第35章 全ての勢力での競争クエスト

第1228話 夏休みに向けて


 今日の面倒な授業も終わり、後は帰るだけ……でもなかったな。母さんから買い出しを頼むメッセージは来てないけど、今日は俺の理由でスーパーに行く理由がある。

 あー、事前の面接の申し込みをしてないんだよなー。まぁ直接行ってみて、まだアルバイトの募集してるかどうかを確認しようっと。この辺は知り合いが多いからこそ出来る事だな。


「あー、教室から出たくねぇ……。暑い中、自転車を漕ぎたくねぇ……」

「はいはい、勝手にそのままうつ伏せになって明日の朝までそこにいろ」

「嫌に決まってんだろ、そんなの!? せめて日が落ちたらまでに……そうか! それまで圭吾の家に――」

「それは絶対にお断りだから」

「返答が早ぇよ!?」

「なんでお前を居座らせなきゃならん!」


 てか、日が落ちるまでってこの時期に何時までいる気だよ! 邪魔にしかならんやつを、俺の家に連れて行く気はない! そもそもこの後は用事があるし、教室を出てまず下駄箱までさっさと行こう。


「というか、用事があるからさっさと帰る」

「あ、待てって! 用事って、ちょいちょいある買い出し?」

「……まぁそんなもん」

「何その微妙な間は!?」

「あー、説明が面倒くさい……」


 今日の段階では、まだ募集をしてるか確認するだけだしなー。まぁ暑いからアイスでも買って帰る気ではあるけど、こいつに夏休みにアルバイトをするつもりだって言ってもなぁ……。


「おし! 暑いし、俺もアイスでも買って帰るかー!」

「……そんな金、あんの?」

「今回はある!」

「なんで!?」

「いやいや、圭吾、驚き過ぎだろ!」


 金遣いの荒いこいつが、まともに金を持っているとか……そんなのは小遣いをもらった直後くらいなものじゃん!? それこそアルバイトでも……あ、そういえばこの土日は水月さんの伝手で働かされてたのか。

 あー、プレイチケットは3000円だし、まともに2日間、昼間にログイン出来ないくらいに真面目に働いたなら合計金額が3000円な訳もないか。働いた分だけ、余裕を持って――


「あと1000円は残ってるからな、土日で頑張った分は!」

「……何をやってたか知らないけど、金額が少な過ぎねぇ?」

「プレイチケット、買えるだけまとめ買いしといたからな!」

「あー、そういう……」


 数ヶ月分をまとめて払う事は出来るけど、割引がある訳じゃないから得もないんだけど……まぁ、毎月払うのが面倒な人はそうやって一気に払ったりするもんな。

 慎也の場合だと金は持ってる分だけ無駄遣いするから、その方が効果的なのかもしれない。自分で考えたとは思えないから、水月さんが吹き込んだ手段か。……毎月、プレイチケット代が足りないと泣きつかれるのを避けようとしてる気がする。


「で、結局圭吾は何しに行くんだ?」

「んー、とりあえずはちょっとした確認。駄目なら駄目で、1から探さないといけないしなー」

「なんか探しもんか? ちょっとくらいなら手伝うぜ?」

「それは遠慮しとく」

「即答って、なんでだよ!?」


 そんな事を話してる間に下駄箱に到着。慎也はここで自転車を取りに行くから、このまま放置のチャンス! その間に走って……走りたくないな、この暑さの中……。


「あっ、佐山くんと吉崎くんはもう帰るんだね?」

「おっす、相沢さん! 俺と圭吾はちょっとそこのスーパーまでアイスを買いに――」

「おいこら、いつ一緒に行くと言った!? って、相沢さんももう帰るのか? eスポーツ部は?」

「あ、私、ちょっとアルバイトの面接があってね。それが終わってから、部活の方に行く予定だよ。丁度、目的地が一緒みたいだし、一緒にどう?」

「おう、別にいいぜ!」

「……はぁ、勝手にしてくれ」


 どうせここで慎也を振り切ったとしても、自転車相手には簡単に追いつかれる。金が無ければ着いてこない方が多いからって、下手に目的地を喋った事が失敗だった。

 って、あれ? 相沢さんは、あのスーパーでアルバイトの面接? ……そういえばアルバイトの募集のデータを読み取った時に遭遇したんだし、そういう事か!?


「あー、なんか行くだけ無駄な気がしてきた」

「なんで項垂れてんの、圭吾? おし、とりあえず自転車を取ってくる!」


 多分、相沢さんが例のアルバイトの面接なんだろうなー。このまま放置して、家に帰って他のを探すか?

 あー、でもそもそも何人までって記載もなかったっけ。作ったばっかの部活に参加しないって事はないだろうから部活をしながらだろうし、場合によってはその合間時間を埋める形での募集はあり得るかも? ダメ元で聞いてみるのもありか。


「ねぇ、吉崎くん、色々と見てて思ったんだけど佐山くんとは仲がいいの? それとも悪いの?」

「……あー、最初は普通に仲良くなりかけたけど、なんか途中からは変な腐れ縁みたいなよく分からん状況……。余計な事をしまくるからな、あいつ……」

「……あはは、そうなんだ。そういえば、吉崎くんって自転車通学じゃないの?」

「徒歩圏内なんだよ、俺の家。そういう相沢さんは?」

「私も家は近い方ではあるけど、自転車だね。でもスーパーまで距離的に、歩いてもいいかなーって? それに吉崎くんに合わせるなら、持ってくるだけ無駄でしょ?」

「……なるほどなー」


 理に適ってる事ではあるけど、それなら1人でササッとアルバイト面接に向かってしまえばいいだけでは? 何時からって指定はあるだろうけど、極端にズレ込まない限りはあそこの店長さんは気にしないしなー。

 というか、一緒に移動したとしてもあんまり意味がある事でもない気がする。……そもそも、まだそこまで親しくなった覚えもないし。


「それで……一緒に移動する間に、何の話をしようと思ってる?」

「ありゃ? 流石にバレてた?」

「部活の勧誘をしようもんなら、このまますぐに顧問の――」

「待って! そうじゃないから、それは本当に待って!」


 必死な様子で声を張り上げて止めてきた。あー、これは本当に違うっぽいけど……下駄箱でその音量はやめてくれー。俺と同じ帰宅部の人達の目線が突き刺さる!


「……分かったから、少しボリュームダウンで。思いっきり目立ってるから」

「あ、ごめん……」


 とりあえず何事もなかったかのように、変に集まった注目は散っていった。ふぅ、これで一安心っと。でも、部活関係じゃないなら俺らと一緒に来ようとする理由って何だ? あー、俺に用事とも限らないのか。


「慎也になら、いくらでも勧誘してくれて問題ないぞ?」

「あはは、まぁそれも狙いではあるんだけど、吉崎くんにも用事があってね?」

「ん? 本気でどういう用事?」

「えっと、私の事をメンバーの人が警戒してるって言ってたじゃない? それって、あのクマの子……サヤさんだったり?」

「あー、誰かは簡単に分かるか……」


 あからさまに警戒心を向けていたのはサヤだし、まぁ警戒された側としても丸分かりかー。晴香の方は……変な事を言ってたけど、あれは無視でいいのか? うーん、なんとも言えん。


「うーん、いきなり踏み込み過ぎるのもどうかと思うんだけど……あの子と吉崎くんってリアルで知り合いだったり?」

「あー、その辺は……」


 サヤの本名もリアルの顔も、我が家のVR空間越しではあるけど知ってはいる。晴香やヨッシさんとの関係性も考えたら、まぁリアルでの知り合いではないというのはちょっと微妙なラインだよな。ゲーム内だけでの関係性って言うなら、それこそアルみたいなもんだろうし……。


「って、それは教えられるか! 思いっきり個人情報だからな!?」

「あ、そういやそうだった!?」


 本気で忘れてたっぽい反応だけど、サヤがリアルで俺の近場にいる相手だと思って探りを入れてきた? 俺への勧誘じゃなくて、サヤの事を探るのが目的?

 でも、なんでそんな事をする必要がある? もしサヤが同じ高校だという情報でも持ってて部活への勧誘するならともかく、どこの誰かも知らないはずだよな。


「ちょっと待って! 今のは間違いなく私の聞き方が悪かったけど、それで警戒心を上げて距離を取らないでー!?」

「……だから、目立つからボリュームを下げてくれって」

「……ごめんなさい!」


 悪いと思ってるのは本当そうだけど、狙いが全然分からん! 過剰に警戒心を持たれたのを不快に思ってて、サヤに対して何かしようとでもしてる?

 もしそうだとしたら、晴香の警戒の意味も分かってくるよな。……これは、相沢さんとは徹底的に距離を取る方が正解か? ゲーム内で会ったとしても、悪いけど無視していく方が――


「何か盛大に誤解が発生してる気がする!? 無言でどんどん距離を取らないでー!?」

「……何やってんの、圭吾? 相沢さんも、何があったんだ?」

「いや、俺のPTメンバーのリアルに探りを入れてきたもんで……」

「あー、そりゃ圭吾が警戒するヤツだなー。……相沢さん、それはやめとけ!」


 自転車を取ってきた慎也が来たけど、流石は何度も余計な事をしただけはあるな。最近も、意図せずとはいえ俺の個人情報を暴露しただけはある。……というか、今の状況の原因って慎也じゃね?


「そこ、誤解がある!? 私が知りたかったのは素性じゃなくて、あの子と吉崎くんとの関係性!」

「ん? どういう話だ、これ?」

「……はい? 関係性って、同じゲームやってる固定PTのメンバーなんだけど……」

「それだけとも思えなかったから聞いたんだけど……それ以上は個人情報なのを失念してました。そこは素直にごめんなさい……」

「……本当にそれだけか? 何かしようって考えてるなら――」

「考えてないよ!? なんか話がどんどん変な方向に行ってない!? 佐山くんこういう時ってどうすればいいの!?」

「あー、とりあえず場所を変えね? 滅茶苦茶、目立ってるし」

「……慎也にしてはナイスアイデアだな」

「わー!? 私が奇異の目で見られてる!?」


 まぁそりゃ変な目で見られて当然だよな、この状況。大して親しい訳でもないのに、急にゲーム関係での友人のリアル情報を聞き出そうとしてきてるんだからさ。

 何度か声がデカいって言ってるのに、それが収まる気配もない。……なんか痴話喧嘩とか聞こえてきてるのが、すげぇ居心地悪いし! この状況で警戒するなって方が無理だろ。


「痴話喧嘩とか、そういうのじゃないから!? わー!? 生暖かい目で見ないでー!?」


 視線に耐えきれなくなったのか蹲ってしまった相沢さんだけど……おいこら、俺が悪いみたいな視線はやめてもらおうか!


「なんかよく分からんけど、早めに移動しねぇ? 流石に居心地が悪いぞ?」

「……それもそうだな」


 俺としてはもう放置で良いような気もしてるけど、流石にそういう訳にもいかないか。はぁ、何がどうしてこうなった……。



 ◇ ◇ ◇



 とりあえず場所を変えて、スーパーへと移動中。……一ヶ所に留まらず、歩きながらなら少しは目立たずに済むだろ。さて、いい加減ややこしい状態を解消したいから、回りくどいのは無しでいこうか。


「正直に言おう。ぶっちゃけ、かなり今の状況は面倒くさい」

「吉崎くん、直球過ぎない!? 正直、私も自分が今思いっきり面倒な事をしてる自覚はあるけど! うぅ……でも、流石にこれは踏み込み過ぎだしなぁ……」


 自覚あったんかーい! てか、踏み込み過ぎ? 相沢さんは一体、何を聞こうとしてるんだ?


「えぇい、こうなれば最終手段! 佐山くん、ちょいとこっちへ!」

「ん? なんで俺?」

「慎也、余計な事を言ったらぶっ飛ばすからな」

「怖ぇよ、圭吾!?」

「そうはならないから大丈夫!」

「……へぇ?」


 どうも俺には聞けなくて、慎也には聞ける内容があるらしいなー? 何を聞くのか知らんけど、まぁそれなら後から慎也から聞き出せばいい事か。


「俺を生贄にしようとしてねぇ!?」

「してない、してない! 場合によったら変な横槍になりかねないから、遠回しにやってるの! それでなんだけど……」

「……ほうほう? ふむ……」


 途中から小声になって慎也の相槌くらいしか聞こえなくなったけど、横槍って何の話だ?


「あー、なるほどなー。おし、だったら俺が聞いてやる!」

「えっ!? ちょ、それは待っ――」

「圭吾って、彼女いんの?」

「あー…………うん、もういいや。その辺はどうなの、吉崎くん!」

「……はい? どうしてそういう話になった!?」


 そういや晴香も俺に彼女がどうとかいう話をしてたけど、なぜ相沢さんがそこを気にしてくる!?


「んー、その反応的にはいなさそうだねー?」

「いやまぁ、確かにいないけど……」

「なるほど、なるほど。なんとなく私が警戒された理由が分かったかも。あ、そろそろバイトの面接の時間! ごめん、それじゃ私は行くねー!」

「はい!? ちょ、こんな中途半端な状況で!?」


 なんかあっという間に駆け抜けていったけど、冗談抜きで一体何がどうなったの、これ? え、俺に彼女がいるかどうかと、サヤのリアル情報を聞き出そうとしたのに何か関係があった?


 あー、サヤがこの近くに住んでる俺の彼女という可能性を考えて、それで同級生の女子って事で警戒されたと思ってたとか? そうじゃないと分かったから、相沢さんとしては納得した? ……本当にこの解釈でいいのか、この件。

 いや、それだとサヤや晴香の警戒心の方がよく分からない状況になってくるけど……慎也はさっき何か聞いてたりするのかもしれないし、ちょっと聞いてみるか。


「慎也、これって一体どういう状況?」

「サヤさんの反応が、圭吾のリアルの近くに現れた相沢さんの存在を気にしてた結果っていう話だなー」

「あー、なるほど。……それが何でまた彼女って話に?」

「そこまでは俺は知らん! 俺だって彼女とかいた事ねぇし」

「……なるほどなー」


 うーん、サヤが相沢さんの存在を気にするねぇ? 確かに仲間外れを気にしてたりする事はあるから、俺とリアルでの交流がある相手を気にするのは分からなくもない。

 慎也もその条件には該当するけど、俺の扱い的に気にしてないだけ? 他のリアルでの知り合いパターンがないから、参考にならんがな!


 もしくは……あー、いや、その可能性は間違ってたら俺の恥ずかしい自惚れになるだけだ。状況次第では晴香たち3人が仲良く過ごせている状況を壊しかねないし……変に自意識過剰で考えない方がいい。


「……とりあえず、俺も用事を済ませてくるかー」

「そういや圭吾の用事ってなんだ?」

「んー、夏休み中のアルバイト先の候補探し」

「え、圭吾、今年もアルバイトすんの!?」

「まぁどうせずっとフルダイブは出来ないしなー」


 夏休み中はフルダイブのゲーム以外で他の娯楽をするのもありだけど、まぁ結構な時間はゲームをやってるんだし、それ以外の時間は有効活用しないとなー。

 まぁそれこそ彼女でもいたら、色々と変わってくるんだろうけど。……とりあえずまだアルバイト募集の空きがあるか、聞いてこよ。

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