第1211話 浄化の要所


 総力戦が開始になって早々に、大きな爆発音と共に銀光を放つ何かが飛んでいった事は確認済み。……具体的にどういうものかは今の段階では断定出来ないけど、青の群集が既に仕掛けてきているのだけは間違いない!

 今日は夜の日って事もあって、吹っ飛んでいく様子自体は目立っただろうなー。爆発音に反応してそっちの方を向いた時には、既に通り過ぎた後だったみたいだけど……。


「おし、ケイさん、チャージは終わったぞ!」

「ほいよっと! 出発の合図は森守りさんに任せていいか!? 多分、そっちの方がタイミングが取りやすいだろうし」

「おう、そこは任せとけ!」


 ジンベエさんのチャージが終わるまでの間に、龍3人へ加速要員の乗り込みも完了済み。強風の操作を使って加速するって話だったけど、スチームエクスプロージョンで吹っ飛ばすのと速度の差は……多少のズレは問題ないか。

 むしろ、ちょっと攻め込むタイミングにズレがあった方が、相手の方が対応しにくくなるはず!


「野郎ども、カウントダウンでいくぞ!」

「「「「「おう!」」」」」

「いくぞ、疾風の! 『高速飛翔』!」

「おうともよ、迅雷の! 『高速飛翔』!」

「……全力で……いく! ……『高速飛翔』」

「……3……2……1……0! 行ってこい!」

「「「『ウィンドクリエイト』『強風の操作』!」」」

「『魔法砲撃』『並列制御』『ファイアクリエイト』『アクアクリエイト』!」


 森守りさんのカウントダウンに合わせて、龍3人の方は強風の操作で飛び上がり、アルの上に乗ってる俺らはスチームエクスプロージョンで吹っ飛んでいく。何回もこの手段で吹っ飛んでると、色々と慣れてきたもんだな!

 今回は距離的に1回の発動で済むんだから、何度も発動しなくて済むのは助かる! さぁ、強襲開始と――


「およ!? あ、これはまずいかも!?」

「アルさん、真っ正面から狙われてるのです!」

「何!? ちっ、銀光が見えてるだと!?」

「ちょ!? また爆音……って、そういう狙いか!」


 ヤバい、ヤバい、ヤバい! 明らかにLv3辺りで発動されている銀光の明滅がある状態の相手が、少し控え気味とはいえ爆風でこっちに向かって吹っ飛んできた!


「ここで斬り落とさせてもらうぜ!」

「固定も破壊させてもらいましょうか! 『アブソーブ・アース』!」


 斬雨さんが大型化して銀光と白光を放ちながら斬りかかっているのと、今回は土台がカニのジェイさんが更にそこから全員を放り出すのを狙ってきたのは分かったけど……そんなもん、大人しく受けてたまるか!

 指示出しは……どう考えても間に合わないし、今はこれだ! 思考操作で急げ! 白の刻印は守護がかかってるみたいだから、キャンセル狙いは無理!


<行動値8と魔力値24消費して『水魔法Lv8:アクアディヒュース』を発動します> 行動値 112/120(上限値使用:1): 魔力値 278/302


 よし、これで俺を中心にして水の膜が広がって、少しは斬雨さんの勢いを削げる――


「させませんよ! 『略:鋏衝打』!」

「って、えぇ!?」


 ちょ、待っ!? ジェイさんがカニで、斬雨さんを俺らが進む先の上の方に殴り飛ばした!? やばっ!? 上に位置を変えられたら、アクアディヒュースで勢いを削いでも落下の勢いが増すだけで、何の役にも立ってない!?


「ジェイさん、乗っていいなんて言ってないのさー! 『魔力集中』『散弾投擲』!」

「落とさせないよ! 『ポイズンインパクト』!」

「まぁ、初手はこんなものですね」

「……ジェイ! ……絶対に……潰す!」

「私を倒すだけが目的なら、いくらでも。それでは」


 ちょ、何の躊躇いもなくあっさり過ぎるほどにジェイさんのコケが仕留められて、土台のカニもポリゴンになって砕け散っていったんだけど!? いや、今はジェイさんの狙いを探ってる暇はない!


「ジンベエさん、ちょっと早いけど落とすぞ!」

「了解だ! まとめてやられるのはマズい!」


 そう言って、アルがジンベエさんから根を離して投下していく。このままだと落下位置が想定よりかなりズレそうだけど……これは仕方ない。


「たまにはしっかりと斬られてくれよ、アルマースさんよ!」

「そんなもんはお断りだ! 『旋回』!」

「ちっ!」


 おぉ、ナイス、アル! 今の勢いで吹っ飛びながらでよく上に旋回して、斬雨さんのタチウオの頭部分を尾びれで叩くなんて真似が出来たな!

 って、これ、着地はどうすんの!? 地面に対して、クジラの背中が向いてるんだけど!?


 あ、ジンベエさん達が墜落して木々を薙ぎ倒していくのは見えた。よし、あの辺はミヤビが植ってたとこの手前くらいだから、浄化の要所のほんの少し前なはず!


「もう1発『旋回』だ! おし!」

「おわっ!? みんな、衝撃に注意!」


 アルがもう1回旋回をして元の向きに戻ったけど、もう森に突っ込む寸前! ジンベエさんは溜めてたから、それで森を壊して着地はしてたけど、こっちはそれはない!


「凌がれたか! だったら――」

「これ以上やらせるかよ! 『魔力集中』『跳躍』『双打連破』!」

「ちっ! 邪魔なカンガルーが!」


 なんか凄い音がしながら盛大に木が倒れていく音が聞こえたし、声や内容的に富岳さんがなんとかしてくれたっぽいけど、こっちはそれどころじゃない!?


 くっ! 着地の時は水を生成して衝撃を吸収しようかと考えてたけど、もう勢いよく森に突っ込んだ後じゃ意味がない! アルに落下ダメージ自体は入ってないし、固定もちゃんとされたままだから、このまま勢いが無くなるまでいくしかないか……。


「相変わらずの特攻か、斬雨」

「誰か…………ば、ジン…………ねぇか。へぇ、刹那……んだな」

「同じタチウオとして、負けられないのであるよ!」


 木々が倒れていく音で斬雨さんの声は正確には聞き取れない。どうもジンベエさんや刹那さんとは知り合いみたいな様子だけど……元々、斬雨さんとジェイさんとは、海エリアの競争クエストで猛威を奮ってた時に知り合ったんだから、不思議でもなんでもないか。


「……斬雨……ここで……倒す! ……『ファイアボム』」

「ここで仕留めるべきか……ちょっと悩むけどね! 『魔力集中』『連脚撃』! ケイさん、こっちは一時的にわたしが指示を出すよ!」

「任せた、レナさん!」


 そっちの状況をまともに把握出来る状況じゃないし、ここは全面的に任せるべきだな。無理なものは無理、それはハッキリとさせておいた方がいい……って、そう考えてる間に止まってくれたか!


「……止まったかな?」

「みたいだなー。アルは……大丈夫じゃなさそうだな」

「……地味にヤバいな。流石に頭を打ち過ぎて、朦朧になってやがる……」

「仕方ないから、サヤとハーレさんは周囲を警戒! ヨッシさんは俺と、アルの朦朧が回復するまで凌ぐぞ! もういつ、どういう形で襲ってくるか分からないしな!」

「了解! この状況は、いつ何が起こっても不思議じゃないもんね!」

「ハーレ、音には要注意かな!」

「また何かが吹っ飛んでくる可能性もあるのさー!」


 冗談抜きで、また吹っ飛んでの強襲はあり得る。あー、そうか。ジェイさんめ、随分あっさりと死んでいったけど無茶苦茶な攻撃方法を考えてきやがったな!? 生き残る気は皆無で、死に戻って何度も強襲を仕掛けてくるのが狙いか!

 もしそうだとするとランダムリスポーンで分断されるのが前提になるから……ジェイさんと斬雨さんは、今回はコンビとして動き続ける訳ではない? 狙う場所は分かっているから……あ、ヤバい。これって思った以上の攻勢があるかも? というか、誘い出されたか……?


 これはベスタに連絡をした方がいいけど……あ、その伝言は森林守り隊の人達に任せてしまおう。ここまで送ってくれる役目は終えたし、ここからは離れるはずだろうしさ。


「森林守り隊の人達は、合流しながら撤退してくれ! その時に余裕があったら、ベスタへの伝言を頼みたい!」

「撤退指示は了解だ! 伝言の内容は!?」

「ジェイさんと斬雨さんのカウンター狙いのさっきの攻撃の事と、最初にここまで飛んできた手段での強襲が全方位から来る可能性があるって伝えておいてくれ!」

「伝言内容、了解! 森林守り隊、一時撤退だ!」

「「「「おう!」」」」

「なっ!? てめぇら、撤退だと!?」

「追いかける余裕なんて与えないよ! 『双連蹴』!」

「おっと、相変わらずレナさんは危ねぇな! さて、この人数差はどうするか……」

「……ちょこまかと……避けてばかり! ……『ブラックホール』!」

「おわっ!? くっ!」


 アルが墜落時になぎ倒していった木々の先から、そんな声が聞こえてきている。流石に全員で斬雨さんを一斉に仕留めに動いている訳じゃないみたいだけど、少なくともレナさんと風音さんが同時に相手をしてるっぽい。


「風雷コンビ、森林守り隊の人達の撤退の補佐をお願い! ……わたしの言うこと、聞いてくれるよね?」

「それはもちろんだ! なぁ、疾風の!」

「当然だってのな! なぁ、迅雷の!」

「普段からそうだと、ありがたいんだけどねー! それにしても……凌ぐのが上手くなってるね、斬雨さん! さっきのまま大型化したいてくれた方が楽だったんだけど?」

「はっ! この人数差で的を大きくはしねぇよ! 『連閃舞・大断』!」

「およ!? ここで応用連携スキル!?」

「これは拙者が受けるのであるよ! 【数多に舞う銀閃よ、蓄えしその力を解き放て】!」

「相変わらずオリジナルで変な詠唱を作ってんのかよ、刹那!」

「変なとはなんであるか!? それは拙者の自由であるよ!」


 えーと、タチウオ同士で銀光をどんどん強めながら盛大に切り結んでいるけども……使ってるスキル自体は多分同じっぽい? 多分だけど、連閃と断刀での組み合わせの応用連携スキルってとこか。

 

 って、そっちの方ばっか気にしてても駄目だ! 他の周囲を確認して……とりあえず風雷コンビが、森林守り隊の人達の撤退誘導自体はしっかりと出来ているっぽい。

 近場ではまだ他に戦闘音は聞こえないし、一番ド派手だったのは俺らが吹っ飛んできた時の爆発音と、墜落した後の破壊音か……。あー、周辺の木々がもうボロボロになってるよ。


 浄化の要所は……あぁ、今、斬雨さんと戦ってる真下の辺りか。マップ上ではミヤビがいた場所って事で印が付いてるけど、こうして見てみると……穴を掘って、それを埋め直しただけの場所って感じか。

 元々浄化の要所があると知っていなければ、ここには辿り着けてないな。まぁ再戦エリアだからこそ、その辺はすぐに分かるけどさ。


「サヤ、ハーレさん、敵がいる様子は?」

「……今のところは、特にこれといってはないかな?」

「でも、開始位置から1発で飛んでこれるから、いくら警戒しても足りる事はないのです!」

「……だよなぁ」


 もう初手の段階から、盛大に仕掛け過ぎだろ! まぁ人の事は言えないような気はするけど、まさかカウンターを狙ってこられるとは思わなかった。


 ベスタが2班と3班をどういうタイミングで送り込んでくるか、その辺は注意しておかないといけないとこだな。俺がやるとするなら……今すぐに送り込むか、そうでないならここに向けての攻撃を確認した時。

 青の群集の動きを確認してからタイミングを決めるって話だったし、それを考えると取る手段は後者の可能性が高いか。でも、攻め込む手段は上空からだけじゃないから、周囲の索敵も疎かには出来ないな。


「ケイ、朦朧は回復したぞ」

「ほいよっと! それじゃ上空に移動して、俺らは周囲の警戒で! あんまり効果は期待しない方がいいだろうけど、1回俺が獲物察知を使ってみるわ」

「あれは妨害されたら意味がないもんね」

「まぁそれでもやらないよりマシって事で!」


 とりあえずアルに乗ったまま、上空へと移動は完了。周囲を見回せば……あー、火やら電気やらの光や、銀光もちょいちょい見えてるから、既にあちこちで戦闘は始まってるんだな。


「レナさん、斬雨さんを仕留める方はどうだ?」

「これ、時間稼ぎか、わたし達の消耗を狙う動きだね。強引に突破しようと思えば人数的には割と簡単だと思うけど……消耗覚悟で仕留めちゃう?」

「……まぁまだ仕留められてないって事は、そうだよな」


 普通に戦って倒す気でいるなら、もっと斬雨さんは大暴れをしているはず。でも、アルが攻撃を凌いでからは派手な攻撃もしてはいるけど、割と消極的っぽい様子。時間を稼ぐのが狙いなら、即座にでも倒した方がいい。でも、消耗を狙っているなら……一気に大技で仕留めるのは避けるべき。どっちが狙いだ?

 ジェイさんなら……両方に何か仕込んできそうだし考えるだけ無駄かもしれない。どっちにしても斬雨さんが他の人とPTを組んできてない訳がないから、状況は筒抜けと考えた方がいいな。……何かの合図を出されるのも覚悟した上で……。


「風音さんと富岳さんでストーム! それが済んだら素早く魔力値を回復!」

「……うん! ……いくよ……『共生指示:登録2』!」

「ま、継戦出来る程度に消耗を抑えるなら、こうなるわな! 『ウィンドクリエイト』!」


 あんまり初めの方から昇華魔法を使いたくはないけど、いつまでも斬雨さん相手に時間を稼がれる訳にもいかない。だからこそ、ここは魔力値が尽きても物理攻撃でいける富岳さんと、再使用時間で済む風音さんの2人での発動だ!


「ははっ、やっぱりそう簡単にほいほいと使い切っちゃくれねぇってか! ジェイ、第2段階のプランBを開始だ!」


 ちっ、やっぱり何か仕込んでたな!? それだけ言い残して斬雨さんも呆気なく死んで、ポリゴンとなって砕け散っていったか。……さて、何が来るか。


「全員、周囲を警戒! 何か飛んできたら、迎撃していくぞ!」


 返事こそないけど、緊迫感は一気に広がっていく。さぁ、来るなら来い! 元々、俺らはここを押さえて守り切るのが役目だ! 戦闘開始は思った以上に早かったけども、それ自体は想定通りだからな!

 

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