第1215話 脅威の排除


 増援となる2班は、もうすぐそこまで迫ってきている。風雷コンビは普通に避けてくれているけど……指示を聞くのか聞かないのか、どっちだよ! 今のところは邪魔にはなってないし、むしろ上手く回ってるけど、本格的に作戦に組み込むには本当に扱いにくいな!?

 えぇい、今は風雷コンビの事を考えてる場合じゃない。銀光と白光を放ちながら迫ってくるサメの対処に動いている富岳さんとディールさんの動きと、危機察知回避の狙撃をする相手を見つけたレナさんとハーレさんと風音さんの動きがどうなるか……。


「ケイさん、アルマースさん! 余裕がありそうだし、2人でそれぞれに水での減速を頼む! 俺らもこのまま加勢する事になったからよ!」

「ほいよ、森守りさん! アルはスザクさんの方を頼む!」

「おうよ! ケイ、間違っても昇華魔法にするんじゃねぇぞ! 『アクアクリエイト』『水の操作』!」

「こんなとこで、そんなミスをしてられるか!」


 巨大コンブの中から顔を出してきてる森守りさんが大声で伝えてきた内容だけど、事前に言ってなかったって事は状況を見ての判断なんだろうな。そんでもって、森守りさん達もこっちに参戦か!

 まぁ移動をさせるだけで終わりじゃ、ミヤ・マサの森林を拠点にしてる共同体としては納得もいかないよな! 元々、状況次第ではそういう風に組み込む予定だったんだろうね。


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 119/120(上限値使用:1): 魔力値 299/302


 なんか皮肉な話だけど、行動値も魔力値も尽きまくって大変な事になると思ってたのに、逆に余りまくるとは……。まぁいいや、今はこれが大事な状況だしね!


<行動値を3消費して『水の操作Lv7』を発動します>  行動値 116/120(上限値使用:1)


 反発力を強くし過ぎて吹っ飛ばしても困るから、適度に抑え気味にして……よし、巨大コンブの人が着水! 操作時間は一気に削れたけど、その分だけ衝撃はかなり削げたはず。

 アルの生成した水の方でも、巨大なカメのスザクさんが着水して無事に到着だな。えーと、2班のリーダーは確かサボテンの人のはず。サボテンではあったけど、知ってるシンさんではなかったのは覚えてる。


 えーと、包み込んでコンブが広がって、中から2班のリーダーのサボテンの人が出てきたけど……すごい移動の仕方だな。まぁクジラの背の上に乗って吹き飛んでき俺らの言う事ではない気もするけど。

 サボテンの人は……『サッポロ』さんか。北海道に住んでるとか、そういう事だったりするんだろうか? んー、まぁ由来は今はいいや。流石に初対面だらけの2班のメンバー全員の名前を覚えるのは厳しいけど、リーダーの名前くらいはちゃんと把握しとかないとな。


「2班、到着だ! 1班は少し気を緩めて……って言いたいが、あれらが終わってからか」

「だなー。みんな、今の戦闘が終わるまでは警戒を継続! 2班の人達も、隙間を埋める形でフォローしてくれ!」


 その言葉に返事こそないものの、1班のみんなや2班の人達も頷いてくれている。2班の人と交代して少し気を緩めるとしても、まだ少し早い! 現状では2戦ほど終わっていないしね。


「乗ってくんなよ、このカンガルーとヘビが! これならチャージをキャンセルされた方がマシじゃねぇか!」

「それはそれは、随分な褒め言葉をありがとよ! お礼にもう1発、『ポイズンクラスター』!」

「そんな礼はいらんわ!」


 おー、吹っ飛んでくる攻撃を仕掛けてきたサメに、富岳さんの小さなカンガルーがしがみついて、そこから更に至近距離からの魔法砲撃でのポイズンクラスターか。あれは毒の種類は選べないって話だったけど、あの至近距離から全弾当てられたら受けてる毒の種類はとんでもない事になってそうだ。


「そろそろいくぜ! 『双打連破』!」

「おわっ!? くっそ! がはっ!」

「富岳、使え! 『アースクリエイト』『土の操作』!」

「助かる! これで、くたばれ!」

「これのどこが疲弊してんだよ、クソッタレ!」


 おぉ、この前見た富岳さんの2体のカンガルーによる双打連破での挟み討ちを、ディールさんが補佐してやった感じか。何気に吹き飛ばし効果と遠隔同調の両方を最大限活用した、恐ろしいコンボ!

 それに白の刻印の守護にはああいう弱点もあるんだな。チャージのキャンセルを防げるけど、逆にそれで他に何も出来なくなるとは。まぁ吹っ飛んでる最中の空中だったのも大きいだろうけどさ。


 ともかくサメのHPが全て無くなってポリゴンとなって砕け散っていったから、討伐完了。……それにしても、最後の捨て言葉が気になるところ。

 俺らの疲弊を狙ってるのは間違いないみたいだけど、監視がいなくなって正確な情報を把握出来なくなってる? でも、少なくともあの風雷コンビの暴れっぷりで、疲弊してる状況だとは判断しないような気が……。


 いや、待て。敵の最後の捨て台詞をそのまま鵜呑みにしてどうする! 本当に疲弊してると思ってるなら、俺ならもっと大人数で攻め込ませるし……今のはダミー情報か?


「富岳、ちょっと今のは早かったんじゃね? 俺が足場を作ってなきゃ、微妙に返してくる吹っ飛ばしが届いてなかったぜ?」

「……少し焦って見誤ったか? いや、速度自体も実際に遅かった気がするし……ケイさん、その辺に心当たりはないか?」

「あー、音の割に遅かった理由か……」


 ふむ、そこは俺も少し気になった部分だけど、4方向から同時に聞こえた爆発音はスチームエクスプロージョンのものだと思って間違いない。魔力値の消費量で多少の規模の差は出るから、全く同じ音量にはならないし、地形の影響も受けるはず。

 音はスルーするにしても、あれだけ明確に速度に変化が出るなら、何かであえて減速させて……あ、違う!


「そもそも魔法砲撃にしてなかった……? いや、出来なかった?」

「あぁ、そうか。使えるのが当たり前に感じてたが、魔法砲撃にするなら1人で発動する必要があるんだったか。それなら想定ほどの速度が出てなくてもおかしくないな」

「そうなるはず。……あちこちで、俺達の意識を逸らす為にスチームエクスプロージョンの発動を用意してる?」


 さっきだって、どう考えても4ヶ所同時の爆発音は狙って重ねてきてたはず。全てで何も無ければスルーも出来たけど、2ヶ所は緩いとはいえ攻撃を仕掛けてきていた。


「ケイ、そう考えさせるのが作戦という可能性も忘れるな。どこの戦場で、誰がどう昇華魔法を使うのかも分からんぞ」

「……そりゃそうだ。その辺はちゃんと考慮に入れとかないとな」


 ベスタから注意されたけど、そういう普通の戦闘音にすら必要以上に警戒させる為というのは十分考えられる。戦ってるのは俺らがいる場所だけじゃないし、むしろ集中力を削られる状況を作られた俺らよりも、他の所の方が戦闘としては激しいはず。

 あー、この辺の分析は完全に交代が出来てからにしよう。分析をするにしても他の場所の戦況を把握したいとこだし、その辺の情報も必須になってくるはず。だから、3班も合流してから――


「……何? ちっ、青の群集の狙いはそこか! 一応は凌いだが、カトレアのランダムリスポーン先を急いで見つけ出さないとまずいか……」


 おわっ!? 少し大きくなったベスタの声にちょっとびっくりした!? え、今カトレアのランダムリスポーン先を探せって……追い込まれてるのか、カトレアの防衛班!?

 3班もここまで来て予定のメンバーが揃ってからベスタに聞こうと思ってたけど、今の情報はスルー出来るか! くっ、俺らへの攻撃が手薄なのは、そもそも辿り着かせる気がないって事かよ!


「ベスタ、カトレアが仕留められたのか!?」

「……いや、状況的には仕留めさせたという方が正解だ。今、競争クエスト情報板の方に捜索指示は出したが……この状況はあまりよくないな」

「……仕留めさせた?」

「最初にここが襲われたという事は話しただろう? その時に成長体や未成体のプレイヤーの多くが仕留められててな。それで浄化の守りの強化が思った通りに進まずにいたんだが……完全に包囲されて膠着状態に持ち込まれる前に、暴発と敵の攻撃を利用してランダムリスポーンで退避させた。そもそもカトレアを発見した位置が離れていたというのもあったからな」

「あ、そういう状況か!」

「どう合流させて強化させるか考えてもいたが、これで状況はよくも悪くもリセットだ。幸い、青の群集のカレンもそれなりに遠くにいるからな」

「……なるほど」


 決して良い状態とも言えないけど、それでも詰む可能性からは脱却出来た訳か。どこにランダムリスポーンしたかにもよるんだろうけど、それを再び探すとこから――


「ん? 何かランダムリスポーンで現れたようだな? なぁ、疾風の?」

「確かに急に出てきたけど……これってあれじゃねぇか? なぁ、迅雷の?」

「あー!? 今のケイさんの話に出てた、カトレアがすぐ近くにリスポーンしてるのです!」

「なっ!? カトレアがこの近くに!?」

「折角逃げ回ってたのに、それに反応して隙だらけだね! えいや!」

「しまっ!?」

「およ? 今のを躱されるとは思わなかったんだけど……『連脚撃』! ……中々しつこいね!」

「はっ! 遠距離からの狙撃だけにしか能がないとは思われたくはねぇからな!」


 さっきまではしっかりと見える状態じゃなかったから分からなかったけど、レナさんの猛攻の蹴りから逃げ回っているのは、例の黒いリスのスミか! 体表面の黒いコケが全然見当たらないし、見えにくい位置に隠している?


「おらよ! 『増殖』『スリップ』!」

「およっ!? わわっ! この!」


 げっ!? あのレナさんが、コケで滑らされた!? 背を向けて逃げてる状況でそれって……あぁ、そういう事か。だったら、ここは俺の出番だな。


「……ベスタ、スミとレナさん達が交戦中。俺も加わるから、詳細は後で」

「了解だ。厄介なのは、どこかに飛ばしておけ」

「ほいよっと」


 小声でベスタに連絡は終わり。さーて、それじゃ散々やられた分をやりかえさせてもらおうか! その前に下準備でこっちを発動! アルのクジラの背の上からなら、斬り倒されまくった木々の中は見えるよな。


<行動値を4消費して『群体化Lv4』を発動します>  行動値 116/120(上限値使用:1)


 あのスミというリスの人が、コケとの同調だという事は判明済み。俺がここにいるのは把握してるだろうに、レナさんから逃げるのと、カトレアの情報で焦ったな? コケ相手には、コケが有効だって事を!

 よし、群体化が不可能なコケの位置は把握完了。あちこちに散らばせるほどの余裕はないみたいで、ほんの少しだけある程度。それも1ヶ所ずつは最小限の群体数で、警戒心を薄めさせるのが目的か。でもまぁ、遠隔同調で核を切り離してるのは失敗だったな!


「風音さん、俺の合図と同時に炎の操作でスミを丸焼きに出来るようにしつつ、レナさんと一緒にそのまま追い込んでくれ。俺の方で邪魔なコケは排除する。ハーレさん、さっきのカトレアの件は嘘でいいからダミーだって言って混乱させてやれ。返事はなしで、即座に作戦開始!」


 全て小声で指示を出して、みんながその通りに動いてくれる事を信じるのみ! 俺は俺のやるべき事をやるのみだ!


「ふっふっふ、風雷コンビのダミー情報に踊らされてるのさー! 明確に隙が出来てたのです!」

「何を言う!? 我らは嘘など言っておらぬぞ! なぁ、疾風の!?」

「そうだぜ! ここから北の近くの方に、カトレアが出てきたからな! なぁ、迅雷の!」

「だー! 今、それどころじゃねぇわ!」

「まぁ、確認しに行く暇なんか与えないから関係ないよね! 風音さん、畳みかけるよ! 『連脚・重撃衝』!」

「……これ以上……逃がさない! ……『魔法砲撃』『ファイアクラスター』」

「私もいくのさー! 『白の刻印:増加』『連速投擲』!」

「おわっ! 『増殖』『グリース』! ちっ!」


 おぉ、自分のコケで滑って今の猛攻を回避とかやるね! でも、グリースは可燃性だから風音さんに燃やされている。地味にコケの群体化を発動して群体を増やしたけど、新たな位置も把握。さて、俺も動くか。とりあえずこの群体化はせずに、ここでキャンセル。

 数は6ヶ所だし、群体数も少ないから一気に仕留められる範囲。もし死角で見つけられないのがあっても、それはそれで問題ない。その時でも大きな隙は出来るだろうから、レナさん達にリスの方を仕留めてもらうまで!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 119/120(上限値使用:1): 魔力値 299/302

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値2と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 117/120(上限値使用:1): 魔力値 296/302

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 気付かれたら、優位性が一気に無くなる。でも、魔力視で魔法の発動が事前察知出来るようになっているから、絶対に気付かれないというのは無理。


「……土属性の魔法の兆候? でも、位置が散らばって……って、この位置はまさか!?」

「もう遅い! 風音さん!」

「……焼き尽くす! ……『ファイアクリエイト』『炎の操作』!」


 これでリスの表面に残っている逃げ場は完全に封じれる。後は、俺がコケを潰すまで! これは時間との勝負! 思考操作、最大速度でいく!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を3消費して『土の操作Lv7』は並列発動の待機になります>  行動値 114/120(上限値使用:1)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を6消費して『土の操作Lv7』は並列発動の待機になります>  行動値 108/120(上限値使用:1)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 即座に平べったいけどゴツめな石を6個操作して、一気に群体化されていたコケをすり潰す! それよりほんの少し先に、スミは風音さんの炎に焼かれている。


「くそっ! まだ、これで終わりになるとは――」


 そこまで言ったところで、ポリゴンとなって砕け散っていった。同調ならログインしている側が仕留められたら死亡だから、今のはコケの方でログインしてたのか。

 それにしても、ジェイさんも厄介だけど、このスミって人も相当厄介だよな。逃げに徹していたとはいえ、ハーレさん、レナさん、風音さんの3人相手から逃げ切ってたとは……。あー、危機察知回避の狙撃自体も相当厄介だし、もう相手にしたくない!


「とりあえず、みんなお疲れ。サッポロさん、ちょっと色々と情報を整理したいから、交代をよろしく」

「おう、了解だ! 1班を囲むように配置に付いていけ!」


 2班のリーダーであるサボテンのサッポロさんの指示に従って、俺らを囲むように動いていく。あー、これは俺らが真ん中に集まっていた方がいいっぽいね。

 みんなもその動きを察して、移動をしていっている。風雷コンビだけは降りてくる気配がないんだけど……もうあそこは自由にさせとけばいいや。てか、カトレアの目撃情報の真偽って実際のとこ、どうなんだ?

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