第1234話 対策手段は……?


 色々と推測を重ねて、みんなに意見を聞きつつ、情報を探っていった結果としては……今回の裏にいる相手が悪意によるものではない可能性はかなり高まってきた。

 高まってきたけど、これに対する有効な手段って何もない気がするんだけど!? もし対抗手段を用意しても、周知しようとした段階でそれはほぼ確実に全て筒抜けになる。……打つ手があるのか、これ!?


 うーん、ここまでの情報をまとめると群集の内部から撹乱を狙いつつ、黒の統率種でのクエストを進めようとしている、一時的に無所属として動いている集団の可能性が高いんだよな。

 それも、おそらくはちゃんと暴走しないような形で各群集で居場所を無くした人達も抱え込んだ上で……。伝言の『どこまでが悪意の捨て駒』って部分は、その連中をどう扱ってるかだろうね。


「ふむ、随分と面白い流れになってきたもんだが……羅刹、どう思う? 正直、傭兵の旨味が薄れてきてるように思うが?」

「確かにそれはあるが……北斗、寝返る気か?」

「別に俺がそうしようって訳じゃねぇよ。その気なら、わざわざこんな所で言わねぇよ。権利の剥奪はされたくねぇしな」

「……まぁそりゃそうだろうね」


 わざわざ目の前で寝返ります宣言をされたら、それこそ堂々と権利の剥奪も可能だろうしさ。北斗さんの意図としては別のところにあるはずだし、その辺を確認していこうか。

 

「北斗さん的には、他の傭兵の人達がどう動くと思う?」

「……そうだな。赤の群集の傭兵になった奴らは、寝返る可能性が高いんじゃねぇか? 既に2つの新エリアは勝ち取ってるし、もう目的は達成してるようなもんだしな。ぎゃくに青の群集の傭兵になった奴らは、思ったほどの成果がなくて鬱憤が溜まって離反はあり得ると思うぜ?」

「あー、なるほど。理由は違っても、もう傭兵でいる旨味は少ないんだな……」

「俺の方から補足しとくぞ。そもそも、あの共闘の話は群集をまとめているプレイヤー達の間での取り決めだ。……一応は群集の指揮下に入ってる傭兵の俺らだが、その取り決めを守らなければならない理由にはならん」

「……まぁあれって、群集内の人の行動も制限出来るものじゃないからなー」


 羅刹の言うように、あくまで共闘は一部のプレイヤー間で取り決めた内容でしかない。それを壊させようとする動きがあっても強制的に止める権限はないし、無所属の傭兵の人達をそれで縛る事は出来ない。

 北斗さんは寝返るって言い方をしてたけど、実際は寝返ってはいないんだよな。明確に味方の群集の邪魔をしたり、情報の流出をさせたり、掻き乱すような事さえしなければ……。


 だからこそ、既に旨味が薄くなった無所属の傭兵の人達は黒の統率種が占拠する事を、共闘は拒むという形で手伝う可能性がある。そして、それを理由にしての傭兵の権利の剥奪は不可能か……。


「ケイさん、これはここだけの話にしといた方がよくねぇか? 変に情報を広めたところで、メリットがあるとも思えねぇぜ?」

「あー、下手に広めたら、そっちの方が変な状況を作りかねないもんな……」


 紅焔さんの指摘は尤もか。それこそ、俺らが共闘が成立しなくなるような状況を作る事になる。他の群集と協議をしてきた俺らがそれをするのは……流石に不味い。

 ほぼ聞くのに徹していた他の人達も、ちょっと俺が黙り込んでしまったらざわめき始めてしまった。……ふぅ、桜花さんが大丈夫だと判断している人達ばかりだけになってる時でよかったよ。


「みんな、ちょっと時間をくれ。考えをまとめるから」

「おう。お前ら、ケイさんの判断に合わせて動くからな! 今はまだ、下手に外に情報は出すなよ?」

「当たり前だっての!」

「ここまでの内容的に、思った以上に厄介な相手なのは間違いないしな。下手な手は打てないか」

「個別に勝手に動くのは、逆効果になりかねんな」

「ここはコケの人に任せるぜ!」


 桜花さんがこの場に集まっている一部の人がそう言ってくれてるし、それに納得するような声が次々と返ってきてもいる。信用されてるからこそ、下手な事も出来ないな。


「ケイ、あんまり時間はないから急いでかな?」

「あー、もうすぐ18時か。そこは了解っと」


 サヤとヨッシさんにはアルに伝える為にも確実に把握しておいてもらいたいし、18時までにはとりあえずの結論は出してしまわないと……。

 おし、立場を変えて考えてみよう。俺が全ての群集相手を敵に回してクエスト攻略の為に勝たなければいけない場合、1番されたくない事はなんだ? そして、その為に打つ手はなんだ?


 そういう視点で考えるべきは、戦力差……いや、人数差か? 黒の統率種を何人か用意して黒の暴走種を従えれば戦力自体は増やせられそうだけど、その規模がどの程度まで可能なのかは分からない。

 そう考えてみたら、崩してしまいたいのは群集内部の連携? いや、それもあるだろうけど、今の状況的には共闘される事こそ潰してしまいたい状況か。だから、共闘が成立しないように動いている? ……それは間違いなくあるだろうけど、何か足りてない気がする。


 もう少し人数差について深掘りしてみるか。仮にここを黒の統率種1人で10倍の戦力を扱えると仮定したとしても、黒の統率種になれば喋れなくなるというデメリットが存在する。いや、デメリットなのか、これ?

 スキルの発声での発動はあくまで誤動作の防止が目的であって、声が出ないというのはスキルの発動内容を相手に伝えないというメリットにもなり得る。思考操作でのスキル発動が標準になると考えたら、地味に厄介な部分か。


 でも黒の統率種同士の意思疎通は難しいだろうから、少なくとも誰かが指示を出す為に声が出せるような状況の人がいなければならないよな? でも、それは明確に目立つ行動になる。それは即ち、競争クエストでは狙ってくれと言ってるようなもの。

 人数が多かったり、全群集に知られてる人ならそういう囮の役目も果たせるだろうけど、それは条件的に厳しいはず。


 俺ならそこをなんとか誤魔化したいけど、無所属から一方通行にしかならない指示を出すのはどう考えても目立つ。指示を出すとしても戦闘中に標的が自分に向かない、せめて向きにくい手段は……あ、そういう事か! ここまで考えて、昨日の件は仕込みか!?


「くっそ、こうなると今の俺の推測は、近い内に意図的に広めてくる可能性があるぞ……」

「ケイさん、それってどういう事ですか!?」


 ハーレさんが明確に反応してきているし、他のみんなもまたざわめき出している。まぁ今のだけを伝えると、そりゃ混乱するよなー。ちゃんとその辺は説明しないとな。


「結論から言うぞ! 最大の狙いは共闘の無効化の可能性が高い。まぁこれ自体は単純に分かる話だけど、多分だけど相手の指示出し役は群集の中に紛れてる!」

「……何?」

「ほう、そりゃ面白い推測だな?」

「ケイさん、それはどういう意味だよ? 内部から足を引っ張るって事か?」

「あー、紅焔さんのその解釈はちょっと違う。同じ群集に対して何かするんじゃなくて、交戦状態にある状況で黒の統率種の人を味方に加える形で指示を出すんだよ。それこそ単純に『今は赤の群集を狙うぞー!』とか『今は戦わないで機会を伺おう』とか、そういう風に行動を誘導するんだよ。そういう形で群集同士で消耗させるのが狙い。俺なら、戦力差を覆す為にそうする」

「なるほど、戦況の誘導が狙いって事か! でも、それの最大の障害は共闘になるんだな!?」

「そういう事! だから、強引な手を使ったとしてもぶっ潰したいのは共闘そのもののはず!」


 悪意を持った者達の仕業に思わせるのは、本命の動きがそれとはかけ離れているから。群集内で仲間割れを誘発して、疑心暗鬼の状況を作り出そうとするにはあっさりと見分けられ過ぎる相手を使い過ぎている。

 どこまでが捨て駒かという伝言は、多分本命が上手くいかない可能性を考えての安全策。群集内で内輪揉めが発生すれば統率が乱れて儲けものだし、そうならなければ結束した上で群集同士を潰し合いさせられる。……共闘さえ成立しなくなれば。


 なるほど、ここまで来て分かった。捨て駒なのは、状況を覆すキッカケにする各群集の傭兵達なのか。明確な味方である必要はない、ただ共闘の状況を崩す為だけの駒としてか……。


「その手段は普段からよく交流がある人以外だったら判別が出来ないのさー!?」

「……だからこそ、戦力差を埋めるのに有効な手段になるかな?」

「そうなるよね。でも、意図的に広めてくるってのはなんで?」

「さっき北斗さんが言ってた内容に繋がるけど、傭兵を寝返らせる為だな。もっと言うなら、それをキッカケにして共闘をぶち壊す為。ほら、少しでも実例があれば『赤の群集の傭兵は共闘を無視するのに、守る必要なんてないだろ!』とか言えば、すぐに瓦解出来るぞ。律儀に自分達だけが守ってたら、倒されるだけだからなー」

「あ、確かにそうかも」

「……ヤバいのは、それを止める手段が一切無いって事だ。多分、競争クエストの開始の少し前くらいで、選択する時間が残ってないタイミングで情報をばら撒いてくるぞ」

「わー!? それって大混乱になりそうなのです!?」

「……なるだろうなー」


 というか、そこで混乱させる事こそが相手の狙いっぽいしなー。もう桜花さんの伝手からあの伝言を受け取った時点で、悪意を持って動いている可能性は排除してもいいだろう。……むしろ、悪意で動いてる方がシンプルで対処しやすかったかもしれないのが複雑な心境だけどな!


「それでケイさん、どうすんだ? 黙ってそのまましてやられるのか?」

「すまん、北斗さん。正直、打つ手が見つからない……。他の群集の傭兵が寝返るのを抑えられたら違うんだろうけど、その手段がな……」


 自分達の群集に味方してくれている傭兵の人達が相手なら、今からなら説得という手段も取れる。だけど、灰の群集と戦いたいって理由で赤の群集や青の群集の傭兵になってる人を、灰の群集所属の俺がどうにか出来る言葉は……どこにもない。


「……確かに、灰の群集じゃ抑えられないだろうな。だが、俺らなら話が違ってくるぜ? なぁ、北斗」

「羅刹? 一体何をする気――」

「今、傭兵として動いてる連中は俺らも含めて戦うのは好きだが、従うだけの相応の理由があるか、単純に認めた相手から以外の指示は受けたくねぇって奴らが多い。そうでない奴はそもそも参戦してないか、イブキみたいに勝手に動いているからな。直前過ぎたら流石にどうしようもねぇが、今なら多分まだ間に合うぜ」

「……はい?」

「あぁ、そういう事か。相応の理由なら、今から与えられるな」

「ちょい待った。羅刹も北斗さんも、何を言ってるんだ……?」


 今の内容的に、その相応の理由が『灰の群集と戦いたい』って内容だからこそどうしようも出来ないって話なんだけど……それを別の物に置き換えるのか? そんな都合のいい内容なんて……って、もう1つの方の理由か!?


「あー、羅刹さん、北斗さん、それって要はこれらの推測を暴露して『お前ら、良いように使われそうになってるけど、そのまま作戦に乗せられて寝返って利用されてろ!』って感じで煽ろうって話?」

「正解だぜ、紅焔さん。灰の群集……特にまとめてる側の奴がやると問題があるだろうが、同じ立場の傭兵の俺や北斗に言われたら、黙ってられると思うか?」

「思わん! むしろ、寝返るのと利用されるのがセットになるから、その作戦に自分達を利用しようとした相手に攻撃が向くよなー!」

「同じ立場だからこそ言える事だろうけど、羅刹さんと北斗さんを敵視してくる可能性は大丈夫かな?」

「……そんなもん、無所属じゃ日常茶飯事みたいなもんだ」

「俺はそうでもないが、羅刹は一部からは猛烈に敵視されてるからな。尚の事、効果は出るだろうよ」

「……あはは、その理由は気になるけど今は触れない方が良さそうかな」


 羅刹と北斗さんの2人が同じ立場だからこそ、利用されて寝返る事を煽る事が出来る存在になるのか。なるほど、これは俺じゃどうにもならない手段だよ。ただ、この2人に頼るだけでは少し厳しい部分もあるね。


「羅刹、北斗さん、その煽る役目は頼めるか?」

「まぁそれ自体は俺が言い出したからにはやるつもりだが……問題がない訳でもなくてな?」

「他の群集にどうやって伝えるか……だよな? やるとしたら昨日みたいに中継を使って……あー、他の群集に伝手のある傭兵の人っていたりしない? 中継をする不動種の人の方は、こっちでなんとか話はつけてみるからさ」


 赤の群集ならフラムを巻き込んでしまえばいいし、青の群集にはジェイさんに話を通して不動種の人を探してもらえばどうにかなるはず。問題は上手く羅刹や北斗さんに匹敵するくらいの傭兵の人が――


「いや、ケイさん。その必要はないぜ?」

「……桜花さん?」

「独自の伝手ってのは、何も今回暗躍してる連中の専売じゃねぇんだよ。そもそも、ケイさんの推測なら情報をばら撒く準備はしてるはずだ。そのどこかに俺の伝手でなんとか割り込んで、少しそれを早めさせる。それが広がるのを確認出来たら、その段階で煽るってのでどうだ?」

「それが出来るなら効果的だろうけど……出来るのか?」

「直接戦力としての貢献は出来ない分、こういう所で活躍させてくれや。総力戦前の前哨としての情報戦、意地でも出し抜いてやろうじゃねぇか!」

「おし! それならこの件は、桜花さんと羅刹と北斗さんに任せた!」

「おう、任されたぜ! さーて、とりあえず伝手から関係してそうな相手を洗い出していくか!」

「2日続けて、こういう役目か」

「まぁいいじゃねぇか、北斗。……考えようによっては、昨日の段階から俺らもその連中に動かされてた可能性もあるんだからよ?」

「はっ、確かにそりゃ違いねぇ。だったら、全力でやり返すしかねぇな!」


 あ、そっか。昨日の後始末が必要になったのも、その時に発生してた難癖みたいなのも、共闘を壊す為の作戦の一環の可能性はあるもんな。確かに思い通りに動かされてる状況は面白くはないし、やり返したくもなるもんか!

 問題は……この推測が完全に的外れだった場合だな。その可能性はここまで来ると限りなく低いとは思うけど……。

 

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