第1236話 暗躍している集団


 問題を起こした連中の悪名を利用しての妨害工作に続いて、赤の群集の傭兵を寝返らせる手段にも組み込んでくるとは……。手段が裏工作過ぎて、対抗策を用意するにしてもやりにくい!

 ましてや、赤の群集に対しての裏工作となると……どうすればいいんだよ! あー、その辺はウィルさん達の方で処理してくれたりしないかな? 俺らが対策しなきゃいけない範囲じゃない気がしてきた……。


「もう赤の群集に伝えるだけ伝えて、放置でもいいんじゃね?」

「……放置はどうかと思うが、灰の群集だけで解決すべき内容ではないのも確かか。どこまでの情報を持っているかを探るのも含めて、赤の群集に接触してみるのもありかもしれんな」

「だよなー! おし、その方向でやってみるか」


 そうと決まれば、赤の群集の誰かに連絡をしてみよう。出来れば探り合いにならない人がいいけど……フレンドリストを見てみたらルアーとウィルさんくらいしかログインしてねぇ!?

 ちっ、フラムを言いくるめるか、水月さんやシュウさん辺りと真っ当に喋りたかったんだけど、ログインしてない状況は厄介だな……。


「……ルアーとウィルさんくらいしか、フレンドリストから連絡が取れる人がいないんだけど?」

「俺も似たようなものだが……厄介ではあるが、その2人なら適切な相手でもあるからな。俺がルアーと話をするから、ケイはウィルと話してくれ」

「ん? 同時に2人に話をする……てか、俺がウィルさんの方!?」

「下手に2人を会話出来るようにしておくと、何を仕掛けてくるか分からんからな。ケイは出し抜かれんように、ウィルから情報を探ってこい。俺はルアーと対抗策の打ち合わせをしておく」

「……そういう役割分担かー。それは了解っと」


 要はルアーとウィルさんを分断しておこうって作戦か。まぁ同じ共同体の所属なんだから、共同体のチャットを使えばどうとでも情報の共有はできそうだけど……疑ってるぞっていう牽制が目的なんだろうね。


「桜花は引き続き、他に何か策を用意しているか探ってくれ。1つの策だけとは限らんからな」

「ま、そりゃそうだな! おし、他にも挙げてくれてた人に接触を試してみるぜ」


 確かにそれは大事な事だね。出来れば複数ルートから同じ情報を得て精度を上げておきたいし、ベスタが言うように策が1つとは限らない。今の情報が流出を前提としたもので、本命が他にある可能性もあるんだしさ。

 それにしても、誰がどこでどういう風に繋がってるか分からないもんだなー。どういう繋がりを経て、赤の群集の傭兵を寝返らせるって情報を手に入れてるんだろう? まぁ身近でもすごい偶然な繋がりもあったし、あんまり気にし過ぎても仕方ないか。


「ベスタさん、俺らにする事は何かあるか? 無ければ今のうちに晩飯を食ってくるんだが……北斗、交代しながらでいいか?」

「無所属の俺らはどっちか1人はいた方がいいかもしれんしな。他の灰の群集へ来ている傭兵がこの場にいればいいんだが……」

「……今の状態で羅刹と北斗に頼める事か。ケイ、何かあるか?」

「んー、今の時点でかー」


 頼むとしたら無所属だからこそ出来る事になるんだろうけど、大々的に情報を広められない状況でどうやって動く……? ん? あ、そうか!


「……相手の情報拡散の手段に割り込んで広めるつもりだったけど、それが伝聞に頼ったものなら今から普通に広めてもらってもいいんじゃね? あー、でも信じてもらえるかどうかが微妙?」

「いや、普通にありな手段だぞ、ケイさん。というか、なんで俺らはその手段を考慮から外してた!?」

「……それは一気に広める方法があると思ってたからだろうな。羅刹、30分後に交代でいいか?」

「あぁ、構わんぞ、北斗。それまでにフレンドコールが出来る相手には、可能な範囲で伝えておく。予め知っているかどうかで、万が一の時に流れ自体は変えられるかもしれん」

「あー、別に即効性がなくてもいいのか!」


 最善策は何もさせないように手段自体を潰す事だけど、今は信じてもらえなくても事前に聞いていたという事実があれば、その策が動いてしまった時に動きが変わってくる可能性は十分ある!


「桜花、もうやってそうだが、探る情報の追加だ。傭兵の協力者のプレイヤー名が分かれば、信憑性も増すだろう?」

「ま、そこは元から探ってるぜ! ただ、まぁ出てくるかどうかはあんまり期待すんなよ? ある意味、義理を通して伝えられる限度までで伝えてくれてる状況だしな」

「あぁ、そこは分かっている。下手に聞き過ぎれば伝手そのものを失いかねんから、可能であればで構わん」

「おうよ!」


 あー、なるほど。あくまで人と人との繋がりで情報を集めてるんだから、言える事にも限度があるか。言い過ぎれば、それこそどっちかへの縁がそこで切れる事にもなりかねない。

 そういう経路から、よく灰の群集の人がその手の情報を掴んだもんだよなー! 昨日の1件のまとめを修正しようとした人の中の1人って話だったし、元々そういう情報を集めてた状態だったのかもね。


「さて……ケイ、やるぞ」

「……ほいよっと」


 ウィルさんとの探り合いにはなるだろうけど、既に後手に回り過ぎているからなー。手遅れになる前に具体的な策を打たなければ危ない。むしろ後手に回ってる状況を盾に、ウィルさんから情報を引き出すのもありかも?

 ともかく、やるだけやれる事をやっていこう。一度は伝えた後は放置でもいいとか言ったけど、そういう状況でないのは確かだしな。という事で、ウィルさんにフレンドコール!


「かかってくる頃合いだと思ってたぜ、ケイさん」

「出るの早いな!? しかも待ち構えてた!?」

「そりゃ探ってるのを聞けばな?」

「あー、何を探ってるかも筒抜けかい! って事は、用件は分かってる?」

「ま、簡単に言えばそういう事だな。……本当なら伏せておきたかった情報だけど、こう明確にピンポイントで探られちゃ不信感を増すだけだしな。今回は腹の探り合いはなしで、知ってる事を伝えるぜ」

「やっぱり色々知ってたな!?」


 今のこの対応から考えて、裏で動いていたのがどういう集団なのかは分かってそうだな、これ!? となれば、俺らが動くまでもなく既に対策は用意してある……?


「……共闘を持ちかけたのは、過去の赤のサファリ同盟みたいに表に出てきてなかった集団が動き出したのを抑え込む状況を作る為って認識で構わない?」

「あぁ、その認識で問題ないぞ」

「その集団の中心にいるのが、赤の群集のプレイヤー集団って認識も間違ってないか?」

「今は無所属になっている状態だから、元赤の群集になるけどな。まぁ元が赤の群集にいた共同体なのは間違いない。……相当厄介なプレイヤー集団ではあるんだよ」


 ウィルさんから見ても厄介って評価になる、表に出てきてなかった共同体ってどんな集団だよ!? いや、今の状況を作り上げてる人達なら確かに相当厄介な相手なのは間違いないけども!

 あー、ウィルさん側から暴露したような形にしたのは、隠し切れない状況になったのもあるだろうけど……質問する内容を誘導して、情報の出し方をコントロールする気か? 


「厄介な相手だってのは、色々と仕掛けてきてる状況から分かるけどさ。……単刀直入に聞くけど、その集団の存在を把握したのはいつからだ? つい最近だとも思えないんだけど?」

「……ケイさんには教えとくか。今回動いているのは、赤のサファリ同盟と同様に表に出てきて欲しかった集団の1つだ」

「ちょ!? それってかなり前じゃん!?」


 まさかの赤のサファリ同盟が出てきた時の頃から!? そうなると……群集をまとめるだけの実力を持っていると、ウィルさんから見て判断出来る相手か!

 思った以上に早くから……いや、そういう存在がいると確信があったからこそ、ウィルさんのあの時の行動に繋がってくるんだな。いなくなった後に立て直せる人達がいると分かっていなければ、ああいう行動は出来ないはず。


「ただ、正確に把握したのは無所属になって色々と動いていた時だな。その頃も赤のサファリ同盟から分かれた集団だと思っていたんだが、赤の群集に戻った後に成り立ちから全く別の集団だって事がハッキリしたんだよ」

「それは……赤のサファリ同盟に聞いてか?」

「それもあるが、無所属の時の伝手も含めてだな。レナさんから後から聞かされたんだが、カガミモチが色々と仕組んでいたのを確定させる為にあちこちで探りを入れてた時に見つけた集団だそうだ。あの時にレナさんに色々と手を貸してくれていたらしい」

「そういう経緯!? というか、あの件に絡んでる集団なのかよ!?」


 てか、それならレナさんが知っている集団だって事か! レナさんは……あー、今はログインしてないんだった!? くっ、重要な情報が出てきたってのに!

 多分、レナさんは今回暗躍している集団とその集団が同一の存在だとは把握してない? もし把握しているのであれば、レナさんが隠している理由はないはず。いくらなんでも、レナさんがその集団側に味方してるなんて事は……ないよな?


「……まぁ具体的な事はレナさんから聞くとして、その集団が今回動いていると分かったのは?」

「正直に言おう。信じてもらえるかは分からんが、それが判明したのはついさっきだ。その集団……いや、共同体がゴッソリと赤の群集から抜けているのを確認して、それで完全に断定が出来た。おそらく探りを入れられたのに気付いて、隠してる意味がなくなったからだろうな」

「はい!?」


 そういう流れなら、確定出来たのは俺らが探りを入れたからって事!? それまでは……疑ってこそはいたけど、実際には断定出来てなかった? 


「だったら、なんで共闘を持ちかけたんだ? 対抗する為に巻き込んだんじゃ?」

「……対抗する為に巻き込んだか。まぁその認識も間違ってはいないし……理由としては、万が一の疑念があったからだ。黒の統率種に興味を持っていて、傭兵に来ていた何人かに接触していたという情報があってな。……群集所属のプレイヤーが無所属に移って動いている可能性は、その時点で考えていた」

「あー、その集団の正体を浮き彫りにする為に共闘を持ち掛けて揺さぶりをかけた感じ?」

「あぁ、流れとしてはそうなる。実際に出てきてみれば……一番相手にしたくなかった集団だったって事だ。しかも、他の集団も多く引き連れてな。聞いてるぜ、昨日の青の群集との総力戦の開始前にあった妨害工作の件。……まさか悪名が残ったままになってる連中をああいう風に取り込んでるとはな」

「……その辺も把握済みか」


 捨て駒として扱っているではなく、わざと取り込んでいるという言い方をしてるよな、ウィルさん。悪意を持って動いている訳ではないのは、ほぼ確定と考えて良さそうだ。

 少なくともあのカガミモチが色々と裏で画策していたのを暴くのに手を貸してくれていた集団なら、悪意を持って動きはしないはず。ある意味では、それこそが悪意を元に動いていないという動かぬ証拠でもあるか。


「えーと、その集団って名前は何かないのか? 今は無所属に移ってるとしても……というか、競争クエスト中でも普通に抜けれるんだな!?」

「あー、抜けるだけ、入るだけなら制限はないぞ。抜けた後に再度入るのや、入った後に再度抜けるのには制限がかかるけどな。あくまで中心となる集団だけだが、共同体としての名前は分かっている。実態はそれよりも大きな集団になりそうだが……」

「呼び方に悩んでるとこだから、もうその共同体が中心になってるならそれで呼ぶ形にしよう!」


 正直、無所属勢と呼ぶのは不適切だと思ってた。だからといって適切な呼び方も思い付かなくて、どう呼んだものかは困ってたもんな。それが今の全体像を示すものでなくとも、中心にいる集団の元の共同体名なら呼び名として不適切にもならないだろ。


「それもそうだな。その共同体は『インクアイリー』……どういう意味として名付けたのかを聞いてみた事はあるが『探求』だそうだ」

「その共同体名で、明確な目的が分かったよ! 完全に黒の統率種に占拠させるとどうなるかを調べるのが目的か!」


 推測していた範囲の内容にはなるけど、ここまで明確に動機が分かるとも思ってなかったわ! 表では活動しない検証勢の集団っぽいな、これ!

 うーん、『インクアイリー』って共同体は赤のサファリ同盟が動いた事で単純に表に出そびれただけな気もする? あー、情報を教えろって騒ぎまくった結果、調べられる人達が固まってしまって内向きで動き始めてしまった可能性もありそうだな。


 ただ、今回の競争クエストで群集に所属したままでは検証のしようがない内容が出てきたから、それを検証する為に大々的に動いてきた感じか。……そうなると、外には出ていない特有の情報を持っている可能性もある?

 なるほど、騒動を起こした連中を取り込んだ手法はそこら辺にあるのかも。貴重な情報をくれてやるから、新しいサーバーが出来たら戻ってくるなっていうのはありそうだ。それだけの優位性は保てる情報を持っていてもおかしくはない。


「ケイさん、黙り込んでどうした?」

「あー、いや、問題連中をどうやって取り込んだかを考えてたとこ。……戻ってこない事を条件に、情報提供でも確約したか?」

「主導権を狙っていたけど握り損ねた連中は、そういう情報は欲しがるだろうな。まぁそれだけで上手くいく訳でもないが……」

「それが分かってたら、そもそも主導権を握り損ねる事もないか……」

「少なくとも、味方と対立したまま居続ける意味はない事には気付けるはずだからな」

「そりゃそうだ……」


 主導権を握れなかったのは、単純に情報を持っていなかったからではないだろうしね。大事なのは味方と協力していく事なんだし、内輪揉めをして負けたのを根に持ってるんじゃどうにもならないっての。

 時にはこうして敵対中の相手とだって交渉をしなきゃいけない状況だってある訳で……って、よく考えたら本題からズレていってる!? 裏で動いていた集団の正体がはっきりと分かったのはいいけど、その『インクアイリー』が仕掛けてようとしている共闘への妨害工作をなんとかしないと!?

 

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