第1233話 手掛かりを探って


 俺の推測から、浮上してきた全く違う黒幕の正体像。とりあえず桜花さんの伝手から探りを入れてもらう事になり、既に探りを入れる為にフレンドコールをかけ始めている。

 競争クエストの最後の1戦は21時からだし、もう時間的な猶予はそれほどない。……晩飯を食った後、すぐに動き出さないといけないだろうしなー。


「さて、これでどういう反応があるのやら……」

「ケイさん、探ってるのに勘付かれて対応される危険性はあるんじゃねぇか?」

「その可能性もあるんだよなー。もっと早い段階で、動き出せれば良かったんだけど……」


 それは紅焔さんの言う通り。でも、正体も何も実態が明確に出てきたのは、昨日の青の群集との競争クエストの開始の合図係の入れ替わりからだしな。

 そもそもまだ推測の域は出ていないし、あの時のスライムみたいに悪意だけを理由に動いてる可能性だって否定は出来ない。むしろ、何らかの対応で反応が出てきた方が正体を見極めやすいかも?


 あー、ベスタに連絡してその辺の意見を聞いて……って、ログインしてねー!? くっ、流石にいつでもログインしてる訳じゃないか。顔の広いレナさんもログインしていないみたいだし……あー、もう18時が近いもんな。

 早めに晩飯を済ませて、気兼ねなく動けるようにしてるのかも。なんだかんだでログインしてない知り合いの人が多いしなー。


「少し疑問なんだけど、これって群集に対して悪意はないのが前提になるんだよね?」

「ん? まぁそうなるけど……ソラさん的には何が気になった?」

「わざわざ偽装をする為に、反発を招く人を使うかい? 不要な情報漏洩のリスクを負うことになるし、それこそ独自のネットワークがあるなら他のやり方もありそうだけど……」

「あー、なるほど……」


 確かに言われてみれば、それはそうだ。知ってる人が見れば、一目で過去に騒動を起こした人だと分かる状況だったもんな。本当に反発して混乱を狙うなら、それこそ表に出ていない人達が動いた方が真実らしさは出てくるはず。


「……初めから、その手の問題連中を一掃するのが狙いだったとか?」


 でも、最近その手の騒動は聞いてないような気もする。あー、俺が知らないだけであちこちで発生してた可能性自体はあるような?


「ケイさん、それは考えにくいぜ? 確かに不満を持ってる奴らが燻ってたのはあったが、運営が処罰に動くほどの事は最近は起きていないからな。まぁ今回の捨て駒にする為に、大人しくしておくように言い包められてた可能性もあるが……」

「僕としては、そこも不思議なんだよ。彼ら、本当に捨て駒かい?」

「……はい?」

「何言ってんだ、ソラ?」

「何もなにも、そのままの意味だよ。どうも大人しく引き上げ過ぎてて、不自然さを感じてたんだけど……」

「いやいや、あの中で騒ぎ続けるのってどういう度胸――」

「その割には、あの後にも何度か騒動が起きたじゃないかい? ベスタさんに『捨て駒』だと言われてたのに、その情報共有もしていないほどの連携の取れてない集団は捨て駒として使える? 違和感がすごいんだけど?」

「……そう言われるとそうだな?」


 ふむふむ、確かにその動きは不自然と言われればそうかもしれない。元々、まともに連携が取れていなかった集団だからと切り捨ててもいい気がしてしまうけど、裏に捨て駒として扱おうとしている集団がいるのなら話は違うか。

 不要なリスクを負う事になるし、ソラさんの違和感を元にして捨て駒じゃないとして仮定して考えるとどうなる? その場合であり得るのは……げっ、これって嫌な可能性!?


「あの連中の役割って、『捨て駒』じゃなくて『囮』か! しかも、そうだと承知した上で、過去の問題行動そのものを利用したやつ!?」


 パッと思い付いた可能性はこれくらいだけど、もしこれが狙いだとすると相当厄介な状況なのは間違いない。これなら、あの癖のありそうな集団をまとめ上げる方法も思いつく。


「あぁ、それならしっくりくるね。そうなると……誘い文句は『悪名を利用して全ての群集を出し抜く気はないか』くらいかい?」

「まぁ内容としてはそんなとこだろうな」

「ソラ、ケイさん、それなら今って見事に敵の手の平の上で転がされてねぇか!?」

「……そうなるなー」


 推測に推測を重ねている状況ではあるけど、推測する方向性を誘導するという作戦に見事にハマっている状況にはなるか。捨て駒だと決めつけて考えていると、それこそ手痛い目に遭いそうな予感がする。

 でもベスタは何で……って、これを見越してワザと『捨て駒』って言い放った!? ベスタが全く他の可能性を考えてないとも思えないし、それはありそうなんだけど!


「……悪名を逆に利用するか。ウィルが最初にやろうとした事と似たような手法だな、羅刹」

「そうなるんだろうが、そういう手法を使ってくるか」


 あー、よく考えたら確かにウィルさんが汚名を全て被って、俺とベスタに倒される事で騒動を収拾させようとした方法ではある。既に存在してる印象を強調するように動いて本命を隠す……か。


「ケイ、こうなってくると具体的にどうするのかな? 仮にこの推測通りだとして……対抗手段って何かあるのかな?」

「……対策か」


 それを考えない訳にもいかないけど、この状況で取れる対策って何がある? いくら可能性を積み重ねても、あくまで推測は推測。それに悪意を持って動いている可能性の方も、決して否定が出来ている訳じゃない。

 悪意の動機の場合だと、根本的に理屈が通じる相手でもないからなー。結果的に策っぽく思えるような形になってるだけで、ただの意思疎通もまともに出来てない状況という可能性もあり得る。……こっちを明確に否定する要素もないんだよな。


「心構えの問題だけで、ぶっちゃけ確定情報がない限りは具体的な対策って無理じゃね?」

「……僕も紅焔に同意だね。ただ、ケイさんの推測の方なら最後の競争クエストが始まれば、もう変に群集への手出しは無くなるんじゃないかい?」

「暴れる意味が無くなるから、多分そのはず?」


 あくまで偽装での撹乱が目的なのだとすれば、その対象は競争クエストの参加者の範囲でいい。逆に言えば、無所属だけが敵だとは限らない点は変わらずか。

 ん? ちょっと待てよ。警戒すべき相手が群集の中にいる可能性はどっちでも変わらずだけど、昨日の1戦での妨害の精査するとか言ってたのは結果はどうなったんだ?


「あー、昨日の青の群集との総力戦での妨害行為の精査の結果を知ってる人ってこの場にいない? 俺ら、昨日はすぐにログアウトしちゃったからさ」

「それなら、まとめの方に情報は上がってるぜ。……ただまぁ、信用度は全然ない内容になってるけどな」

「ん? 紅焔さん、どういう意味?」

「見てみりゃ分かるって。群集所属の人なら誰でも編集が出来るってのが仇になってるぜ?」

「……ちょっと確認してくる」

「おう!」


 その手の情報はベスタや灰のサファリ同盟やオオカミ組や他の有名どころの人達がまとめてくれたのかと思ったけど、そうでもなかった? まぁいいや、百聞は一見にしかずだな。とりあえず実際に見てみよう。


 えーと、新着の方に『青の群集との総力戦における妨害行為と思われる件について』って項目があるね。これを選んで開いてみてよう。おぉ、1番怪しい行動ってのが出てきて……って、おいこら!?


「俺の閃光が妨害行為の1番上に載ってるのってどういう事だよ!?」

「えぇ!? そういう内容になってるの!?」

「あ、本当にそう書かれてるかな……」

「ケイさん……というか、私達『グリーズ・リベルテ』が例の集団に繋がってる可能性があるって、無茶苦茶な事が書いてあるね」

「あー!? 『飛翔連隊』や『モンスターズ・サバイバル』や『オオカミ組』の名前も挙げられてるのさー!? 有名どころが大体あるのです!」

「ここで『灰のサファリ同盟』だけ避けられてるのが嫌らしいな!?」


 予想以上に無茶苦茶な内容になってるな、これ……。悪意が見え隠れしてるし、こんな形でまとめ機能が使われるとは思ってなかったぞ!? てか、編集が何度も繰り返されて、悪意のある編集者が誰なのか分からん!

 何人か知ってる名前の人が編集してるけど、それこそ名前が出てきている共同体の人だから『都合の悪い事を隠そうとしている』って情報提供の匿名欄の方で逆に利用されてるっぽい。

 

「ほらな? 信頼性も何もあったもんじゃないだろ?」

「予想外の方向から来たけど、これはどうしようもないな……」


 灰の群集に所属している人なら誰にでも編集が出来るからこそ、可能な手段か。群集内部の撹乱を狙ってるのは、今でも継続中って事になる? 


「少なくとも灰の群集の内部に、場外乱闘を仕掛けてきてる人がいるのは間違いないのです!」

「問題は……本当の悪意か、悪意に偽装した作戦か、どっちなのかかな?」

「これを見極めるのは、正直無理じゃない? もうやってる張本人に聞くしかないよね?」

「……だよなぁ」


 ハーレさんが言ってるように、灰の群集の内部に協力者がいるのは確定。ただ、それがどういう人達なのかが全然分からない。

 これはいったんに通報すれば、運営側から対処してもらえるのか? いや、でも正しい情報以外はまとめに書き込むなって制約はないし、仮に運営から注意を受けても、情報戦を仕掛けてるって言われたらどうなる? あらぬ疑惑はかけられてるけど、誹謗中傷にはならない範囲に留めてるよな、これ。


「……ん? 悪意がある割には、文章が大人しくないか? 俺の件は、閃光で盲目にされたって事実を書かれてるだけだし……」

「そうなんだよなー。俺ら『飛翔連隊』も、戦闘の余波で巻き込んだ事実しか書かれてねぇんだよ……」

「げっ、マジか!?」


 そうなると、他の共同体も何らかの形で誰かを巻き込んだ内容として書き込まれてる? ……悪意というより、具体的な計画性があるように見えてき始めた気がするぞ。

 あー、ここに名前が出ている共同体の人達に確認を取っていくか? いや、流石にそこまでしても時間が無駄にかかるだけだな。この内容を鵜呑みにされる事は今までの実績から無いとは思うけど……そんなのは仕掛けてきてる方も承知のはず。


「聞いてる限りだと事実だけを元にして運営からの対処をされないようにしてねぇか? 大胆な撹乱を仕掛けてくる割には、随分と慎重な印象があるんだが……」

「多分、羅刹のその認識で正解だと思うけど……」


 それでもあくまで俺らの印象の問題なんだよな。BANされたら意味がないから、そうならない程度に抑えて……抑えられるのか、騒動を起こす連中が?

 だー! 計画的に悪意を偽装してるのか、本格的に悪意を抑え込んだ上で操ってるのか、どっちだよ! こう色々と仕掛けてきてると、悩ませる事自体が罠な気がしてくるんだけど!?


「……なるほど、了解だ。情報ありがとな。ケイさん、重要な情報が出てきたぞ!」

「どういう内容だ、桜花さん!?」

「どこまで内容を信じていいかは別として、作戦への勧誘と共に探りを入れてきた人への伝言ってのが回ってきてたそうだ」

「そんなのあるのかよ!? 伝言ってどんな!?」

「……怒るなよ? 『ここまで探りを入れられた方へ問題です。どこまでが悪意の捨て駒としての利用で、どこからが作戦の内でしょうか?』だとよ」

「今の状況が、敵の罠の1つなのがよく分かったよ!」


 くっそ、完全に探りを入れてくるのを想定してきてるじゃん、この状況!? 悪意のみで考えてた方が、変に惑わされる事もなかった気がする……。


「あー、それとだ。さっき言ってた表に出てない共同体のいくつかが、灰の群集を抜けてるのは……聞いた奴が嘘を吐いていなければ確定みたいだぜ」

「……勧誘って言ってたし、いくつかの共同体が裏で動いてると考えてよさそうだなー。てか、探ってくる相手に対して伝言を残してる時点で、そこを騙しても仕方ない気がする……」

「随分と厄介そうな状況になってきたのさー!?」


 悪意からの行動以外の動機を想定した上で、探りを入れてくる人が出てくるのは想定済みの相手か。しかもわざわざ挑発的な伝言も含めて、予め用意をしていたと……。

 あー、こりゃ予想の遥かに上を行く厄介な集団が相手なのかも。……それこそ、表に出てきていなかった時の赤のサファリ同盟に匹敵する可能性もあるんじゃないか?


「……この状況で共闘って大丈夫なのかな?」

「サヤ、それってどういう意味ですか!?」

「まとめの編集がされてるって事は、今もその集団の味方になっている灰の群集の人が所属してるって事だから……それこそ、他の群集との共闘の時に背後からって可能性もあるんじゃないかな?」

「それで共闘の取り決め自体を壊して、共闘させないようにしてるのかも?」

「はっ!? そういう事ですか!?」

「……あー、確かにあり得るかも」


 これだけ用意周到な事をしてくる相手なら、その作戦は使ってくる可能性が高い。とはいえ、これから共闘は無しにしますって勝手に決める訳にもいかないし、むしろ相手の作戦が共闘を潰す事にあるならそれ自体が下策だ。


「そうなると……まとめ機能での行動は嫌がらせ目的じゃなくて、群集の中にも敵がいると目立たせるのが目的か!?」


 そう考えるとこれまでの行動とも繋がってくる。俺が同じような作戦を仕掛けるなら、悪名で目立ってる人を先に更に目立たせて警戒させて、ここから先はノーマークな人で、流れ弾に見せかけて共闘をぶち壊しに動かしていく。

 あー、だから俺らが少なからず巻き添えを出してしまった行動をまとめに書いてるのか。その実行者がただ巻き添えにしてしまったミスだと強調出来るように、有名どころの前例を目立たせてるのかも。


 何がどこまでが悪意の捨て駒だよ。これ、どこまでも計画的な撹乱と共闘の妨害作戦じゃん。

 いくら仕込みをしたとしても人数差がどうしても発生するから、意地でも共闘は崩してしまいたいのかもなー。ふむ、そうなるとどう対処していくのが正解だ?


 

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