第1220話 浄化の要所での激突


 青の群集の本隊を海の人達との連携で迎撃していたと思ったら、真上から闇の操作で夜の闇に紛れての強襲。どうもストームでの破壊がスムーズにいかないし、破片の残り具合から使っているのは魔法で生成したものではなく天然産の岩!

 しかも、どう考えても巨大すぎるんだけど、この大量の岩の塊! クジラより大きくて内側で戦闘が出来るって無茶苦茶過ぎるわ!


 でも、その違和感にはみんなが気付いて対処に動くはず。俺は、明らか不自然な形で待ち受けていたジェイさんと斬雨さんのコンビを抑えるのみ! 可能ならぶっ倒すけどな!


「ちっ、これだけ揺れてると狙いが安定しねぇ……。ジェイ、悪いが俺に掴まるのはここまでだ!」

「……流石に仕方ありませんね。『移動操作制御』! お願いしますよ、次の一手」

「おう! こいつは確実に当ててやるよ! 『大型化』『白の刻印:守護』『断風』!」

「その前にぶっ倒すから、関係ないけどな!」

「言ってくれますね! 『略:ファイアボム』!」


 カニのハサミで斬雨さんを挟んでぶら下がってたジェイさんだけど、一時的に別の足場を用意したか。あれは速攻破壊したいとこだけど……流石はジェイさん!? ピンポイントで回避不可能な位置、しかもコケの方に当たるように放ってきやがった! だったら、これでどうだ!


<行動値8と魔力値24消費して『水魔法Lv8:アクアディヒュース』を発動します> 行動値 93/111(上限値使用:10): 魔力値 272/302


 俺を中心に、水の膜を拡大するように展開! よし、ファイアボムは誘発させて着弾前に発動させたし、さっきまでは殴り飛ばしたけど邪魔になっている砕けた岩の大量の残骸もまとめて吹き飛ばせた。

 このままジェイさんが自分の足場として作った岩もこれで一緒に消し飛ばすまで!


「させませんよ! 『略:アースウォール』!」

「そんなに甘い訳もないか!」


 でも、邪魔な岩の残骸を吹き飛ばせたので十分! それにしても……2人発動でのストームでも破壊しきれないって、どういう状況だ、これ! あー、そうしてる間に効果時間が切れかかってるのか、威力が一気に弱ってきた!?

 残骸が出来ている以上、破壊そのものが全然出来てない訳じゃない。でも、まだジェイさんと斬雨さんの側面にも上部にも岩が残っている。……これは一体、何を仕込んでる? ちょっとカマをかけてみるか。


「……あぁ、そういう事か。だったら――」

「っ!? 斬雨、私が時間を稼ぎますから、確実に斬って下さい! 『並列制御』『共生指示:登録1』『共生指示:登録3』!」

「分かってらぁ!」


 即座に魔法砲撃にした……これはファイアストームか。これで俺を焼き殺そうって狙いっぽいな。でも、大急ぎで回避する必要も、昇華魔法で相殺する必要も今はない! この状況で、風音さんが大人しくしている訳がないからな!


「風音さん!」

「……富岳さんも……いる! ……『アブソーブ・ファイア』」

「へぇ、こりゃ回復に丁度いいな! 『アブソーブ・ウィンド』!」

「くっ!? 火と風のアブソーブ持ちが揃ってですか!?」


 下から急加速してきた風音さんと、その背に乗った富岳さんの2人がかりでジェイさんの2人発動に相当するファイアストームは消し去った。

 それどころか、富岳さんはさっきのストームで使い切った魔力値を回復出来た上に、風音さんは過剰魔力値を得た状況だ。ははっ、これはデカいぞ!


「さーて、俺は外に回るから、ここはケイさん達に任せるぜ!」

「おうよ! ありがとな、富岳さん!」

「丁度いい回復になったし、いいってもんよ! 何かあるのは明白だし、とっととぶっ潰せってリーダーからの伝言だ! ……敵の支援種も行方不明だとよ」

「ほいよっと!」

 

 ベスタから指示が出てたっぽいけど、そこは聞いてる余裕はなかったからなー! さーて、サラッと流すようにしたけど、なんか重要情報を伝えられた気がする。

 敵の支援種って事は、カレンが行方不明? それがこの状況と何か関係がある? ……詳しい状況を聞きたいけど、今の状況じゃ無理か。


 それにしても……ジェイさんの反応、なんか妙だな? 2人ともアブソーブ系スキルを見せたのは今が初めてじゃないはずだけど……その辺の情報共有が出来ていない? まぁあの乱戦中だったし、そこまで個人の詳細情報を把握し切るだけの時間は確保出来ないか。いや、それよりも大事な作戦を動かしてたとか?

 そもそも俺のハッタリの一言に、過剰に反応して焦って動き過ぎた様子もある。これは何か確実に仕込んでいるし、それを1発で崩す手段も存在してるな? その手段は……一体何だ? そもそも何を隠している? この状況で隠すなら攻め込む為の戦力の可能性が高いけど、それならもう投入してもいいような――


「そこなのさー! 『狙撃』!」

「おわっ!? っと、危ねぇな!?」

「……ギリギリ避けましたが、異常に早い狙撃ですね。それに……お揃いですか、灰の暴走種の皆さんと風音さん」

「……ジェイは……潰すと……言ったはず!」

「そもそもやってきたのは、そっちかな!」


 気付けば、下からアルに乗ってみんなが上ってきている。この感じだと、ベスタが異変に気付いて、内側の対処を俺らのPTに回したってとこだな。外は、それほど大変って程でもないっぽいね。


 まぁあれだけ海水と雷を落とせばそうもなるだろうけど……あれは本隊とは思えなくなってきた。

 本命はどう考えても色々と下準備に手間がかかってそうな、この大量の岩の塊だけど……よく観察してみたら、石垣みたいに組んでるんだよな。ストームで破壊出来たのはどの程度だ?


 この岩の塊だけで浄化の要所を覆い切るだけの質量はありそうな気がする。それをここに被せて、増援を断って内部で各個撃破するのが狙いか? でも、それならもう落下させて俺らを閉じ込めてしまえばいいけど、なぜそうしない?


 そもそも、この規模の操作をどうやってしている? どう考えてもただの昇華だけで扱える範囲を超えているはず。大人数で分担して支えているのか……あるいは、情報のない操作系スキルがLv10へと到達した時の何らかのスキルの効果か?


「どうやら先ほどのはハッタリのようですね、ケイさん」

「さて、どうだかなー? 1番効果的なタイミングを狙ってるだけかもよ?」

「……まぁそういう事にしておきましょうか! 『アースクラスター』!」

「……させない! 『並列制御』『ファイアディヒュース』『ブラックホール』!」


 おぉ、無作為に落ちてくる石弾を拡散させた火で弱めた上で、ブラックホール吸い込んでるよ。真上から放つクラスター系の魔法も地味に厄介だけど、上手く風音さんが凌いでくれたな。


「風音さんとハーレさんで、しばらくジェイさんの攻撃を凌いでくれ!」

「了解です!」

「……任せて!」

「ヨッシさん、微毒でポイズンクリエイト。まずは斬雨さんとジェイさんの乗っているあの足場を壊す!」

「了解! 『ポイズンクリエイト』!」


 ダメージ判定が少しでも出れば、移動操作制御で作った足場は消え去るからな。微毒で生成した岩に効果があるのかは知らないけど、駄目なら駄目でも問題はない! 狙いはそれだけじゃなくて他にもあるしな!


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 92/111(上限値使用:10): 魔力値 269/302


 よし、岩の塊の内部にポイズンミストが広がっていく。……これ自体では、移動操作制御のキャンセルは不可能っぽいか。地味に初めて試して知ったけど、今後の参考にしとこ。


「私が増殖を組み込んでいる事に期待していましたか? ケイさんのその岩の鎧のようなコケの増殖も組み込んだ物であれば確かに効果はありますが、残念でしたね! 『白の刻印:守護』『並列制御』『サンドショット』『アースクラスター』!」

「……火力で……消し飛ばす! 『白の刻印:増幅』『フレイムランス』」

「魔法砲撃で狙っても、当てさせないのさー! 『狙撃』『狙撃』『狙撃』『狙撃』!」

「流石に数が多いから俺も手伝うぞ! いいな、ケイ!」

「任せる、アル! ヨッシさんもそっちを頼む!」

「おうよ! 『シーウォーターインパクト』!」

「了解! ハチ2号、3号、『攻撃行動』! それと『アイスインパクト』!」

「海水魔法!? アルマースさんのその姿……やはり! それに強化統率ですか!?」


 アルの持ってる特性の『汽水』の事は知ってるみたいだけど、今はいいや。何気に移動操作制御の中に、ダメージ判定に関わるものがあればアウトって事が分かった。

 ヨッシさんが動けるようにポイズンミストは解除したけど、その役割は終えた。なんだかんだでストームでこの大量の岩の塊を壊しまくってたのは意味があったみたいだし、あとはこれで最終確認だな。


<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します>  行動値 87/111(上限値使用:10)


 なるほど、この岩の塊の上……いや、正確には上部の内部ってとこか? それより上に灰の群集の反応がある。あんまりしっかりと人数を数えてる暇はないけど、ざっくり人数としては10人くらい? その中の反応でその真ん中の反応だけは、動きがなんか変だ。なんか決まった動きを繰り返すように、行ったり来たりという反応。

 というか、さっきのポイズンミストで岩の塊の隙間から獲物察知封じを破ったというのに、全体的に妙なほど落ち着き過ぎている。いや、急にさっきの妙な動きの反応に似せるような動き方を何人かし始めた!?


「あと少し……早く溜れ! 全員まとめて、ぶった斬ってやる!」

「させるかっての! サヤ、一緒に来てくれ!」

「分かったかな!」

「はっ! 今から突っ込んできても、キャンセルは出来ねぇよ!」


 そんなもん承知の上だっての! 根本的に白の刻印の守護を使われた時点で、斬雨さんのチャージを妨害する事は不可能なんだから諦めてる! 地味にこの応用複合スキルの『断風』で、普通の応用スキルのLv3相当の緑色が混ざった銀光の明滅が発生してるから、斬雨さんの切り札なんだろうな。

 チャージ時間がこれまでのに比べると長くなってる気がするけど、それがこれのデメリット要素か? でも、その分だけ威力や追加効果の方が強力になってそうだ。


 シンプルに考えれば避けるべきなんだろうけど、それをさせない為のジェイさんの魔法砲撃によるアースクラスターと、この周囲の岩の塊……?

 あぁ、そうか。そういう側面もあるんだろうけど、さっきの獲物察知の反応と富岳さんがくれた伝言が噛み合って、段々と狙いが見えてきた。ここでその切り札を使うべき理由……そして、ジェイさん達が何を隠しているのか。


 確定するには……もう一回、カマをかけてみるか。これがもし思ってる通りなら、取るべき手段は限られてくる。対処をされる前に、強引に押し切るくらいしかないからな!


「ジェイさん、その上にカレンを隠してるな? 後は戦力を1PT分と、土の操作Lv10持ち辺りもか? 人数としては10人程度?」

「っ!? いえ、気付かれても押し切るまで! 斬雨!」

「分かってる! おらよ!」


 ははっ、群集支援種のカレンかどうかはカマをかけたけど、想像通りで大当たり! ジェイさん達が排除すべきはもう俺達のPTだけで、この岩の塊の外には眼中にない訳だ!

 隠れているのはカレンだけじゃなく、俺らのPTを殲滅するのに多過ぎない程度にそれが可能な人数。俺ら……いや、正確には浄化の要所の真上に陣取っている一番邪魔なアルを仕留めて、あそこを空ける事。斬雨さんの狙いはそれだ。


 完全に振り下ろされた斬雨さんの銀光を纏う風の刃が、飛行鎧で飛ぶ俺と、竜にしがみついて飛ぶサヤへと迫っている。


「ケイ、ここは私が――」

「いいや、サヤは追撃で!」

「っ!? 分かったかな!」


 サヤに俺の意図が伝わったかは分からないけど、それでも俺を信用して任せてくれたか! でも、呑気にしてたらすぐに攻撃が届くから、大急ぎで!


<行動値上限を2使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 87/111 → 87/109(上限値使用:12)


 普通に加速したんじゃ間に合わないから、水のカーペットを真下に展開。これの反発力を高めてトランポリンの要領で……斬雨さんの元に向かって発射!


「速い!?」

「なっ!? このタイミングで俺自体を狙って――」


 通り過ぎないように……でも、斬雨さん自身の刃の向きを間違えて掴んで斬られないように……よし、今!


<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>

<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 87/109 → 87/115(上限値使用:6)


 一気に最大まで加速して止まる事なくそのまま斬雨さんに激突したけど、飛行鎧が解除になったのは想定通りだから問題ない! キャンセルになった分が防御代わりになって斬られなかったしな! てか、今ので減速する調整までしてられるか! 

 さーて、博打にはなるんだけど、物理と魔法の両方の効果を持ってるなら効果自体はあるはず! 白の刻印と違って、これには『次に』という指定はなかったからな! とにかく今はこれをくらえ!


「斬雨! すぐに振り解いて――」

「もう遅い!」


<行動値を5消費して『黒の刻印:非力』を発動します>  行動値 82/115(上限値使用:6)


 ロブスターのハサミを叩きつけて、斬雨さんに黒の刻印を刻み込む! よし、黒い剣が折れたようなマークが出たから、効果が出たはず!


「『非力』の黒の刻印だと!?」

「くっ!? それでは威力が!」

「アル! それでもう防ぎ切れるはずだ!」

「そう願うぜ! 『ルートウォール』!」


 狙いは明確にアルの木で……よし、完全に防ぎ切れた! 何かに当たってダメージ判定が出る前なら、ギリギリでも黒の刻印での威力ダウンは有効! 斬雨さんは物理型だから、魔法ダメージの威力はアルには遠く及ばないし物理ダメージだけ下げてしまえばどうにかいけた!


「またアルマースさんを斬り損ねかよ! だったら、代わりにケイさんを――」

「そうはさせないかな! 『爪刃乱舞』!」

「それはこちらの台詞ですよ!」

「おい、ジェイ!? 冷静さを欠く――」

「……余所見は……許さない!」

「しまっ――」

「ジェイ!?」


 なんか斬雨さんにハサミで挟んでぶら下がってる間に、ジェイさんのコケが風音さんのフレイムランスに刺し貫かれて焼け落ちて……それと同時に土台のカニの方もポリゴンとなって砕け散っていった。

 うん、今のは俺がすぐ真横まで行ってた事を意識し過ぎた、ジェイさんの完全な判断ミスだな。まぁ風音さんは満足したみたいだし、これは結果オーライ?


 ともかく後は斬雨さんを倒して、上に隠れている連中とカレンをどうにかしていきますか! とりあえず斬られたら危ないし、今のうちに水のカーペットに飛び移っとこ。解除する暇がなかっただけだけど、展開しといてよかったもんだね。

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