜて泥にするとかそういうやつ。あ、そういやあれも今ならいけるかも?」

「……あれって、なんだ?」

「砂を混ぜてのウォーターカッター」

「恐ろしい事をやろうとしてんな!?」


 前に試した時は操作精度が足らなさ過ぎたけど、今の水の操作なら実用に耐えうる可能性はある! 砂の操作で混ぜる同時に動かす必要があるだろうし、どちらかというとそっちが問題か。

 まぁそれは後でいいや。今は、今出来る事をやっていこうっと!


「それじゃ始めるぞ、紅焔さん! もし当てられたら……あー、特になんも思いつかないな?」

「思いつかねぇのかよ!? てか、当てる云々は関係なく、今度1回、模擬戦でやらねぇ? ちょっと今のケイさんと全力で戦ってみてぇ!」

「おっ、そりゃいいな! よし、乗った!」

「おぉ! ケイさんと紅焔さんの対戦が確定なのさー!」

「確かケイさん達は今日の夜は検証に行くって話だったね? 対戦は後日かい?」

「まぁそうなるかも? 別に今からでもいいけど――」

「おっ、それなら今からやろうぜ! 19時まで30分はあるし、なんとか出来るだろ!」

「なら、そうするか。実戦で使ってみた方が感覚は掴みやすいかもしれないしなー」


 問題は模擬戦には待ち時間が発生する場合がある事なんだけど……まぁそれは実際に行ってみなければ分からない部分か。よっぽど待ち時間がかかりさえしなければ、多分晩飯までには決着は付くだろ。もし、時間的に無理なら中断すればいいとして……。


「ハーレさんとソラさんもそれでいいか?」

「大急ぎで実況の準備なのさー!? 桜花さんはログインしてますか!? あ、ログインしてるし、話をつけてきます! 今ならまだ大丈夫なはずなのさー!」

「僕は問題ないし、ハーレさんはもうやる気みたいだよ?」

「……だな。おし、それじゃ森林深部に戻って対戦といきますか!」

「ケイさん、ぶっ倒すつもりでいくからな!」

「その台詞、そのまま返す!」


 紅焔さんは火魔法Lv10持ちだし、俺のコケを殺せるだけの力は十分過ぎる程に持っている。……強化された水の操作の実験を兼ねているとはいえ、少しでも油断すればあっという間に殺されてもおかしくはない。


「桜花さん、問題ないそうです! でも、今の場所での最後の中継になるって!」

「あー、そういや桜花さんも移動を考えてるって話だったもんな。今の場所での最後の中継って事は、もう移動先は決まったのか」

「群雄の密林の城塞ガメを倒した辺りに移るので決定なのさー!」

「あー、あの辺か」


 思いっきり戦闘中に破壊しまくって、その後も更地になるように整備されてた場所だよな。あそこならマサキの転移地点が近いし、割と気軽に行ける場所ではあるか。

 紅焔さんと俺の対戦が森林深部での最後の中継になるなら、もう少しすれば移動を開始するんだな。いやー、桜花さんが移籍してきた時がなんか懐かしい!


「そういや、初期エリアから移動しても模擬戦の中継って問題ねぇの?」

「それは問題ないよ、紅焔。競争クエストの最中やその後に結構場所を移してた人がいたけど、どこも問題なく中継は出来てたしね。まぁ流石に模擬戦の数は少なかったけどさ」

「あ、そうなのか! ま、模擬戦をするタイプの奴は競争クエストに参加してるわな!」


 ほほう? まぁ競争クエストに参加してない人も結構いるだろうし、その間に移動してる人達もいたって事なんだろうね。


「あと、今は模擬戦はそんなに混雑してないそうなのです! だから、急ぐのさー!」

「おっ、そりゃ良い情報! でも、流石にここから飛んで移動は少し時間がかかるし……紅焔さん、帰還の実で戻るか?」

「おう、それでいいぜ! あー、ただ森林深部のは置いときたいから、他の場所のでいいか?」

「それはもちろんいいぞー。それじゃバラバラに戻って、エンの前で合流って流れにするか」

「おし、それで決定だな!」


 急に決まった対戦ではあるけど、まぁ時間的にも何とか大丈夫そうだな。ただ、この新エリアの五里霧林から戻るには帰還の実が必要になるとは思わなかった。……今の位置的に、ミズキも安全圏も遠いもんなー。この辺は、エリアの広さ故の問題か。


「それじゃ私は先に桜花さんのとこに行ってきます!」

「僕もそっちに行く方が良さそうだね。ハーレさん、解説とゲストはどうするんだい?」

「解説、ソラさんにお願いしてもいいですか!? ゲストは現地で誰かを捕まえます!」

「……解説の方だね。正直、解説し切る自信もないけども、それでもよければでいいかい?」

「問題なしなのさー!」

「それじゃ、それで引き受けようかい」

「やったー!」


 なんかゲストの人を捕まえるとか言ってるけど……まぁ流石に知らない人を強引に捕まえはしないだろ。さーて、それじゃサッサと移動を済ませて、紅焔さんと模擬戦で水の操作を試していくか!


「おし、それじゃ先に行ってるぜ、ケイさん!」

「ほいよっと!」


 先に紅焔さんが帰還の実で戻っていったし、俺もエンの元まで移動しなきゃだなー。えーと、森林深部への帰還の実を残しておきたいのは俺も同じだから、ここは今日は使わなさそうなやつを使っておくか。

 海か荒野か……ま、ここはどっちでもいいし、海への帰還の実を使っていきますか! その後、エンまで転移して模擬戦開始だな!


 情報共有板への報告内容自体は、まぁ必要だと思うのは大体終わってるから大丈夫だろ。むしろ、実戦での使用を中継で流す方が役に立ちそうな気もするしね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る